筋トレや運動後に飲む一杯は格別のおいしさ! ですが体への影響も気になります。筋トレとお酒を両立する方法はあるのでしょうか。アルコール低減外来のドクターにお聞きします。

吉本尚さん

この方にお聞きしました
吉本尚さん
筑波大学医学医療系准教授。健幸ライフスタイル開発研究センター長。博士(医学)。やさしい酔い研究会メンバー。

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筋トレ後にお酒を飲むとどうなる? 体内のメカニズムとは?

―筋トレ後の一杯を楽しみに頑張る人も多いようですが、筋トレ後にお酒を飲むと体内ではどのようなことが起こるのでしょうか?

筋トレに限らず運動直後にお酒を飲んだ場合と、少し時間を空けてから飲んだ場合に分けてご説明します。

運動直後は血流がよくなっている上に、胃の中にあまり食べ物が入っていない状態、つまりすきっ腹であると考えられます。そのような状態でアルコールを摂取すると吸収が早く、ますます血流がよくなり、非常に酔いやすい状況となります。言い換えると血中アルコール濃度が上がりやすいので、それによって脳への影響も出やすくなり、「ふらふらする」=酔った状態になりやすいということです。

さらに、運動強度にもよりますが、汗をかいたり、のどが渇いたりするほどの運動の後は、水分が足りない状態です。そのような状態でお酒を飲むと、脱水が進む可能性も考えられます。

運動後、少し時間を空けてお酒を飲んだ場合は、「血流循環の速度」が落ち着いた状態になっているので、血中アルコール濃度が上がることによる影響は少し緩和されていると考えられます。

―運動後、少し時間を空けてからお酒を飲んだ方が体への影響は少ないということですね。開ける時間の目安があれば教えてください。

運動強度によって違ってくるので目安を作るのは難しいのですが、“普通の筋トレ”程度であれば、30分から1時間程度空けることで、体への影響を軽減することができると思います。

筋トレ後にお酒を飲むとどうなる? 体内のメカニズムとは?

筋トレ効果を保ちながら、お酒を飲むタイミングは?

―筋トレ後は30分から1時間程度お酒を飲むのを我慢すれば、血中アルコール濃度の急上昇を軽減することができるということは分かりました。では、筋トレ効果の面ではどうなのでしょうか。

筋肉(筋タンパク質)の合成は、筋トレ後、1時間から3時間がピークです。そのゴールデンタイムにアルコールを摂取してしまうと、筋肉の合成を阻害してしまうことになります。「筋トレとお酒を両立したいけれど、筋トレ効果に重きを置きたい」という方は、筋トレ後3時間以上空けてからお酒を飲むのがよいのではないでしょうか。

―筋トレ後3時間程度我慢すれば、筋トレ効果は保たれるのですね!

ある程度は保たれる、ということになります。筋トレの効果というものは、実は24時間継続します。ですから3時間空けたとしても、筋トレ後24時間以内にアルコールを摂取すると、筋トレ効果は落ちてしまいます。しかし先ほどご説明したように、筋トレ後1時間から3時間のピーク時間をすぎると、筋肉の合成率は緩やかになりますので、この時間帯でのアルコールによる筋肉合成阻害を許容範囲とするかどうか、ですね。

筋トレ効果を最大限に保ちたいという方はやはり、筋トレをした日はお酒を飲まないのがよいのではないでしょうか。筋肉の超回復*を促すためには、週2,3回の筋トレが適切だと考えると、筋トレをした日はお酒を飲まない、またはノンアルコール飲料にする。そして、筋トレをしない日はお酒を飲む、というルールにしてもよいかもしれません。

*超回復…トレーニングによって破壊された筋繊維が2~3日かけて修復する過程で、元の筋繊維よりも太くなること。

―そもそも、なぜアルコールが筋肉の合成を阻害するのでしょうか?

アルコールには筋肉を合成する力を弱くするという作用と、筋肉が壊れる、つまりタンパク質の分解を促進するという作用があり、この2つの作用によって、筋肉の合成が阻害されます。

このメカニズムは非常に複雑ですので、アミノ酸やインスリンによる化合物の刺激など、さまざまな要素や過程があり、それぞれの要素や過程においてアルコールが影響を及ぼす、ということを理解していただければよいと思います。

ちなみに、アルコールの筋肉に対する影響は、男性の方が大きく、女性は女性ホルモン(エストロゲン)の作用によって、男性より影響が少ないとも言われています。

お酒を飲んでからの筋トレは絶対NG?

―ダメを承知でお聞きしたいのですが、筋トレ前にお酒を飲むことは、やはり控えるべきでしょうか。

そうですね。飲酒してからの運動をすすめる人は誰もいないでしょう。あえて解説しますと、転倒などによるケガのリスク、筋トレであれば、機械の誤操作なども考えられます。さらにプールや海での運動となると、溺れる危険性、つまり命にかかわってきますので、お酒を飲んでからの筋トレや運動はやめましょう。

筋トレと飲酒の両立で注意すべきポイントは?

―先ほどお聞きした、筋トレ後の飲酒タイミング以外に、筋トレとお酒を両立させるために気をつけた方がよいことはありますか?

やはり飲酒量は重要なポイントです。筋肉とアルコールの関係についての研究も含め、近年のアルコールに関する研究では、純アルコール20gを基準としていることが多いです。アルコール摂取量が多ければ多いほど、筋タンパク質合成の阻害、筋タンパク質分解の促進は起こりやすいので、飲み過ぎには注意が必要です。

■純アルコール20gに相当する焼酎の量

アルコール度数 純アルコール20g分の量
20度 125ml
25度 100ml
30度 83ml

筋トレ後はプロテインなどのタンパク質を摂取する方も多いですよね。筋タンパク質は合成と分解を交互に繰り返すので、筋肉の合成を最大にするには、多くのタンパク質が必要です。筋トレ後にお酒を飲むのであれば、おつまみはタンパク質が多いものを選ぶというのも、筋トレと飲酒を両立させるひとつの手ではないでしょうか。

※記事の情報は2024年1月23日時点のものです。