酵母がいなければ地球上にお酒は存在しない、と言われる酵母。麹と並んで焼酎づくりに欠かせない酵母について、「いいちこ」の酵母の研究開発・管理を行う、三和酒類株式会社三和研究所の酵母担当者に解説していただきます。

そもそも酵母とは?

―そもそも酵母とはどんなものなのでしょうか?

顕微鏡で見ると丸い卵型の形をしている、非常に小さな生き物です。お酒は、この酵母という微生物が、酸素のない環境ではアルコール発酵をして生きている、という性質を利用してつくられています。ブドウと酵母からつくられるワインは、7000年以上前には存在していたと言われるくらい、天然の酵母でお酒をつくることはかなり昔から行われていたようです。

とはいえ、アルコールができるのは酵母という微生物の働きだ、ということが分かったのは19世紀後半だと言われています。そこから急激に技術が進化して、酵母の性質を選んで使えるようになり、おいしいお酒が大量に生産できるようになったんです。

酵母
電子顕微鏡で見た酵母

―お酒以外で酵母を使う身近な食品はありますか?

パンをつくるときに使う、イーストと呼ばれるものも酵母です。酵母がアルコール発酵をするときに、炭酸ガスを出すのですが、そのガスで生地を膨らませるのが、パンづくりにおける酵母の重要な役割なんです。

パンの発酵

焼酎づくりで酵母はどんな役割?

―焼酎づくりでは酵母はどんなタイミングで使用されるのでしょう?

大麦を主原料とする麦焼酎「いいちこ」の例をご紹介します。蒸した大麦に麹菌を付け、温度管理をしながら繁殖させ、大麦麹をつくります。この後、仕込みの工程に入るのですが、ここで酵母が登場します。大麦麹に水、そして酵母を加え、数日間おくと、酒母(しゅぼ)と呼ばれる一次もろみが出来上がります。さらに水、蒸した大麦を加える二次仕込みで、発酵を進めます。この仕込みの工程で、酵母が糖をアルコールに変えていく働きをするのです。

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櫂入れ
酵母がしっかりと働くようにするための「櫂入れ」を行っている様子

―アルコールをつくる以外に、酵母の役割はあるのでしょうか?

お酒は、よい香りを楽しむ、という魅力もあると思いますが、このよい香りをつくるのも酵母の役割です。花のような香りや、バナナやリンゴといったフルーツの香りというように、使用する酵母の種類で香りが変わってきます。

原料の処理や仕込みの温度を変えることで、酵母がつくる香りも変わりますので、使用する酵母にとって最適な条件にすることで、よい香りをもつおいしいお酒をつくることができるんです。

焼酎酵母の種類は?

―焼酎づくりに使われている酵母は何種類くらいあるのでしょうか?

いくつかの開発機関から頒布されている焼酎用の酵母があります。代表的な菌種は以下の通りです。

菌株名 開発機関
きょうかい焼酎2号 日本醸造協会
きょうかい焼酎3号 日本醸造協会
きょうかい焼酎4号 日本醸造協会
KF 1 熊本県産業技術センター
KF 3 熊本県産業技術センター
CAN-1 熊本県産業技術センター
宮崎酵母 宮崎県食品開発センター
平成宮崎酵母 宮崎県食品開発センター
鹿児島 2 号 鹿児島県工業技術センター
鹿児島 4 号 鹿児島県工業技術センター
鹿児島 5 号 鹿児島県工業技術センター
鹿児島 6 号 鹿児島県工業技術センター
泡盛 101 号 沖縄国税事務所

ただ、三和酒類は独自に酵母の開発を行っており、一般に頒布されている酵母はほとんど使用していないんです。三和酒類の自社酵母は、商品化していないものも含めると数十種類がストックされています。

麦焼酎「いいちこ」にはどんな酵母が使われている?

―焼酎メーカーで研究開発機関があるのは珍しいのでは?

そうですね。醸造酒(日本酒など)のジャンルでは酵母を開発しているメーカーさんもありますが、蒸留酒である焼酎の分野で研究所をもっているメーカーは少ないと思います。

現在は三和酒類株式会社三和研究所として、独立した建物で研究開発を行っていますが、1984年に研究開発室という名前で製造場の中にできたのがはじまりです。そして、その翌年に我々が「いいちこ酵母」と呼んでいる、メインで活躍している酵母が生まれました。

―「いいちこ酵母」はどのように生まれたのですか?

差し酛(さしもと)といって、仕込み時の酒母を次の仕込みに使う、というつくり方があるんですが、それを繰り返す中で偶然に発見されました。アルコールを旺盛につくることができる、大麦に適した酵母だったんです。この酵母を使った原酒は、「いいちこ」の深いコクや華やかな香りづくりに大いに貢献しています。

もろみ
酵母が活発に発酵している様子

―他にはどんな自社酵母があるんですか?

「いいちこスペシャル」という商品に使われているのですが、バニラの元になる香りをつくる酵母とか…。焼酎でバニラ香って珍しいんですよ。最近開発したのは、なめらかなテクスチャーを付与する酵母です。

―香りだけでなくテクスチャー(舌触り)も酵母で…?

焼酎の舌触りって、入っている香気成分の種類や量などで変わってくるんですよ。そこに注目して開発した酵母が、一番新しいものですね。隠し味として商品にも使われています。

―自社酵母を使うメリットはどんなところにあるんでしょう?

酵母はよい香りだけでなく、漬け物や硫黄など、オフフレーバーといわれる好ましくない香りを出してしまうこともあるんです。自社で開発していると、そういったオフフレーバーの少ない酵母を選び、かつ最適な条件で使うことができるのが大きな強みでしょうか。

―「いいちこ25度」や「いいちこ20度」といったレギュラー商品にも、もちろん自社酵母が使われているんですよね?

はい、「いいちこ」に使われる酵母はすべて自社で保有している酵母です。先ほどご紹介した「いいちこ酵母」を使った原酒をはじめ、いくつかの自社酵母を使ってつくった原酒を巧みにブレンドしています。「いいちこ」の香りを楽しんでいただく際に、酵母の働きに思いを巡らせてみるのも楽しいかもしれません。

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※記事の情報は2022年3月8日時点のものです。