YouTubeで配信中の人気ドラマ「おやじキャンプ飯」の馬杉監督にインタビュー! ドラマが誕生したきっかけから、中華鍋やロケ地、印象的に登場するメニュー、そして主人公・明夫さんが愛飲する「いいちこのお湯割り」のことなど、アレコレお聞きしました!

コロナ禍が生んだ大ヒットYouTubeドラマ「おやじキャンプ飯」

キャンプ場の片隅にただひとり。元中華料理人・坂本明夫(60歳)は、「いいちこ」お湯割りを片手に、今日も黙々と中華鍋を振るう。そんな明夫の元に思わぬ客が訪れ…。名優・近藤芳正演じる寡黙なおやじが主人公のYouTubeドラマ「おやじキャンプ飯」(シーズン1・全6話/シーズン2・全6話)は、総再生回数800万回(2022年5月現在)を超える驚異的な人気を博しています。日本YouTubeドラマ界きっての大ヒット作となった理由や、劇中に毎回のように登場する「いいちこ」の魅力について、馬杉雅喜監督にお話をうかがいました。

馬杉雅喜監督

Profile
馬杉雅喜 ますぎまさよし
1983年生まれ。京都府出身・京都在住。中学2年生の時に見た「ショーシャンクの空に」に感動し、世界一の映画監督になることを決意。専門学校で映像を学び、東映京都撮影所で特機部に所属。28歳で独立し、株式会社シネマズギックスを設立。2011 年から、東日本大震災ドキュメンタリー映画制作のため、3 年をかけて東北を取材「stand up」「stand up2」を製作。Short Shorts Film Festival で特別賞授賞。2017 年、「笠置 ROCK!」で映画監督デビュー。2020年、YouTubeドラマ「おやじキャンプ飯」シーズン1公開。翌2021年シーズン2公開。

-まずは、監督作「おやじキャンプ飯」が生まれたきっかけについてお聞かせください。

僕は京都で映像制作の会社をやっていて、CMや広告をメインに仕事をしていたのですが、2020年の春、コロナ禍が始まり、本当に仕事がなくなってしまったんです。我々だけではなく、ほとんどの業界の人が大変な思いをしている頃、さらに非常事態宣言が発令されました。みんな家から出られなくなって、何かしないといけないと思いつつ、何もできない…。脳みそがパンパンになった時期でしたよね。だからこそ、何も考えない時間が必要なんじゃないかと思ったんです。

そこで、「頭がすっきりするリラックスの時間を提供する」というコンセプトでなにかを作ろうと思い立ち、キャンプ・自然をテーマに、事件性もなく確実に安心して見られるドラマを制作することにしたんです。

そんな折、僕の会社の近くの行きつけの中華料理店が突然閉店したんです。90度近く腰が曲がったおじいちゃんがひとりで切り盛りしていた店なんですけど、コロナが原因でお店を閉めたのなら、相当悔しい思いをしたんじゃないかなと思って。

そのおじいちゃんをモデルにした人物をメインキャラクターにして、元中華料理人がキャンプ場の隅っこで生活している話にしようと決めました。食は人間の根源的欲求だと思うので、「おやじがキャンプをしながらおいしい中華飯を作る」という、とてもシンプルなドラマを作ろうと企画し始めたのがきっかけです。

おやじキャンプ飯

-なるほど、コロナ禍だからこそ生まれたドラマなんですね。では、YouTubeで配信したのはなぜですか?

YouTubeドラマって、数年前からいろんなところがチャレンジしてきたんですけど、日本ではなかなか上手くいかなかったんですよね。でも韓国ではヒット作も多くて、しっかり市民権を得ているんですよ。YouTubeドラマやWebドラマで当てた人たちがNetflixの監督やったり。

という話を、韓国のドラマ事情に詳しいスタッフから聞いていて、以前から「YouTubeドラマ、やりましょうよ」って言われてたんですよね。でも、日本ではいろんな壁があって、なかなかできなかったんです。ところが、コロナ禍で、その壁やしがらみが全部なくなったので、「今ならできるかも」と思って作ることにしました。

「おやじキャンプ飯」は日本のYouTubeドラマ業界初のヒット作と言っていただいていますが、タイミングがよかったんでしょうね。

-そういう事情があったのですね。ところで、YouTubeドラマとTVドラマの違いはなんですか?

