ソムリエのように焼酎の味わいや香りを上手に表現できたなら…! 三和研究所でお酒のおいしさを科学的に分析している井元さんに、焼酎の味わいや香りについて解説してもらいました。

お話をしてくれたのはこの方

三和酒類 井元 勇介さん

三和酒類株式会社
三和研究所 クロスオーバーセンター
井元 勇介(いもと ゆうすけ)さん

焼酎の味や香りは何で構成されている?

ひとくちに焼酎といっても麦焼酎、芋焼酎、米焼酎をはじめ、いろんな種類があります。原料の違いはもちろん同じ原料の焼酎でもつくり方によって味わいや香りは違います。花やフルーツの香り、麦チョコの香り、バニラを思わせる香り…そんな不思議な焼酎の味わいや香りについてお聞きします。

―そもそものお話なのですが、焼酎はどんな成分でできているのでしょうか?

井元 実は焼酎の成分は99%が水とエタノール(アルコール)です。残りの1%未満に味わいや香りの成分が含まれているんです。

―たった1%! そうとは思えないほど、飲むと味わいや香りを感じる気がします。どんな成分なのでしょうか?

井元 一般的な麦焼酎に含まれる成分のカテゴリーとしては、主に果実のような香りがするエステル、香ばしい香りのフラン化合物、チョコレート、草、シナモン、杏など多種多様な香りを生み出すアルデヒドなどが代表的でしょうか。でもまだ解明されていない香り成分も多くあると言われています。

―「いいちこ25度」の華やかな香りはフルーツに例えられたりしますが、それは「エステル」の香りということですか?

井元 主にそうですね。ただそれは、エステルが含まれている、というだけでなく、同時にエステルの香りを邪魔する香りを抑えることができていることも大事です。抑えすぎても香りに厚みや複雑さがなくなってしまうので、各工程でバランスをとりながら常に品質をアップデートしているんです。

―原料に大麦という農作物を扱うわけですから、そのバランスをとる作業は繊細なものなのではと推測しますが、どんな方法で確認するのですか?

井元 装置で数値を測定し分析する部分もありますし、人間による官能検査も行います。官能検査はできあがった商品を確認するだけでなく、各工程で行います。全国のお客様に一定した品質の商品がお届けできるよう、数値による分析と官能検査を駆使しています。

現在の分析装置の感度と人間の感度を比べると、人間の方が勝っている部分も多いですし、全体の印象を得られるのは人間の官能だけです。お客様が口に含むものなので、官能検査は大事ですね。

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―焼酎の味わいや香りは、製造工程のどのあたりで生まれるのでしょうか?

井元 「いいちこ25度」は青リンゴの香りと表現されますが、これは主に酵母の発酵によって生成されます。

酵母以外ですと、蒸留方法でも特徴的な違いがあります。低温で蒸留する減圧蒸留を行うと、もろみなどの発酵のフルーティな香りがそのまま出てきやすいんです。一方、常圧蒸留は約100℃まで上げて蒸留しますので、加熱による香ばしい香りが出ます。

樽貯蔵ではバニラの香りが生まれます。よりバニラの香りを出しやすい自社開発酵母と掛け合わせたりもします。また、原料由来の香りが持ち込まれる部分もあります。何より発酵の開始となる麹の出来によって、その後のすべてに影響を与えます。

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―ところで焼酎って蒸留酒なので、理論的には味がないような気もするんですが、飲むとちゃんとうまみを感じたりして…。そのあたりはどうなんでしょう?

井元 一部、揮発性の酸が含まれる場合はあるんですが、糖やクエン酸など一般的に言われる味物質は含みません。たとえば、果実様の香りやバニラの香りから連想される“甘い感じ”で甘いと感じるんですね。同じように苦みやうまみ、コクを感じるという方も多いんです。

ただ、最近の研究では、メチオナールのような香気成分が味覚受容体に作用するという報告もあります。一概に「味物質がない」とは言い切れない、まだ解明されていない部分なんです。

いずれにしても、人が感じるのであれば否定はできない、と考えています。

焼酎の味・香りを解説する三和酒類・井元 勇介さん

「いいちこ」の味わいや香りを表現すると?

「いいちこ」の味わいや香りを言葉で表現するとどうなるのでしょうか? 世界的ソムリエ小川貞夫氏監修の「いいちこテイスティングノート」から抜粋して、テイスティングコメントをフレーバーチャートとともにご紹介します。

いいちこ25度

いいちこ25度フレーバーチャート
いいちこ25度

フルーツや花の香りが特徴です。酸味のある青リンゴや熱を加えたリンゴのコンポート・リンゴジャム・リンゴ飴・焼きリンゴ・アップルパイの香りがあり、同時にアルコール由来の完熟した桃や西洋梨・温かみのある南国系の果物を連想させるパイナップルやグァバ・マンゴーなどのパッションフルーツ系の風味も合わせ持ちます。

最初は丁寧な造りを印象付ける上品な香りが特徴的であり、時間の経過とともに蒸留「熱」由来のリンゴのジャム・コンポート・リンゴ飴・アップルパイ・南国系果物のパッションフルーツやグァバ・パイナップルの風味が楽しめます。

