一見全くタイプの異なるお酒のように思える焼酎とウイスキー。けれど麦焼酎とモルトウイスキーを比べてみると、意外にも共通点の多いことに気づきます。2つのお酒の原料や製法を比較しながら、焼酎ならではの特徴を探っていきましょう。

焼酎とウイスキーはどちらも「蒸留酒」

お酒は製造方法の違いにより「醸造酒」と「蒸留酒」の大きく2つに分けられますが、焼酎とウイスキーはどちらも「蒸留酒」です。

「蒸留酒」とは、果物や穀物などの原料をアルコール発酵させてできた発酵液(もろみ)を蒸留してつくるお酒のこと。蒸留の工程を踏むことでアルコール度数が高められるため、焼酎やウイスキーのほか、ジンやラムなどアルコール度数の高いお酒はたいてい蒸留酒に分類されます。

一方「醸造酒」とは、原料をアルコール発酵させたもろみを蒸留せずにそのままか、あるいは濾したお酒のこと。アルコールは酵母の働きによって生み出されますが、逆に高アルコール下では酵母の活動が止まってしまうため、醸造酒のアルコール度数は高くても20%くらいまでと言われています。日本酒やワイン、ビールが醸造酒に当てはまります。

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焼酎とウイスキーの原料の違い

焼酎とウイスキーの違いにも注目してみましょう。まずは原料についてです。

焼酎の原料は、大麦やさつまいも、米、サトウキビなどの穀物やいも類が一般的です。また、焼酎の中でもいわゆる本格焼酎(焼酎乙類)と呼ばれるものは、「国税庁長官の指定する物品」として以下の原料を使用することも認められています。

国税庁長官の指定する物品

あしたば、あずき、あまちゃづる、アロエ、ウーロン茶、梅の種、えのきたけ、おたねにんじん、かぼちゃ、牛乳、ぎんなん、くず粉、くまざさ、くり、グリーンピース、こならの実、ごま、こんぶ、サフラン、サボテン、しいたけ、しそ、大根、脱脂粉乳、たまねぎ、つのまた、つるつる、とちのきの実、トマト、なつめやしの実、にんじん、ねぎ、のり、ピーマン、ひしの実、ひまわりの種、ふきのとう、べにばな、ホエイパウダー、ほていあおい、またたび、抹茶、まてばしいの実、ゆりね、よもぎ、落花生、緑茶、れんこん、わかめ

ウイスキーの原料は、大麦やライ麦、トウモロコシなどの穀物です。これらの穀物を単一で使ったり、混合したりしてウイスキーはつくられます。

焼酎とウイスキーのカロリーの違い

次に、焼酎とウイスキーの気になるカロリーについて見ていきましょう。

文部科学省が公表している「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」では、焼酎(25度・100g)のカロリーは144kcal、ウイスキー(40度・100g)のカロリーは234kcalとあります。

同じ蒸留酒なのにどうしてカロリーの差が生まれるのかというと、一番大きな理由は“アルコールそのものにカロリーがあるから″。アルコール(エタノール)には1gあたり約7kcalあるため、焼酎よりもアルコール度数が高いウイスキーの方がカロリーも高くなるのです。

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麦焼酎とモルトウイスキーの共通点①|原料は二条大麦

ウイスキーの中でも「モルトウイスキー」と呼ばれるものは大麦が主原料です。そして「いいちこ」をはじめとした麦焼酎の原料も同じ大麦。しかも、どちらも実が2列に並んだ「二条大麦」という同じ種類の大麦が使われます。

二条大麦
麦焼酎やモルトウイスキーの原料である二条大麦

二条大麦は別名「ビール大麦」と呼ばれることからもわかるように、ビールの原料でもあります。日本には明治時代にヨーロッパからもたらされました。二条大麦は実が大きく、アルコール発酵に欠かせないデンプンを多く含むため、お酒づくりに適しているのです。

麦焼酎とモルトウイスキーの共通点②|単式蒸留機で蒸留

原料が同じというだけではありません。麦焼酎とモルトウイスキーは、使われる蒸留機の種類も共通しています。

お酒の蒸留に使われる蒸留機には大別すると「単式蒸留機」と「連続式蒸留機」の2種類がありますが、麦焼酎を含む本格焼酎やモルトウイスキーは、原料のもつ風味や香りを程よく残す昔ながらの「単式蒸留」という方法で蒸留されます。