TVドラマってふとつけたらやっていて、なんとなく気になって、面白そうだから見る、という流れが多いと思うんですけど、YouTubeドラマは、検索したり、関連動画で出てきたもの、つまり、元々好きなものしか見ないんですよね。

専門的に言うと、TVドラマはライトな層からコアなファンを生むという流れなんですけど、YouTubeドラマは初めからコア層に届けられるんです。そのコア層がクチコミで広げてくれるんですよ。ちょっと自慢したい気持ちで、「オレ、こんなドラマ知ってるねん」って。結果、ライト層にまで届くという仕組みです。

-なるほど、YouTubeで配信したことが、ヒットの大きな要因なんですね。

それは大きいですね。もうひとつの要因としては、おじさま方が見てくれたということだと思います。キャンプ自体はすでに流行っていたんですけど、“インスタ映え”とか“ゆるキャン”とか若い層向けのコンテンツが大多数で、おじさま方は置いてけぼりだったんですよね。おじさま方が見るコンテンツが少ないとは思っていたので、その層に刺さったということだと思います。

-キャンプのおもしろさはもちろん、主人公の明夫から感じる人生の悲哀も、おじさま層の共感を呼んだように思います。

そうですね。おじさま方に見てもらえるコンテンツを、と考えたのは確かですが、ターゲットという意味では、僕はいつも1人に絞るんです。「60代の男性」ということではなく、あのつぶれてしまった中華料理店のおじいちゃんに「見てよかった」と思ってもらえるようなドラマを作ろうと思って。結果的にそれがよかったんじゃないかなと思っています。コロナ禍であのおじいちゃんみたいな思いをしている人がたくさんいたということでしょうね。

あ、でも、あの中華料理店、本当にコロナが原因で閉店したかどうかは分からないんですよ。行きつけといっても、そんなに深い話をしていた訳ではないですしね。僕が勝手に妄想しているだけで、本当は年齢が原因なのかもしれないですし(笑)。

馬杉監督

近藤芳正さんと角野卓造さんによる「新旧中華対決」

-明確にひとりの顔を浮かべて作ったドラマとお聞きすると、ますます魅力的です。ドラマの主人公の明夫は60歳なので、モデルのおじいちゃんより若い設定ですが、それはキャスティングの関係ですか?

はい。主演の近藤芳正さんとはずっと以前からご一緒したいと思っていて、主人公の坂本明夫は近藤さんの当て書き(その役を演じる俳優を想定して脚本を書くこと)なんです。

おやじキャンプ飯 主演の近藤芳正さん

-当て書きとお聞きして納得しました。1ファンとしてはもはや、明夫は近藤さん以外、考えられないです(笑)。シーズン2には、第1話ゲストに角野卓造さん、第3話ゲストに温水洋一さん、と大御所が登場されました。

シーズン1がヒットしたおかげで、シーズン2の制作には少し余裕があったので、おひとりおふたりは、名前のある方にオファーしたいと思いました。シーズン1もそうでしたが、1話の再生回数が一番多いんですね。そこですごく悩んで、シーズン2の1話を「新旧対決」にすることを思いついたんです。

シーズン1は京都のキャンプ場が舞台でしたが、冬期休業を前にキャンプ場を出ることになった明夫が、当てもなく車を走らせ、たどり着いた和歌山の漁港。そこで出会う釣り人役を角野さんにお願いしました。キャラクターとしては初めて明夫より年上で、ホームレス歴も長いという設定です。そして裏テーマとして「新旧中華対決」という意味も込めました。角野さんと言えば、『渡る世間は鬼ばかり』の幸楽のご主人役が有名ですから。

もちろんまったく違う役なんですけど、そのあたりの要素もちょっと入れて欲しいと角野さんにお願いして。よく見てもらうと、明夫の軽バンをのぞくシーンで、中華鍋にすごく反応してるんですよ(笑)。

おやじキャンプ飯 ゲスト出演者の角野卓造さん

近藤芳正さんVS温水洋一さん 圧巻の演技力に脱帽!

