お酒と一緒に食べるものを「肴(さかな)」と呼びますが、なぜ、どんな料理でも「肴」と呼ぶのか気になったことはありませんか? 今回は、「晩酌の誕生」など日本の「食」の歴史に関する書籍を数多く執筆している食文化史研究家の飯野亮一さんに、「酒の肴」という言葉の由来、歴史などをうかがいました。「iichikoスタイル」がおすすめする、「いいちこ」に合う酒の肴もご紹介します!

飯野亮一さん

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飯野亮一さん
食文化史研究家。服部栄養専門学校理事・講師。早稲田大学第二文学部英文学専攻卒業。明治大学文学部史学地理学科卒業。著書に『居酒屋の誕生』『すし 天ぷら 蕎麦 うなぎ』『天丼 かつ丼 牛丼 うな丼 親子丼』『晩酌の誕生』(いずれも ちくま学芸文庫)などがある。

「晩酌の誕生」著者に聞く、「酒の肴」の成り立ちとは?

―「酒の肴」という言葉は、いつ頃から使われていたのでしょうか?

奈良時代の書物(常陸国風土記)の中で、すでに「酒」と「肴」という言葉がセットで書かれているので、1200年以上も前には、もう「肴」という言葉が使われていたことが分かります。鎌倉時代の辞書「名語記(みょうごき)」では「さか」は「酒」、「な」は「菜」を意味していると記されています。当時の「菜」とは魚や野菜類の総称です。

1603年にイエズス会宣教師らによって編集された「日葡(にっぽ)辞書」には「Sacana サカナ(肴)。肉や魚のような食物。また、何であれ、酒を飲む時におかずとして食べる嗜好物」と書かれています。室町時代には「肴」が、酒を飲むときの食べ物を意味する言葉として、広く使われていたことがうかがい知れます。

―肴という言葉が必要になるほど、日本人にとってお酒にお供としての食べ物があることが、古くから一般的だったんですね。

そういうことでしょうね。肴という言葉には、いろいろなバリエーションもあったんです。二つ以上の品が並ぶ肴を「肴物(さかなもの)」と呼んだり、お皿に盛り合わせて出して各々が取って食べるような肴を表す「取肴(とりざかな)」という言葉もありました。「添肴(そえざかな)」という言葉もあって。酒の肴にはならないような料理を食べているとき、ちょっと一杯やろうという状況になることもあるじゃないですか。そういうときにお酒と一緒に添えて出す肴を「添肴」と呼んだんです。これらの言葉は、今はもうほとんど使われなくなりました。

―どれも初めて聞く言葉です。

今、お話ししたのは江戸期以前から使われていた言葉ですが、江戸期になって使われるようになった言葉もあります。その中でぜひ紹介したい言葉がいくつかありまして。一つは「つまり肴」。これは、お酒を飲みながら肴を食べていて、もうちょっと飲みたいけど、肴が先になくなってしまったとき、最後にあり合わせのものを出して肴にすることなんです。最後に、「つまり肴で一杯」というわけです。

―そんなにも限定的な状況の肴の呼び方があったのですね。

今では、これに該当する言葉はないですよね。あとは「立肴(たてざかな)」。いわゆる本日のおすすめメニューのことです。(歌舞伎の)一番人気の役者のことを「立役者」と言いますが、それと同じですね。それから、個人的にぜひもっと使われて欲しいと思っている言葉が「座付肴(ざつきざかな)」。これはコース料理や会席などで最初に出てくる肴のことです。この言葉は、最近でもたまに使われることもあって、私が好きだった料理屋さんでは、その日のお品書きに「座付肴」と書いてありました。良い言葉だと思うのですが、今は、先付や突き出し、前菜などと呼ぶ方が一般的ですね。

あて、つまみとは?