蒸留機
〈もろみ投入ー蒸留ーもろみ残さ排出〉の流れで一度のみ蒸留を行う単式蒸留機

一方、ホワイトリカーとも呼ばれる連続式蒸留焼酎(焼酎甲類)や、ウイスキーの中でもトウモロコシやライ麦などを主原料につくられるグレーンウイスキーは、原料の風味をほとんど感じさせない「連続式蒸留」という方法で蒸留されます。

連続式蒸留機
連続して多段階の蒸留を行う連続式蒸留機
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麦焼酎とモルトウイスキーの違い①|「麹」を使うか、「麦芽」を使うか

ともに蒸留酒で、主原料も同じ、使われる蒸留機の種類も同じ、と意外にも共通点の多い麦焼酎とモルトウイスキー。ではこの2つのお酒は、どんなところが違うのでしょうか?

まず1つに、原料に含まれるデンプンを糖分に変えるときに「麹(こうじ)」を使うか、「麦芽」を使うかで異なります。

そもそもあらゆるお酒は、糖分を含む液体を酵母の力でアルコール発酵させてつくられます。ですが、もともと糖分を多く含まない穀物やいも類をアルコール発酵させるには、まずは穀物に含まれるデンプンを糖分に変える必要があります。

麦焼酎をはじめとした本格焼酎の場合、その役割を担うのが「麹」です。麹とは、米、麦などの穀物に、日本など温暖多湿なアジア圏にしか棲息しない「コウジカビ」という微生物を繁殖させたもので、デンプンを糖分に分解する「アミラーゼ」という酵素を持ちます。また、麹は酵母とともに働いて、様々な旨味や香り成分をつくり、焼酎に豊かな香味をもたらしてくれます。

「いいちこ」づくりに使われる大麦麹

モルトウイスキーの場合は、大麦を発芽させた「大麦麦芽」がその担い手。発芽するときに大麦自身の中に酵素が生成され、その酵素がデンプンを糖分に分解します。

大麦麦芽
モルトウイスキーづくりに使われる大麦麦芽
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麦焼酎とモルトウイスキーの違い②|蒸留回数が異なる

もう1つの違いとして、麦焼酎もモルトウイスキーも「単式蒸留機」で蒸留されるという点では共通していますが、蒸留する回数が異なります。

麦焼酎などの本格焼酎の蒸留回数は基本的には1回のみ(※製造方法によってはそうでない場合もあります)。そのため蒸留したあとの原酒には、原料を発酵させたもろみの香味が色濃く残ります。

モルトウイスキーをつくる場合は、通常2~3回蒸留を行います。1回目の蒸留後のアルコール度数は20~25度、それを再び蒸留することで65~70度まで高めることができます。

この蒸留回数の違いが、麦焼酎とモルトウイスキーのアルコール度数の差にもつながっているのです。

麦焼酎とモルトウイスキーの違い③|貯蔵・熟成方法が異なる

麦焼酎もモルトウイスキーも、蒸留したての原酒は香味が荒々しく酒質も不安定です。これをやさしく整えるために一定期間貯蔵・熟成させるのですが、この時に原酒をどのような容器で貯蔵するかでも麦焼酎とモルトウイスキーでは異なります。

麦焼酎をはじめとする本格焼酎づくりでは、貯蔵に使われるのはタンクや甕、樽など焼酎によって様々です。「いいちこ」を例にとると、ホーローやステンレス製のタンクで貯蔵するものもあれば、ウイスキーと同じようにホワイトオーク樽で熟成させるものもあります。こうして様々な方法で貯蔵・熟成させた原酒をブレンドすることで、焼酎の味に広がりや奥行きをもたせることができるのです。

「いいちこ」の原酒を貯蔵するホーロータンク
「いいちこ」の原酒を貯蔵する木製樽

他方、ウイスキーづくりでは木樽熟成が一般的です。木樽で熟成させることはウイスキーの定義の1つでもあります。

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このように焼酎とウイスキー、とりわけ麦焼酎とモルトウイスキーには、意外なほど似ている点もあれば、それぞれの個性につながる違いもあります。その共通点と相違点に着目しながら、2つのお酒を飲み比べてみるのも楽しいかもしれませんよ。

【参考文献】
・ゼロから始める焼酎入門(KADOKAWA)

※記事の情報は2022年9月7日時点のものです。