-渡鬼「幸楽」のマスターとの新旧中華対決だったとは! 遊び心がたまりませんね。そして、劇中の中華対決といえば、温水洋一さんがゲストの第3話ですね。

温水さんには、町中華の元料理人という明夫に対抗する役として、ホテルの高級中華の料理人役をお願いしました。温水さんなら笑いも分かってらっしゃいますし、なにより、僕自身が近藤さんと温水さんの共演を見てみたかったんです。そこで近藤さんにご相談したところ「何回も共演したし、彼、すごいよ」とおっしゃったんで。温水さんも「近藤さんとまたやりたい」と快諾してくださいました。

おやじキャンプ飯 ゲスト出演者の温水洋一さん

-物語上では料理対決、撮影現場ではお二人の芝居対決が繰り広げられたんですね。

はい。実際、近藤さんも「引っ張り出された、心を動かす芝居をしてくれた」とおっしゃっていました。脚本家と相談して、セリフなしでいくことに決めたのですが、お二人には本当にウルトラ難度のお芝居をしていただいたと思っています。なにが難しいって、料理はやることが決まっているので、立ったり動いたりといったパフォーマンスもアドリブもできないんですよ。動きが制限されセリフもない中、心情表現できる場所といえば、顔ぐらいしかないんですよね。半分以上が顔芸というか。あとは、中華鍋を振るう勢いとか、それぐらいです。

-素朴な疑問なのですが、台詞がない脚本には何が書かれているですか?

台詞は「!」とか「!?」とか、ほとんどそんな感じですね(笑)。あとは、「-明夫も負けじと中華鍋を取り出す」みたいな(動きを説明する)ト書きがずっと続いている感じですね。本当にお二人の演技力あってこその回でした。

-対抗心を燃やしていた2人の料理人に友情が芽生えていくさまもたまらなかったです(笑)。

そう、あれは、明夫が、近づいてきたネコを追い払ったのがきっかけなんです。ノラネコはゴミをあさるじゃないですか。だから僕の中で、「中華料理人はネコが嫌い」という設定があって。自分のところに近づいてきたネコを追い払ってくれた明夫に対して、温水さん演じる料理人が心を開いていくんです。ちなみにシーズン1の1話の冒頭でも明夫がノラネコを追い払うシーンがあるのですが、それによって明夫の「アクの強さ」を表現しました。

-ネコ目線の映像も印象的でした。

そうなんです。ネコにGoPro(小型軽量カメラ)を付けて撮影したんですけど、よく見てもらうと、スタッフが映っているんです(笑)。すごく揺れてるので、分かりにくいんですけどね。「そういうのも酒のネタになるからいいんだよ(笑)」ってそのまま使っています。

おやじキャンプ飯 猫登場シーン

“おやじの酒”といえば、やっぱり「いいちこ」なんです

-お酒といえば! 劇中に登場するお酒はいつも「いいちこ25度」お湯割りです。それはなぜですか?

めちゃめちゃシンプルに言うと、“おやじのお酒”で思いついたのが「いいちこ」だったんです。

実は、3Lくらいのペットボトルの焼酎と、もう1種類、名の知れた焼酎と、どれにするか悩んだんです。僕自身はあまりお酒に詳しい方ではないので、まずは料理人の方に相談しました。明夫は中華料理店を営んでいたので、中華に合うお酒で、安く卸した分のストックを持っていて、となると、「いいちこ」かな、と。

見栄えの部分では美術さんと相談して「いいちこは、フォルムとかラベルとか、変に飾ってないところがいいね」と。あと、寒い時期なので、お湯で割って飲みたかったんですよね。そういったことを総合的に判断して「いいちこ」になりました。

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おやじキャンプ飯 主人公が愛飲するいいちこ25度のお湯割り

-「いいちこ」を飲む人、ということが、明夫の性格を表していますよね。

そうなんですよ。酒だけはずっと「いいちこ」というところが、おもしろいなと思って。やかんで沸かしたお湯を大雑把にチタンマグに注ぐ、という動作におやじ臭さが表れますし。ちなみに、先にお湯を入れて、あとから焼酎を入れる、というのも酒好きのスタッフに教えてもらいました。「その方がおいしいから」って。順番は守るけど、割合とかは都度都度ですね。明夫はそういうことにこだわらない性格なので。

-近藤芳正さんは、明夫がいつも「いいちこ」を飲んでいることについて、何かおっしゃっていましたか?

