お酒を飲んでいるとき、飲んだ後に起こるつらい頭痛。そもそも頭痛はなぜ起きる? 効果的な対処法、治し方、予防法は? アルコール低減外来のドクターにお聞きします!

吉本尚さん

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吉本尚さん
筑波大学医学医療系准教授。健幸ライフスタイル開発研究センター長。博士(医学)。やさしい酔い研究会メンバー。

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アルコールで頭痛が起こる、その原因と特徴は?

―そもそもアルコールは、頭痛の原因になると考えていいのでしょうか?

はい。大前提としてアルコールは頭痛の原因になります。アルコールが原因の頭痛は大きく分けると、飲酒中の頭痛、飲酒後のいわゆる二日酔いのような頭痛の2つに分けることができます。

―それでは飲酒中に頭痛が起こる原因は?

飲酒中の頭痛の原因は、アルコールが肝臓で分解された物質・アセトアルデヒドと、アルコールによる血管拡張作用によるものと考えられます。

第1回第2回でもお話しましたが、アセトアルデヒドは発がん性があり人体に有害な物質です。血管拡張作用は、ご存じの方も多いと思いますが、アルコールを飲むと血管が広がり、血流がよくなる作用のことです。この血管拡張作用が、一次性頭痛の原因になるのではないかと言われています。

―一次性頭痛とはどういった頭痛のことですか?

ほかの疾患が元ではない慢性的な頭痛のことを一次性頭痛と言い、片頭痛、緊張性頭痛などがあげられます。

片頭痛は、頭の片側、両側、こめかみ、後頭部など、一部またはさまざまな場所が痛くなる頭痛で、一般的には一度痛くなると最大72時間、つまり3日間ほど頭痛が続き、なかには寝込む人もいます。目の前がキラキラするといった前兆がみられることもあります。

緊張性頭痛は、筋緊張性頭痛、筋緊張型頭痛とも言われますが、いわゆる肩こりなどからくる頭痛のことです。

アルコールはこれらの一次性頭痛が起こる、または悪化する原因と考えられています。なかでも片頭痛に対する影響が大きいようで、片頭痛持ちの人は酒量が少ないという研究結果もあります。お酒を飲むと片頭痛がひどくなるからお酒を飲まなくなる、ということが推測されています。

―なるほど。それでは飲酒中の頭痛と飲酒後の頭痛の原因は違うのですか?

はい。いわゆる二日酔いも含む、飲酒後の頭痛の原因には以下のようなものが関係していると言われています。

  • 脱水
  • 低血糖
  • 軽度の離脱症状
  • 酸塩基平衡のアンバランスや電解質の異常
  • 炎症反応の亢進
  • メタノール
  • 酒に含まれるコンジナー(アルコールの発酵または蒸留の副産物。色の濃いアルコール飲料によく含まれる)

参考資料:厚生労働省e-ヘルスネット

―飲酒後の頭痛の原因は複雑なのですね。

はい。実は2023年の今でも、二日酔いの明確な原因やメカニズムはまだ分かっていません。そもそも二日酔いという言葉の定義も曖昧なのです。そして、これまで二日酔いの原因の本命と言われていたアセトアルデヒドですが、二日酔い状態の人の血液検査をしてみると、数値上、ほとんど残っていないことが分かりました。アセトアルデヒトは飲酒中の頭痛の原因のひとつですが、二日酔いの頭痛には直接関わっていないのではないか、というのが最近の研究で分かってきています。

―それは意外です。それでは、飲酒後の頭痛の原因と思われるものとして挙げていただいたキーワードの解説をお願いします。

まずは脱水。アルコールに利尿作用があることはご存じかと思います。一説には、1Lのビールを飲むと、1.1L分の水分を失うとも言われています。お酒を飲むと、摂取した以上の水分が出ていくので脱水状態になります。

低血糖は体内でブドウ糖が不足した状態のことで、頭痛を引き起こす場合があります。お酒を飲むとブドウ糖の原料(基)になる炭水化物の摂取量が減ったり、肝臓が新しくブドウ糖をつくる作用が抑えられたりするためです。

