お酒を1本丸ごと購入し店に預けておくボトルキープ。スナックや居酒屋で人気のサービスは日本独自のものです。慣れるとリーズナブルで便利なのですが、最近は仕組みがよくわからないという声も聞かれます。今回はボトルキープが支持される理由を探ります。

文/(株)酒文化研究所 山田聡昭

ボトルキープとは?

人の名前が書かれたお酒の瓶がたくさん並んでいるのを、酒場で見たことはありませんか? あれがボトルキープ。お酒を1本丸ごと購入して、残った分は次に来たときまで店に預けておくシステムです。ビールやハイボールのように発泡性のお酒はグラス売りが基本ですが、焼酎やウイスキーなど1回で飲み切りが難しいお酒は、店での保管を前提にボトル単位で販売することがあります。

ボトルキープが広まったのは大阪万博が開催された1970年頃。当時は高度経済成長の真っ只中で、一億総中流と言われ、誰もが毎年の経済成長を疑わなかった時代です。酒場では高級ウイスキーをボトルキープするのがステイタスで、いつか自分もそうなりたいと多くの人が思ったのではないでしょうか。お店で高級なボトルをテーブルに置いて飲む優越感は、高級ブランドバッグを手に表参道を颯爽と歩く感覚に通じるかもしれません。

当時、酒場には、毎晩、仕事帰りの会社員が溢れていました。昼間一緒に仕事をして、夜も同じ顔ぶれで飲みに出る。男性は仕事中心のライフスタイルで、アフターファイブにも職場の上下関係が持ち込まれます。交際費を使って会社名や部署名でボトルキープして社員が自由に飲めるようにしたり、「金がない時は俺のボトル飲んでいいよ」と上司がご馳走したりする光景をよく目にしたものです。

とはいえ、ボトルキープが広く利用された大きな理由は経済性です。ほとんどの場合、グラス売りで飲むよりもボトルで注文した方が割安なのです。例えばハイボールが1杯500円だとして、ベースの酒をワンショット30ml使うとします。1本720mlだと24杯分ですから、グラス売りのハイボールで頼むと代金は12,000円です。でも、ボトルキープで1本6,000円なら、ソーダと氷代をプラスしてもだいぶリーズナブルです。ボトルキープは、時代の気分と個人と組織の関係性にフィットしたことに加えて、経済的だったことが定着した理由ではないでしょうか。

ボトルキープできるのはどんなお酒?

1970年代にはボトルキープする酒は主にウイスキーでした。瓶ビールは開けたら一本飲み切りますし、日本酒やワインは一度開栓すると劣化しやすいため、ボトルキープはほとんど見かけません。

しかし、1980年代になるとボトルキープの様子が一変します。この頃、カジュアルに楽しめる焼酎の人気が急上昇して、居酒屋や大衆酒場などでのボトルキープは焼酎が主になっていきました。ウイスキーが並んでいた居酒屋の棚には「下町のナポレオン いいちこ」がずらりと並んだのです。

焼酎は、お湯割り、水割り、お茶割り、果汁割り、チューハイ、オンザロックなど飲み方の自由度が高く、それまであまり酒に馴染みがなかった女性にも受け入れられやすかったこともプラスだったでしょう。1980年の女性の大学進学率は33%で、男性の41%に近づき、大学や職場で男性と並んで酒席に参加するようになりつつありました。それまでの男社会で盛んに飲まれた清酒やビール、ウイスキーとは異なり、新しく登場した焼酎は“男の酒”のイメージは強くありません。女性でも飲みやすく性別問わず一緒に楽しめる焼酎は、居酒屋のテーブルを囲んで飲むお酒として親しまれました。

また、アルコール度数が20~25度と、ウイスキー(40度前後)より低いため飲み過ぎをセーブしやすい、その日の気分に合わせて割り材の量を変えて調整できる、という声もしばしば耳にします。

ボトルキープのメリットは?