―飯野さんの著書「晩酌の誕生」では、江戸と上方(京都や大阪など)では、肴を表す言葉が違っていたことも紹介されています。

江戸と上方では文化も違うので、自然と分かれていったのだと思います。上方では「あて」という言葉が使われるようになりましたが、おそらく、酒に「当てる」食べ物というところから生まれたのだと思います。一方、江戸では「つまみ」という言葉が使われるようになりました。これは言葉通り、つまみながらお酒を飲むことから生まれたのでしょう。「あて」と「つまみ」は、今でも使われていますね。

―「晩酌の誕生」では、江戸時代には家飲み文化が花開くとともに、居酒屋などの外食も人気だったことが詳しく紹介されています。酒と肴を楽しむ文化が盛んになった時代だからこそ、「肴」を表す言葉のバリエーションも増えたわけですね。

そのとおりだと思っています。日本中で、酒や肴を楽しむ人たちが多かったからこそ、言葉の種類も広がっていったのでしょう。

江戸っ子はどんな酒の肴を楽しんでいた?

―江戸では、どのような肴が人気だったのでしょうか?

冬は、フグ汁や、アンコウ汁。湯豆腐、おでん、ねぎま(鍋)などが人気でした。夏でしたら枝豆やカツオの刺身。それから夕鯵(ゆうあじ/夕方に売られていた鮮度の良いアジ)ですね。

―現代でもおなじみの料理が多いですね。

他には、フグのすっぽん煮(油で炒めた魚を醤油、砂糖、酒などで濃い味に煮たもの)、フナやコハダなどの煮浸しは、時期を問わず人気でした。煮浸しというのは、魚を白焼きにした後、調味した出汁でゆっくりと煮含めた料理です。

あと、マグロやとり貝などの刺身も売り歩いていました。その他には、芋の煮ころばしは「芋酒屋」という専門店もあったし、天ぷら、寿司、蒲焼も食べられています。金山寺味噌などの味噌は「なめもの」と呼ばれて、常備菜のような扱いだったようです。

江戸の居酒屋のメニューや作り方も残っているのですが、こちらにも私たちになじみがある肴はたくさんありました。おそらく、現代まで残るような人気の肴が江戸時代にたくさん生まれたのだと思っています。

親父橋のいも酒屋。平椀に盛った芋の煮ころばしを食べている。『江戸久居計』(文久元年)|「晩酌の誕生」より引用
親父橋のいも酒屋。平椀に盛った芋の煮ころばしを食べている。『江戸久居計』(文久元年)|「晩酌の誕生」より引用

―出来合いのおいしい肴を手軽にテイクアウトできるだけでなく、家の前まで売りに来てくれたんですね。ちなみに、もし飯野さんが江戸にタイムトラベルできたら、食べてみたい肴はありますか?

先ほどのお話ししたように、ほとんどの江戸で人気の肴は、今も食べられるんですよね(笑)。ただ、フカ(サメ)は食べたことがないから、ちょっと食べてみたいですね。江戸では、(商品を売り歩く)振り売りが湯引いたフカの刺身も売っていたそうです。

食べたことのある肴だから食べてみたいとは少し違いますが、羨ましいという意味では、夕鯵売りですね。江戸の夕鯵売りは、その日に獲れたアジを売り歩いていて、その場で刺身にしてくれるんです。この夕鯵売りが描かれた絵を見てください。

夕鯵売り
 「夕河岸の声も涼しく日の斜(ななめ)」の句が添えられている。『川柳二合半酒』(嘉永4年)より

焼酎は、江戸の食文化に欠かせない存在

―江戸では、日本酒が人気だったそうですが、「いいちこ」のような焼酎は、まだ飲まれていなかったのでしょうか?

江戸で、焼酎はかなり普及していました。普及どころか江戸の食文化は、焼酎の存在がなければ成り立たなかったと思います。江戸の料理の特徴は、濃口醤油とみりんを使うことで、みりんは、もち米と米麹と焼酎で作りますから。

―今、一般的に使われている「みりん風調味料」ではなく、本みりんが使われていたのですね。

はい。元々みりんは、主に女性が好む甘いお酒として広まったのですが、江戸の後期頃になると、調味料として使われるようになって、江戸の料理を特徴づけていくんです。そういう意味で焼酎は、江戸の食文化には欠かせない存在でした。あとは、焼酎とみりんを混ぜた「本直し(ほんなおし)」は、冷やして主に夏に飲まれていました。

―焼酎を単独のお酒として飲むことは、少なかったのでしょうか?