いいちこ20度

いいちこ20度フレーバーチャート
いいちこ20度

香りの全体像は穏やかで花や果実系の香りです。白系フローラルブーケや香り高い花の香りがあり、ライラック・スズラン・ジャスミン・白バラの香りと果物系の香りも合わせ持ちます。他に青リンゴ・梨・パイナップルのような糖度が高く酸味も多く含んだ果実の香りが心地よく香るのが特徴です。時間の経過とともに、ドライフラワーやドライフルーツの印象が広がります。

ボリューム感は中位であり、心地よくまろやかな果実風味があり、アフターフレーバーにはリンゴ・柿・イチジクなどのドライフルーツ風味とエギゾチックなライチなどの風味も楽しめます。

いいちこシルエット

いいちこシルエットフレーバーチャート
いいちこシルエット

全体の香りが非常に穏やかで、ほんのりとアルコールの上品な香りがわずかに感じられます。爽やかな果実系の香りと控えめな花系統の香りが主であり、時間の経過により、ドライフラワーの香りにバナナとリンゴの香りが感じられます。

口中の香りはアルコール由来の甘い香りが感じられ、リンゴや西洋梨のコンポート、シロップに漬け込んだ黄桃の風味、上品な白玉・道明寺のような心地よさが残ります。

いいちこ日田全麹

いいちこ日田全麹フレーバーチャート
いいちこ日田全麹

酵母の香りが感じられます。ライ麦パンや天然酵母パン・田舎パン(パンドカンパーニュ)・フランスパンの皮、収穫した時の麦の穂の香りや干した麦藁の香りを感じます。麦を原料とした焼き菓子やパンケーキ・シュークリームの皮・エクレアなどの香りもあります。

口中では、甘く感じるバタービスケットやバニラ・カスタードクリームのような旨味、カラメル・チョコレートなど厚みのある風味も楽しめます。

いいちこスペシャル

いいちこスペシャルフレーバーチャート
いいちこスペシャル

褐色の色調です。アルコールの香りは強く複雑なので、全体的にパワフルに感じます。甘い香りと香ばしい香りを同時に利くことができ、甘い香りからはバニラやドライフルーツ、香ばしい香りからはローストしたアーモンドやクルミ・カカオ・コーヒー豆が感じられます。

口中では、アルコールの滑らかさと同時に、甘いカスタードクリームやヨーグルトキャラメル・バターキャラメルの風味が感じられ、この風味の中からやわらかな旨味を感じ取ることができます。

いいちこフラスコボトル

いいちこフラスコボトルフレーバーチャート
いいちこフラスコボトル

ほかの「いいちこ」シリーズに比べ、最も無色無臭に感じられます。アルコール度数もほかに比べると高く、30度であるにもかかわらず、アルコールの香りはありません。

「いいちこフラスコボトル」を一言で表現すれば「ミネラル」です。わずかに花系と白桃を思わせる果実系の香りがあるものの、控えめでフレッシュ感のある石清水や樹木系、松の葉や青竹などといったクリーンな印象であり、口中でもアルコールの心地よさを十分に感じつつ、清涼感のあるミネラルが広がる上品な風味です。

焼酎の味わい、香りを知ってぴったりなおつまみを見つけよう

―焼酎の味わい、香りの系統から合うおつまみを見つけることはできるのでしょうか?

井元 ペアリングの一例に、香りを合わせるというのがあります。常圧蒸留の香ばしい焼酎には香ばしいおつまみを合わせる、フルーティーな香りの焼酎にはサラダや生魚など加熱していないものが合います。

多くの焼酎に合いやすいおつまみもあるんですよ。それはチーズです。焼酎づくりに欠かせない麹も、チーズを発酵させる青カビや白カビもどちらも菌類ですし、アルデヒドやエステルなど香り成分に共通するものが多いんです。チーズに併せる焼酎の種類は、チーズと焼酎の組み合わせで少し変わるのですが、概ね合わせやすいと思います。

飲み方は、個人的にはお湯割りが合うと思っています。口の中でチーズが溶けて、食感も風味もよくなってさらに相性抜群です。

いいちことおつまみのチーズ

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商品別「いいちこ」に合うおつまみ(ソムリエ・小川貞夫氏監修)

商品名 合うおつまみ
いいちこ25度 前菜料理全般やクリーミーな料理・チーズなど
いいちこ20度 軽めの日本料理・味付けの濃くない野菜や魚介料理
いいちこシルエット 白身魚や貝類、そば・豆腐・山菜・ジュンサイなど淡泊なもの
いいちこ日田全麹 グリル料理全般。グリルパンのサンドイッチから窯焼きピザ・ローストチキンやローストビーフ・バーベキューなどカジュアルな料理
いいちこスペシャル 天然鯛・フグ・上マグロ・伊勢エビやブランド牛肉など高級な素材とも調和。日本料理をはじめフレンチ・イタリアン・中国料理
いいちこフラスコボトル 湯葉の刺身・山菜の和え物・そば・海苔・わさびを利かせた料理、酢の物、枝豆、日本料理の前菜など

※この記事の情報は2023年2月14日時点のものです。