ところでボトルキープにはどんなメリットがあるのでしょうか。

前述したように飲み手から見ると、ボトルキープはグラス売りよりもリーズナブルなことが一番のメリットです。そのほか自分の好みの濃さで飲めることを挙げる方もいます。グラス売りで水割りを頼むと、濃すぎたり薄すぎたり好みに合わないことがありますから。

反対にデメリットは、いろいろな酒を楽しみたいときに、ボトルキープが足かせになることがあります。グラスで飲んだ分が追加になるだけなので、割高になることはないのですが、なんとなくマイボトルに縛られる感が付きまといます。それはキープの期限が迫っていると特に強くなりますし、期限が切れないうちに行かなきゃという来店プレッシャーを感じることもあります。

ちなみに、ボトルキープがある店には常連客が多いので、店主と親しくなったり、お客さん同士で話が弾むようになったりしやすいかもしれません。こういった交流も「ならでは」の楽しみ方かもしれません。

次にお店側のメリットはどうでしょうか。

ボトルキープを取り入れたときのメリットとして、ドリンクサービスの手間を減らせる、グラス売りよりもボトル売りの方が1瓶あたりの利益の確定が早い、お客さんにリピートしてもらえる等が挙げられます。

反対にお店側のデメリットは、預かったボトルの管理です。酒場の在庫スペースは限られていますから、大量のボトルを長く置いておくことはできません。

ネームタグをつけたキープボトル

ボトルキープの期間、料金、頼み方は?

さて、ここでボトルキープの仕方と決まり事を整理しておきます。

まず、ボトルキープでかかる費用ですが、ボトルを入れたときにボトル代を請求されます。また、年度替わりなど人が動く時期には、キャンペーンで割引になることもあります。

そして、ボトルキープした酒を飲むときは、グラスや割り材(水やソーダや氷など)のセット料金が別途かかります。居酒屋では数百円からお通し込みで1000円くらいでしょうか。接客のあるお店では軽食(簡単なおつまみ)付きのコースになっていたり、氷とソーダを追加するたびに料金が加算されたりさまざまです。

割り材の種類は、水、お湯、氷はセットに入っていて定額のことが多いですが、ソーダやウーロン茶は追加分が課金されたり、コーラやトニックウォーターなど他の割り材は有料だったりします。この辺はお店に確認してみてください。

それからボトルキープには、店で預かってもらえる期間があります。お店にもよりますが、2~3か月が一般的でしょう。1回に1杯30mlで4杯飲む人だと、720mlは12杯なので3回店に通うと、新しいボトルが入ります。2~3週間に1回行くならば、ボトルキープしても飲み残すことはありません。

ボトルキープのタグには何を書く?

最後にボトルキープしたらボトルに何を書きましょうか。シンプルに本名や愛称を書くのがオーソドックスですが、絵心のある方は、ボトル全体にオリジナルペイントを施してはいかがでしょうか。同じ酒がたくさん並んでいても、ひと目であなたのボトルだと分かります。と言っても、お店の人が分かりやすいようにすることを心がけましょう。

ボトルにネームタグを掛ける店なら名前のほかにナンバーをどうぞ。毎年、1から始めて一年間にキープした本数がわかるようにカウントアップしていきます。店への貢献度の証であり、来店と飲酒量のペース配分の目安になります。

そして、大事なのは期限の切れたマイボトルの扱いについて、ごちゃごちゃ言わないのがマナーです。最初にキープ期間の決め事があるのですから、期限を切ったら流されても文句は言えません。逆にキープし続けてくれていたら、そのときは料理を一品多く頼むなど、お店の人に感謝の気持ちを表したいものです。お店と客との良好な関係があってこそ、という考え方が上手にボトルキープをするコツかもしれません。

「いいちこ」をボトルキープしたら、どんな飲み方がおすすめ?

シンプルなロックや水割りはもちろん、爽やかな炭酸割りなど、いろんな飲み方で楽しめるのが「いいちこ」の魅力です。定番の飲み方や緑茶ハイをはじめ、いろんな割り材で「いいちこ」を楽しんでください。

グラスに入った緑茶ハイと、いいちこボトルと割り材の緑茶、アイスペールに入った氷
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※記事の情報は2023年4月21日時点のものです。


文/(株)酒文化研究所 山田聡昭
1991年創業、ハッピーなお酒のあり方を発信し続ける、独立の民間の酒専門の研究所「酒文化研究所」第一研究室室長。