ロックグラスの底はなぜ厚い? タンブラーとはどんなグラス? 1オンスは何ml? 普段何気なく使っている焼酎グラスをいろんな角度から探ってみると 、「そうだったのか!」という驚きと発見がいっぱいです。そんな、焼酎グラスを片手に思わず誰かに教えたくなる雑学をご紹介します。
【焼酎グラスの雑学①】グラスの容量を表すオンスって何ml?
焼酎をよりおいしく飲むためにこだわりたいアイテムといえば「焼酎グラス」。このグラスであのお酒を飲んだら…と想像するだけで楽しくなります。
新しい焼酎グラスをもとめて売り場で商品を眺めているとき、商品ラベルや外箱に「8oz(8fl oz)」とか「10oz(10fl oz)」と書いてあるのを見かけたことはありませんか?
oz(オンス)、あるいはfl oz(液量オンス)は、イギリスやアメリカで使われている体積の単位です。日本では1oz=約30mlと換算するのが一般的ですが、正確にはイギリスでは1oz=28.4130625 ml、アメリカでは1oz=29.5735295625mlとするという国ごとの法定があります。
では、なぜ日本でもグラスの容量をozで示すことが多いのでしょうか? その理由は、私たちが普段使っているグラスの形やサイズが、もともと17世紀のイギリスで確立されたため。グラスの容量を今でもoz単位で表示するのは、その頃の名残なのです。
ちなみに、ロックグラスの容量は6~10oz(180~300ml)が主流。タンブラーは商品によって容量に幅がありますが、8~10oz(240~300ml)のものが標準サイズとしてよく使われます。
【焼酎グラスの雑学②】ロックグラスの底が厚い理由は?
焼酎をオン・ザ・ロックや水割りで飲むときに使う「ロックグラス」。
正式には「オールド・ファッションド・グラス」といい、ウイスキーベースのカクテル「オールド・ファッションド」を作る際に、口が広く背の低いグラスを使っていたことに由来します。
ロックグラスといえば、ずっしりと重く厚みのある底。なぜこんなに底が厚いのでしょうか?
ひとつは、手の温度でお酒が温められたり、氷が早く溶けたりするのを防ぐため。もうひとつは、グラスの中で果物やハーブを潰してカクテルを作るときにグラスが転倒しないようにするためです。その他、底に厚みをつけてグラス全体の強度を高めることで、グラスにカットを施しやすくするという目的もあるようです。
焼酎をロックグラスで飲むときに感じる心地よい重みは、とても理にかなったものだったんですね。
【焼酎グラスの雑学③】タンブラーとは、もともと“獣の角”の器のことだった!
焼酎を水割りやハイボールで飲むときに活躍するグラスといえば「タンブラー」です。
底が平らで寸胴型が特徴のタンブラーは、本来は水を飲むために生まれたグラスですが、今ではさまざまな飲み物に対応するグラスとして暮らしに溶け込んでいます。実はロックグラスも分類的にはタンブラーの一種なのです。
タンブラーという名前は英語の「tumbling(転がる)」から。底が平らなグラスになぜこんな名前がついたのか? それはタンブラーがもともと牛などの獣の角で作られていて、底が尖っていたり丸かったりして倒れやすかったからなんだそう。
私たちに身近なグラスにも、探ってみるとこんなにユニークな生い立ちがあるんですね。
【焼酎グラスの雑学④】クリスタルガラスはなぜ美しいのか?
美しく吸い込まれるような輝き、指で軽く弾くと響き渡る澄んだ音色。高級グラスによく使われる「クリスタルガラス」は、水晶のように透明であることからこう呼ばれるようになりました。
ところで、グラスに使用されるガラスの種類は「ソーダガラス(ソーダ石灰ガラス)」、「耐熱ガラス」、そして「クリスタルガラス(鉛クリスタルガラス)」の大きく3つに分けられます。
そのうち、私たちに最も身近なものがソーダガラスです。「ソーダ」とは原料の1つである炭酸ナトリウムのこと。これを加えると融点が下がり加工しやすくなることから、ソーダガラスは大量生産に向いたガラスとして知られています。
一方クリスタルガラスは、主成分として酸化鉛を添加したガラスのこと。これによりソーダガラスに比べて透明度や光の屈折率が高くなり、軟らかくカットなどの加工も施しやすくなるため、きらきらとした美しい輝きを放つのです。また、酸化鉛の含有率が高ければ高いほど、その輝きも増します。
焼酎を高級グラスで飲んだ時に感じる格別なおいしさには、クリスタルガラスの美しい輝きが一役買っているのかもしれません。
【焼酎グラスの雑学⑤】ペリーも美しさに驚いた! 日本のカットグラス「切子」
焼酎ファンにも人気の高い切子のグラス。「切子」とはカットの技法、またはカットグラスそのものを指す言葉です。
国の伝統的工芸品にも指定されている「江戸切子」は、19世紀の江戸でガラス職人・加賀屋久兵衛がガラスの表面に彫刻したのが始まりです。幕末に黒船で来航したあのペリー提督も、江戸切子のガラス瓶の美しさに驚嘆したという逸話も残っています。
もうひとつ、切子で有名なのが「薩摩切子」です。薩摩切子は幕末に薩摩藩で始まり、明治初めには途絶えてしまいましたが、1985年に薩摩藩主・島津家の末裔によって復元され、今では鹿児島を代表する伝統工芸品となっています。
江戸切子と薩摩切子を見分けるポイントは次の通りです。
・江戸切子
写真提供/江戸切子協同組合
透明なガラスと色を薄く被せた色被(いろきせ)ガラスを使用。カットが深く鮮明で、仕上がりがはっきりとして華やか。シンプルな単文様のデザインが多い
・薩摩切子
主に色被ガラスを用いたカットガラス。厚い素材に切子を施し、色被せガラスへの加工部分が「ぼかし」と呼ばれる絶妙なグラデーションの仕上がり。複数の文様を組み合わせたデザインが多い
日本生まれのカットグラスとして今に伝わる切子。日本の伝統酒である焼酎もおいしく引き立ててくれるはずです。
いかがでしたか? グラスの成り立ちや隠された秘密に思いを馳せながら焼酎を飲むと、いつもの一杯もちょっと特別なものに感じられます。
ぜひお気に入りの焼酎グラスを傾けながら、素敵ないいちこタイムをお過ごしください。
※記事の情報は2021年7月2日時点のものです。
【参考文献】
作花済夫/編集『ガラスの百科事典』朝倉書店
村田育代/著『英国グラスの開花―チャールズ2世からジョージ4世まで』六耀社
『料理食材大辞典』主婦の友社
「一般社団法人日本硝子製品工業会」HP
「伝統工芸 青山スクエア」HP
「江戸切子協同組合」HP
「島津薩摩切子」HP