近藤さんは、そこに「いいちこ」が置かれていたら、坂本明夫は「いいちこ」を飲むキャラクターなんだ、という理由をご自身の中で作っていかれるような方なので。それについては特に質問はなかったです。ごく自然に「いいちこ」を手に取られた、という印象ですね。

-明夫が愛飲しているのは、「いいちこ25度」(900ml瓶)ですが、シーズン2の1話で角野卓造さん演じる釣り人が飲んでいるのは、「いいちこパーソン」です。2人が飲み交わすシーンでは、空き瓶が転がっていましたね。

実際には、映っている以上に空いてると思います。角野さん、酒豪なんですよ。「僕、このままでいくわ」って本物の「いいちこパーソン」をほとんどストレートで飲んでらっしゃったんで。明夫に注いでから自分に注ぐシーンを見てもらったら分かると思うんですけど、「わ、ストレートで入った!」って顔してはるんですよ(笑)。「オレはストレートでいくけどな」の芝居なのかもしれませんが。

役者の先輩が真横で本物のお酒を飲まれていたので、近藤さんも「じゃあ、僕も」ということになりまして。近藤さん、お酒、大好きなんですけど、シーズン1の撮影は、一応、水でやってたんですね。でも角野さんとの共演以降、シーズン2は全話、本物の「いいちこ」になりました(笑)。

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おやじキャンプ飯に登場するいいちこパーソン

たき火を肴に「いいちこ」お湯割りを

-それでは、監督の「いいちこ」スタイルについて教えてください!

遅ればせながら、シーズン2を撮り終えてから、「いいちこ」のおいしさにハマっています。僕はいつもこれ(いいちこカップ20度200ml)を持って、ソロキャンプに行っています。1泊だと2本くらいですね。プラスチックなんで、車に積んでも割れないのがいいんですよ。ご飯を食べた後、たき火を肴にって感じですね。飲み方は明夫と同じで、やっぱりお湯割りですね。

僕の思い込みかもしれませんが、「いいちこ」って糖質ゼロだから、歯を磨いた後に飲んでも、罪悪感がないんですよね。キャンプ場って、水場まで行くのが一苦労じゃないですか。飲みながら寝落ちできる「いいちこ」、やっぱり、最高ですね!

馬杉監督といいちこカップ

ここからは「おやじキャンプ飯」の気になるキーワードについて、馬杉監督にお答えいただきます!

監督に聞く! 「おやじキャンプ飯」の気になるキーワード①「中華鍋」

おやじキャンプ飯 中華鍋

元中華料理人の主人公・坂本明夫が使っている中華鍋は、潰れてしまった自分の店から持ち出したという設定です。中華鍋がキャンプに合うかどうかは諸説ありますが、単純に、ゴウゴウと燃えさかるたき火の炎の上で、中華鍋をお玉でカンカンならしている絵が撮りたかったんです。

劇中に登場する中華鍋は、僕の会社のすぐ近くにある「夷川餃子なかじま」さんからいただいたものです。シーズン1の撮影前に「夷川餃子なかじま」さんに中華料理の取材に行ったんですよ。その時「いい中華鍋、探してるんですよね」とご相談したところ、「一個あるよ」ってことで、古い中華鍋をいただきました。錆びていたのでシーズニングしたら、すごくいい感じになりました。

ちなみに近藤芳正さん演じる明夫が使っているのは、北京鍋、シーズン2の3話で温水洋一さん演じるホテル中華の料理人が使っているのは、持ち手が2つある広東鍋です。お2人それぞれに料理監修の方をつけて、鍋だけではなく、包丁もまな板も食材の切り方も変えたので、よかったら見直してみてください。