おそらく、そのようです。焼酎は比較的アルコール度数の高いお酒ですから、氷を入れたり、水で割ったりして飲むことが多いですよね。でも、江戸時代は、お酒に水で足すことは、酒を薄めて水増しさせるみたいな悪い印象があり好まれなかったのか、資料にもそうやって飲んでいる例はあまり出てきません。

―現代の認識とはずいぶん違うんですね。ちなみに、飯野さんは、「いいちこ」に対して、どのようなイメージをお持ちですか?

私は、外でお酒を飲むとき、いつも焼酎なんです。お医者さんからプリン体を取りすぎないように言われているので(笑)。そして、香りが強すぎるものは少し苦手なので、飲むのは必ず麦焼酎なんです。だから、麦焼酎には愛着があります。「いいちこ」は「下町のナポレオン」というキャッチコピーもとても良いですよね。

―江戸に「いいちこ」があったら、どんな肴が合うと思いますか。

基本的に、何にでも合うお酒という印象があるので、江戸時代にあったとしてもどんな肴にも合うと思います。先ほどの話の繰り返しになりますが、江戸では、今とあまり変わらない肴もたくさん食べられるので。

―数百年前の人と同じように、お酒や肴を楽しんでいるのだと思うと、少し不思議な気持ちにもなります。

そうですね。でも、江戸時代は今とは違ってテレビやスマホもない時代ですから、一日働いた後、ホッとくつろぎながら晩酌するときのお酒や肴の重要性は、たぶん、今よりもずっと大きかったと思うんです。テレビなどに気を取られたりすることもなく、酒や肴の一つ一つにしっかりと向き合って深く味わっていたはず。そういう文化は少し羨ましいとも感じます。

「いいちこ」もそうだと思いますが、お酒をつくっている方々は、一生懸命においしいお酒をつくってくれているはず。私たちもそれを味わうときには、江戸の人たちくらい大事なひとときを過ごすような心がけで、肴と一緒にしっかり味わうべきだと思います。そうでなければ、せっかくのお酒と肴がもったいないですよね。

「iichikoスタイル」がおすすめする酒の肴レシピ

さて、ここからは「いいちこ」と相性抜群な酒の肴をご紹介します。「iichikoスタイル」の連載「簡単!5分で焼酎おつまみ」から厳選した、特に人気の高いおつまみレシピです。ぜひお試しあれ。

ホワイトソースいらず! 「アボカドとハムのグラタン」

アボカドとハムのグラタン

完熟アボカドが手に具をのせて焼くだけのお手軽グラタンはいかが? ホワイトソースのようにクリーミーなアボカドに、塩気のあるハムやチーズが合わさって濃厚な味わいです。レモンで爽やかに香りづけした焼酎ハイボールと一緒にどうぞ!
作り方はこちら

作り置きにもぴったり!「大根とかにかまの甘酢サラダ」

大根とかにかまの甘酢サラダ

甘みが増した旬の大根とお財布に優しいかにかまを使ったサラダ感覚の一品。少ない材料でさっと作れ、作り置きにもおすすめです。みかんを搾った焼酎のお湯割りとどうぞ!
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禁断のおいしさ!「カマンベールハニーナッツ」

カマンベールハニーナッツ〈簡単!5分で焼酎おつまみ〉

とろけるカマンベールチーズに香ばしいローストナッツとハチミツが絡んで、一口食べるごとにうっとり…。幸福感に浸れる一品です。レモンスライスを入れた濃い目の焼酎ハイボールと一緒にどうぞ!
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トースターとレンジにお任せ! 「お揚げさんとキノコのピリ辛あんかけ」

お揚げさんとキノコのピリ辛あんかけ

トースター+レンジで作れる一品。カリカリに焼いた油揚げに、キノコのうまみが凝縮したピリ辛のあんをたっぷりかけていただきます。梅干しを落とした焼酎のお湯割りとどうぞ!
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レンチンだれで罪なおいしさ!「カリッと牡蠣の甘玉味噌だれ」

カリッと牡蠣の甘玉味噌だれ

スーパーでぷっくりと身の肥えた牡蠣を見つけたら、フライよりも気軽に作れるこんなおつまみはいかが? カリッと焼いた牡蠣に甘い味噌だれがとろりと絡んで、焼酎のお湯割りが進みます!
作り方はこちら

※記事の情報は2024年3月19日時点のものです。