離脱症状とは体内からアルコールが抜けていく際におこる症状のことです。「手が震える」というのが有名な症状ですね。アルコールの分解にかかる時間については、第1回でもお話しましたが、離脱症状が出るまでに早い人では約7時間。夜10時に飲み終わって朝5時あたりが軽い頭痛や気持ち悪さを感じる頃です。本人は「二日酔いだ」と思っても、実は離脱症状が起きている可能性があります。

酸塩基平衡のアンバランスや電解質の異常というのは、アルコールとともに塩分の多いものを食べることによってナトリウムが多くなりすぎたり、利尿作用によりカリウムが不足したり、いわゆるミネラルなどのバランスが崩れた状態のことです。また、体の酸塩基平衡(酸性/アルカリ性バランス)が酸性に傾く程度が、二日酔いの重症度と関係があるといわれています。

炎症反応の亢進(こうしん:過剰になること)というのは、理由は分かっていませんが、二日酔いの人を採血すると、CRP(炎症や組織細胞の破壊が起こると血清中に増加するタンパク質)や白血球の数値が高い場合があり、炎症反応が起きていることが分かります。

メタノール(メチルアルコール)はアルコールの一種ですが、一般的にお酒として飲まれるエタノール(エチルアルコール)を製造する際、自然に発生する物質です。残留量は法律によって定められており、市販のお酒にはごく少量しか含まれていません。代謝中に生じるホルムアルデヒドやギ酸により、摂取後12時間以降に頭痛、悪心、めまいなどを生じます。

コンジナーというのは、アルコールの発酵、蒸留の過程で出てくる化合物で、色の濃いお酒、つまりワインやブランデーなどに含まれています。

これらの原因のひとつ、またはいくつかが絡み合って、飲酒後の頭痛が起こるのではないかと言われているのです。

アルコールが原因の頭痛、治し方はある?

―さまざまな原因があるのですね。それではズバリ、アルコールが原因の頭痛の治し方、対処法について教えてください。

飲酒中の頭痛対策については、アルコール量と飲酒スピードをコントロールすることに尽きます。やはり血中アルコール濃度が高くなればなるほど頭痛は悪化すると言われているので、トータルのアルコール量を少なくする、飲酒スピードが上がらないように一定に保つというのが、飲酒中の頭痛を防ぐコツかと思います。飲酒量には個人差がありますが、以下の表を目安にしてください。

酔いの段階 飲酒量の目安①
(純アルコール量)
飲酒量の目安②
(25度の焼酎の場合)
状態
ほろ酔い 20g以内~
多くて40gくらい

100ml以内~
多くて200ml

気分が高揚して、気が大きくなります。「理性」の脳、大脳新皮質にマヒが進んでいる状態です。
酩酊
(めいてい)
40~80g程度 200~400ml いわゆる酔っぱらいの状態。大脳新皮質のマヒがどんどん進み、内側の大脳辺縁系や小脳にまで広がりつつあります。舌がもつれ、千鳥足になり、感情の起伏が激しくなり、ところかまわず居眠りします
泥酔
(でいすい)
80~120g程度 400~600ml 酔いつぶれた状態。言葉は意味不明、自分で立ち上がることができません。
昏睡
(こんすい)
120~160g程度 600~800ml 酔いつぶれているだけでなく、呼んでも揺すってもつねっても反応しません。脳の中心にある延髄や脳幹にまでマヒが進み、死と紙一重の状態です。放置すると死に至ります。

参考資料:アルコール健康医学協会「飲酒の基礎知識」

飲酒後の頭痛についてですが、炎症反応には消炎鎮痛剤が有効であることは分かっています。そして、酸塩基平衡のアンバランスや電解質の異常には、経口補水液やスポーツドリンクなどによって水分、ブドウ糖、電解質を補充するとよいと思います。

頭痛を予防するお酒の飲み方は?

―できれば、頭痛が起きる前になんとかできればベストなのですが…。頭痛を予防するお酒の飲み方はありますか?

外来でもよく聞かれるのが、ウコンや肝臓サプリメントなどの有効性についてです。これらの効果が明確な研究結果はありませんが、ご自身の経験則として効果的と思うのであれば、使用してもよいと思います。

もうひとつは、頭痛が起こった時のお酒の飲み方を把握しておくこと。繰り返しになりますが、アルコール頭痛が起きたときの飲み方よりも飲酒量を少なくする、飲酒スピードを遅くする。これに尽きると思います。

※記事の情報は2023年12月19日時点のものです。