僕がプライベートで使っているのは、ヨコザワテッパン®さんとのコラボで作ったソロ用の鉄中華鍋です。かわいらしいサイズですし、持ち手が外れてコンパクトになるのがいいんですよね。しかも持ち手が木製なので、握っても熱くないですしね。料理はあまり得意ではなかったので、中華鍋ってハードルが高いように思ってたんですけど、めっちゃ使いやすいですよ。チャーハンもステーキも中華鍋ひとつです。片手で振るのとかも、時々できたら楽しいですし(笑)。中華鍋は底が丸いので、中央に集まりがちなたき火の炎が、まわりに広がっていきやすい形なんです。たき火の高火力でおいしく調理するにはもってこいですね。

せっかくドラマを撮るなら、新しい文化を作りたいと思っていたので、キャンプ場で中華鍋を使っている人を見かけるとうれしいですね。以前はあまり見かけなかったので。

監督に聞く! 「おやじキャンプ飯」の気になるキーワード②「登場メニューのレシピ」

おやじキャンプ飯 登場メニュー

登場メニューのレシピはすべて料理指導の方にお願いしました。僕がメニューを決めてリクエストしたのですが「アレンジ飯が流行ってるけど、定番でお願いします」とお伝えしました。シーズン1は、1話チャーハン、2話ホイコーロー、3話玉子スープ、4話杏仁豆腐、5話餃子と中国茶、6話で再びチャーハンですが、全体を通してコース料理になるように考えました。

シーズン2はコース料理という設定は外して、各話ごとに決めました。1話の舞台が漁港で、イカ釣りをするので、イカを使って中華鍋で作る料理を考えて欲しいと要望を出し、イカと空心菜の炒めもの、というシンプルかつおいしいメニューに決めました。

2話は女子大生のライトキャンパーが背伸びして作りたいもの、という視点で色味も鮮やかな酢豚に。3話の料理対決では、「ちょっと高くて明夫には買えない食材」としてのエビ、中華のエビといえば、エビチリですよね。

4話は脚本家さんが「ちまきはどうですか?」というアイディアを出してくれました。僕は絵的に「ちまきって茶色いしなあ」と思ってたんですけど、いざやってみたら、めちゃめちゃおいしそうにできました(笑)。諸説ありますが、ちまきは栄養価が高いので、中国では体が弱った時に食べるそうなんです。なので、娘の千秋が子どもの頃、風邪を引いた時に明夫が作ってあげた思い出の料理としてはぴったりですし、「ちあき」と「ちまき」の音が似てますしね。

5話は山菜とりに出かけた明夫がプチ遭難します。そこで、非常食の缶詰に拾ったムカゴを入れガスバーナーで温めて食べる。唯一のアレンジ飯ですね。6話の麻婆豆腐については深い意味があるので、後ほどご説明します。

監督に聞く! 「おやじキャンプ飯」の気になるキーワード③「ロケ地・キャンプ場」

おやじキャンプ飯 ロケ地

シーズン1は予算がなかったので、僕の会社がある京都でやるしかないという状況でした。スタッフとロケハンをする中、たまたまナビに出てきたのが「久多の里オートキャンプ場」だったんです。もう夕方だったので、入れるかどうか分からなかったのですが、「とりあえず寄ってみようぜ」ということになり。そこでビビっときたんです。

後日、管理人さんとご相談して、団体エリアを2週間ほど貸し切らせてもらうことになりました。「久多の里オートキャンプ場」は基本、区画サイトなんですけど、団体エリアは区切られてなくて、広々としていて、本当に助かりました。雪が降る地域なので、冬期は休業されるのですが、「おやじキャンプ飯」シーズン1公開後の春、前年比の何倍もの予約が入ったと聞き、うれしかったですね。

シーズン1の後、キャンピングカーを借りて、当時小学1年生だった娘と2人で、新潟から四国、九州まで、全国を旅したんです。もちろんシーズン2のロケハンを兼ねて。シーズン1は林間でしたが、シーズン2は視聴者をいい意味で裏切るためにも海から始めたかったので、京都部北部や北陸の方も見にいきました。

