「いいちこ」の原材料名欄には、大麦とともに「大麦麹」と記されています。そもそも「麹(こうじ)」とはどんなもので、焼酎づくりにどう関わっているのでしょうか? また、麹と和食との関係や麹の持つ力、そして大麦麹がどのようにつくられているかをご紹介します。

※ここでいう「麦焼酎」は、主に三和酒類が製造する麦焼酎を指します。

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麦焼酎の原料①身近なのに意外と知らない「大麦」のはなし

麹(こうじ)とは、どんなもの?

2013年にユネスコの無形文化遺産にも登録された「和食」。この和食の味を支える日本独自の伝統調味料といえば、醤油や味噌、米酢、みりん、酒です。実はこれらの調味料や酒はすべて「麹(こうじ)」を使った発酵食品です。

私たちの日々の食事を振り返ってみても、例えば、味噌汁や漬物、刺身につける醤油、サラダにかけるドレッシング、そして晩酌時に楽しむ本格焼酎や日本酒など、麹由来の食品を一日に一度は口にしているのではなでしょうか。このように、私たち日本人の食生活は「麹」に支えられているといっても過言ではありません。

麹とは、米、麦、大豆などの穀物に麹菌を繁殖させたもの。麹菌は「コウジカビ」という別名がある通り、カビの一種です。麹菌はさまざまな食品に用いられ、わが国の豊かな食文化に貢献してきたことから、日本醸造学会により「国菌」に認定されています。

では、私たち日本人が麹とつきあうようになったのはいつ頃でしょうか? 奈良時代初期に編纂された日本最古の地誌『播磨国風土記』には「蒸した米を神様にお供えしたら、古くなってカビが生え、これでお酒をつくったら、とても良い神酒(みき)ができた」という内容の記述があります。当時、米にカビが生えたものを「カビ立ち」といい、これが「加牟太知(カムタチ)」になり、「カムチ」→「カウチ」→「カウジ」と変化し、今の「麹(こうじ)」と呼ばれるようになったと言われています(諸説あり)。

麹菌は、たんぱく質を旨味成分のアミノ酸に分解する「プロテアーゼ」や、でんぷん質を糖分に分解する「アミラーゼ」という酵素を持ち、この2つの酵素によって穀物の旨味や甘味が引き出されます。

実はこの麹菌、日本をはじめとした温暖多湿なアジア圏にしか棲息しておらず、日本ほど麹を食生活に取り入れてきた国は他にありません。カビの仲間である麹菌は、乾燥地帯には発生しにくいのです。味噌や醤油、日本酒などは、湿気の多い日本の気候風土だからこそ生まれた発酵食品であり、その上に成り立つ和食は麹文化の賜物といえます。

味噌汁も麹によって成り立つ和食の1つ

焼酎も麹文化だからこそ生まれたお酒

前述のとおり、焼酎も麹の力を借りて醸されるお酒です。

麹菌は、原料となる穀物に含まれるでんぷんを糖分に変える大切な働きをします。焼酎は、その糖分が酵母の力でアルコールに変わることでつくられます。麦焼酎と同じく二条大麦を原料にした蒸留酒にウイスキーがありますが、ウイスキーの場合、大麦を発芽させた“麦芽”に含まれる糖化酵素によって糖分がつくられます。でんぷんを糖分に変えるのに、「麹」を使うか「麦芽」を使うか、そこが大きな違いです。

さらに麹は酵母とともに働いて、様々な旨味や香り成分をつくり、焼酎に豊かな香味をもたらします。焼酎もまた、日本特有の麹文化が生み出したお酒といえるのです。

麹づくりは「いいちこ」づくりの原点

では、麹がどのようにつくられているのかをご紹介しましょう。

清酒(日本酒)づくりの世界に「一麹、二酛(もと)、三造り」という言葉があるように、「いいちこ」をつくるうえでも、麹づくりは大切な仕事の一つ

蒸した二条大麦に麹菌をまんべんなく振り撒き、「麹室(こうじむろ)」と呼ばれる部屋へ移動させます。この時に気を付けなければならないのが、麹菌を増殖させる際の温度と湿度の管理。この微妙なコントロールが、蔵人の腕のみせどころです。麹菌がしっかり繁殖すると、麦の表面が白く毛羽立った状態に。こうして「いいちこ」の主原料となる大麦麹が出来上がります。

蔵人の手で育てられた麹

ちなみに、酒づくりの麹菌には、主に白麹菌、黒麹菌、黄麹菌の3種類があり、焼酎には「白麹菌」と「黒麹菌」を用います。白麹菌と黒麹菌は、雑菌の繁殖を抑えるクエン酸という強い酸性の物質をたくさんつくることが特徴です。「いいちこ」がつくられる九州は気候が温暖なエリアですが、この2つの麹菌がつくるクエン酸が雑菌の繁殖を防いでくれるため、安全に焼酎がつくれるのです。

蔵人が見守るなか麹室で大切につくられた大麦麹は、水と酵母と一緒にタンクに入れられ、「仕込み」と呼ばれる工程へと移ります。このように日本の食文化を支えてきた麹づくりは、「いいちこ」づくりの原点でもあります。

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※記事の情報は2021年2月26日時点のものです。

【参考文献】
・小泉武夫/著『発酵はマジックだ』日本経済新聞出版社