そんな折、和歌山のアウトドアショップ「オレンジ」さんが、「おやじキャンプ飯」が好きということが分かって。社長さんとお会いしたところ、アウトドア界にかける思いや地元愛などで意気投合したんです。そこで社長さんに和歌山県かつらぎ町にあるキャンプ場をいろいろと紹介してもらいました。その中のひとつが「新子キャンパーズパーク」です。そこには年寄りの大きな桜の木が1本あって。時期的に咲いてないこともあって、主人公・明夫の哀愁を彷彿とさせたんです。その桜の木の下にテントを立てるイメージができたので、そこを舞台に、本を書き直すことになりました。

それならばシーズン2の1話の漁港も和歌山にしようと思い、何週間もかけて和歌山を上から下まで歩き回って、イメージに合う場所を見つけました。

監督に聞く! 「おやじキャンプ飯」の気になるキーワード④「テントとギア」

明夫が使っているランタンとテーブルとイスは、撮影スタッフのカメラマンの私物です。彼がスタッフの中で一番古いキャンパーで、キャンプにかけるこだわりも強いので、彼のものを使わせてもらっています。

テントとその他のギアの一部は「スノーピーク」の役員さんの私物をいただきました。僕、企画ができた段階で、「スノーピーク」の会長さんのInstagramにダイレクトメッセージ送ったんですよ(笑)。そしたらすぐに役員さんが電話をくださって。それ以来、とてもよくしていただいて、役員さんの私物の20年以上前のテントをご提供いただいたんです。やはり古いものなので、生地が破れたり、ポールが折れたりしたので、シーズン2の撮影後、メンテナンスに出したんですよね。そしたら、「スノーピーク」さん、やっぱりプロですよね。「ここら辺は完全にキレイにせずに、汚れたままでいいですか?」みたいな対応をしてくださって。はい、完全にシーズン3を見据えてですよね(笑)。ぜひお楽しみにしておいてください。

ちなみに、明夫がいつも「いいちこ」お湯割りを飲んでいる「スノーピーク」のチタンマグは、僕が使っていたものを提供しました。ので、僕は自分用に同じものを新しく買いました(笑)。

シーズン2の1話で角野卓造さんが「いいちこパーソン」を飲んでいる江戸切子。手渡すシーンは描いてませんが、明夫が受け継ぎました。大前提として「おやじキャンプ飯」は各話で出会った人から1アイテムもらう、という設定なんです。

江戸切子の裏設定としては、角野さん演じる釣り人が夫婦で使っていたもので、赤と青の1セットを大切にケースに入れて、軽バンに積んでいたんです。そのセットごと明夫はもらったということになっています。

おやじキャンプ飯 江戸切子

その後、明夫は「おもてなし切子」として、大事なお客様にだけ、切子グラスを出すことになっています。だから2話のソロキャン女子大生には出さず(笑)、4話に登場するロボットに初めて差し出すんです。娘の千秋の声を出すAIロボットのちまきに対して、明夫は一番心を開いたんですよね。

最終話に元妻が登場しますが、明夫は結局、元妻に赤切子を差し出すことができませんでした。明夫自身は青切子を使っているのに…。これについては、現場でも最後まで悩んだんですけど、「明夫はこの雰囲気だと、そんな勇気はないよね」ってことになったんです(笑)。さすがにキザすぎるというか、男の下心というか(笑)。ま、そんな感じですね。

監督に聞く! 「おやじキャンプ飯」の気になるキーワード⑤「最終回」

おやじキャンプ飯 最終回

今、シーズン2最終話の話が出たので、物語の設定について、もう少しお話をします。元々、明夫は京都出身で京都にある父親の中華料理店を継ぐことになっていたのですが、その前に和歌山に修行に出るんです。そして和歌山で出会ったのが、元妻の千歳です。1話の堤防は明夫と千歳との初デート場所なんですが、そんなことは、明夫はすっかり忘れてるんです。でも「イカ釣りって男と女の駆け引きみたいだろ」という角野卓造さん演じる釣り人の言葉で思い出すんですね。

その後、明夫は釣り人に教えてもらった和歌山のキャンプ場に移動します。娘の千秋とはテレビ電話で話をしているので、千秋は明夫が和歌山にいることを知っています。そして千秋は「そういえばお母さんも和歌山にいるな」ということに気づくんです。

千秋の名前の由来は、千の星が降る秋の夜に生まれたから。つまり彼女は流星群が降った日が誕生日なんです。だから「今年の私の誕生日には、星が見えるキャンプ場で一緒にキャンプをしよう」と、千歳を明夫がいるキャンプ場に呼び出しているんです。3話の最後に千歳がちらっと出てきますが、あれは、千秋に頼まれてキャンプ場の下見に来てるんですよ。もちろん、千歳は明夫がそこにいるなんてつゆ知らず。そして、誕生日当日、千秋は「急に行けなくなった」とウソをつくんですね。

そこで、千秋は2人にテレビ電話をつないで、麻婆豆腐を一緒に作ることにするんです。千歳は明夫と一緒に中華料理店をやっていたころ、もちろん明夫を料理人として認めていたのですが、唯一納得のいかなかったメニュー、それが麻婆豆腐なんです。なので、麻婆豆腐はついにお店のメニューに載ることはなかったんですね。だから、千秋の思惑通り、キャンプ場で2人が再会し、明夫が作った麻婆豆腐を千歳が食べた時も「辛すぎる」だの文句を言う訳です。

おやじキャンプ飯 麻婆豆腐

最後に明夫が「(宇宙飛行士になる)千秋の夢を叶えてくれてありがとう」と千歳にお礼を言うのですが、千歳は明夫と別れた後、事業を興して成功しているんですよ。だから千歳のキャンプギアは明夫よりいいものを使ってるんです(笑)。

監督に聞く! 「おやじキャンプ飯」の気になるキーワード⑥「主題歌」

おやじキャンプ飯

シーズン1、シーズン2ともに主題歌は京都を中心に活動しているアーティストの谷澤ウッドストックさんにお願いしています。元々彼の名前は知っていたのですが、主題歌を誰にしようか考えていた時、知り合いに紹介してもらったんです。そこで、一度お会いしてみたら、なんと、彼も、明夫のモデルになったおじいちゃんがやっていた、あの潰れた中華料理店の常連だったんですよ。「僕、めっちゃ行ってました」って(笑)。で、その翌日に上がってきたのが、シーズン1の主題歌「灯し火」でした。もう、僕のイメージ、そのまんま、という感じでしたね。まだ映像は編集中だったので、彼は何も見ずに作った訳ですから、すごいと思います。

シーズン2の主題歌も「灯し火」でいこうかと考えてたんですけど、彼が京都でやった小さなライブに行った時、「新曲を歌います」と言って、初披露した曲が「日の出」でした。シーズン2は「コロナの夜明け」を裏テーマとして考えていたんですけど、谷澤くんも、そういうイメージで「日の出」を作ったというので。なんかもう、シンクロしまくりで。「灯し火」を超える曲は正直、難しいんじゃないかと思ってたんですけど、ビビっと来て、視聴者をいい意味で裏切るという意味も込めて、「日の出」に決めました。

谷澤くんも今や全国に引っ張りだこで、夏にかけてアウトドアフェスとかにも出演するようなので、僕もすごくうれしいです。

監督に聞く! 「おやじキャンプ飯」の気になるキーワード⑦「続編」

おやじキャンプ飯

「テント・ギア」の項目でも少しお話しましたが、今、続編、シーズン3に向けて動いています。シーズン1も2も10月から12月にかけて公開したので、シーズン3もそのあたりに、と考えています。年末の風物詩になればいいな、ぐらいの気持ちですね。舞台は、京都、和歌山ときて、次はどこでしょう(笑)。それはぜひ、お楽しみにしていてください!

▼「おやじキャンプ飯~京都編~」予告編はこちら

▼おやじキャンプ飯公式チャンネルが公開中!
おやじキャンプ飯流「いいちこのおいしい飲み方」

※記事の情報は2022年5月31日現在のものです。