実は「お酒で太る」と言われる原因は、お酒そのものだけでなく、アルコールによる体内の作用や合わせるおつまみによるところが大きいようです。この記事では、ご自身もお酒好きという管理栄養士の安中千絵さんに、今すぐできる「お酒で太らないためのコツ」をお聞きしました。長く健康的にお酒を楽しむために、まずはちょっとしたことから取り入れてみませんか?
この方にお聞きしました
安中千絵(あんなかちえ)さん
管理栄養士。食品の企画開発ディレクション、レシピ開発、料理撮影、PR、栄養情報監修など、総合的に「食べて健康」を演出する株式会社キャセロール代表。「美味しさ×健康×エビデンス」をモットーに、講演、執筆、健康経営セミナーの提供など幅広く活動中。
お酒で太らないための基礎知識①|「お酒で太る」と言われる理由は主に4つ
「お酒を飲むと太る」とされる理由には、いくつかの複合的な要素があります。
まずは“お酒のカロリー&糖質”です。特徴については後述しますが、アルコール自体にもカロリーがありますし、甘いお酒を飲んだり、甘いジュースなどで割って飲んだりすると、それだけカロリーや糖質の摂取量も増えるので太りやすくなります。
次に、お酒による“食欲増進効果”です。少量のアルコールには胃腸の働きをよくする効果があるため、お酒を飲むと食欲が湧いてつい食べ過ぎてしまうということが起こります。
それとは別に、お酒を飲むとつい“気がゆるむ”ということもあります。いつもより少し開放的な気分になり、普段なら頼まないような揚げ物などを「まあ、いいか」と食べてしまう。そうして摂取した“高カロリーなおつまみ”も、「お酒を飲むと太る」と言われる要因の1つだと言えます。
お酒で太らないための基礎知識②|アルコールのカロリーは太る? 太らない?
アルコールに含まれるカロリーは、体に蓄えられることのない「エンプティカロリー」だと聞いたことはないでしょうか? アルコールは体内に入ると、分解のためいち早く代謝されます。お酒を飲むと顔が赤くなったり動悸がしたりということがありますが、このような反応は、代謝によってカロリーが熱エネルギーとして放出された結果によるものです。
アルコールに含まれるカロリーは1gあたり約7kcalだと言われています。代謝の際にどのくらいのカロリーが消費されるのかは体質によって異なるため、はっきりとした実験結果は出ていませんが、すばやく代謝されるというのは論文にも示されています※1。
…と、ここまで聞くと、アルコールのカロリーでは太らないように感じられるかもしれません。ですが、実はアルコールが代謝されている間、通常行われるはずのたんぱく質、糖質、脂質などの代謝活動は後回しになってしまいます※2。すると中性脂肪の分解も滞り、結果的に脂質を溜めやすく、体脂肪が付きやすい状態になってしまうことがわかっています。
つまり、アルコールのカロリーそのものは蓄積されにくくても、代謝が滞った結果太りやすくなるため、やはりアルコールの摂取量には注意が必要です。
※1 アルコールの生理と栄養
※2 Ethanol causes acute inhibition of carbohydrate, fat, and protein oxidation and insulin resistance
お酒で太らないためのコツ①|太りにくいお酒はある?
ここからは、お酒の選び方について解説します。そもそも「太りにくいお酒」というものはあるのでしょうか?
大前提として、お酒は酵母菌が糖を分解することによって発生する「アルコール発酵」を利用してつくられています。できあがったお酒は、「醸造酒」「蒸留酒」「混成酒」の3つに分けられます。
分類名 | 特徴 | 代表的なお酒 |
醸造酒 | すべてのお酒の原点とも言えるお酒。米や麦、ぶどうなどの原料に含まれる糖分、またはでんぷんを糖化※したものを酵母のはたらきによってアルコール発酵させ、できた液体(もろみ)を搾ったりろ過したりしてつくられる。 | ・日本酒 ・ビール ・ワイン |
蒸留酒 | 醸造酒、またはもろみを蒸留し、加水、貯蔵、またはろ過などを行ったお酒。 | ・焼酎 ・泡盛 ・ウイスキー ・ブランデー ・ジン ・ウォッカ ・テキーラ ・ラム |
混成酒 | 醸造酒や蒸留酒に、糖類や果物のエキスを加えたお酒。 | ・梅酒 ・みりん ・リキュール |
一般的に糖類が残りやすい「醸造酒」や、糖類や果物のエキスが加わっている「混成酒」は、「蒸留酒」に比べて太りやすいと考えることはできます。ただし「蒸留酒」はアルコール度数が高い傾向にあり、アルコール由来のカロリーも高くなるため、どのお酒が太りにくいかを一概に言うことはできません。
強いて言えば、「いいちこ」を含む本格焼酎などの「蒸留酒」を、カロリーのない水やお茶、炭酸水などで割って飲むのが一番太りにくい組み合わせだと言うことはできると思います。ただし前述のとおり、たくさん飲めばそれだけアルコールのカロリーを摂ることになるので、やはり量の加減は必要です。
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お酒で太らないためのコツ②|太りやすいおつまみの特徴は?
続いては、お酒に欠かせない「おつまみ」の選び方を解説します。
太りやすいおつまみの特徴はズバリ、糖質と脂質がそろっているもの。具体的にはフライドポテト、ピザ、たこ焼き、餃子などです。
これらの食べ物はお酒なしでも太りやすいと言えますが、お酒と一緒に食べることによって、アルコール分解による脂肪の代謝低下や食欲増進効果による食べすぎなどと合わさり、さらに太りやすくなってしまいます。
どうしても食べたい場合は、鶏の唐揚げなどのたんぱく質量の多いものを選ぶといいでしょう。たんぱく質は胃の中で滞留する時間が長いので、アルコール吸収を遅らせることができます。同じ理由で、乳製品や食物繊維が含まれるおつまみもおすすめです。
ちなみに、餃子にもお肉のたんぱく質や野菜の食物繊維などが含まれていますが、皮があることに加え、たくさんの油を使って焼くため脂質や糖質を摂り過ぎてしまう可能性があります。食べる量には注意しましょう。
お酒で太らないためのコツ③|太りにくいおつまみの特徴は?
では反対に、どのようなおつまみが太りにくいのでしょうか。
それはズバリ、脂質が少なくたんぱく質が豊富なおつまみです。それに加えて、アルコールの代謝に役立つビタミンB群、亜鉛などのミネラルを含んだおつまみもおすすめです。大豆、肉類、卵などにはこれらがたくさん含まれます。
具体的には、枝豆や冷ややっこなど、油を使っていない大豆製品、そのほかお刺身や脂身の少ない赤身の肉など。焼き鳥では、脂身の少ないささみ、砂肝やレバーはミネラルが豊富なのでいいですね。タレと塩で迷ったら、当然塩の方がカロリーは低くなります。
また、海藻、野菜料理、ナッツもおすすめです。
なかでもナッツは、ビタミン、ミネラル、食物繊維が豊富。ナッツは高カロリーですが、最近の研究において、すべてのカロリーが吸収されるわけではないということがわかってきました。ナッツの固い細胞壁の構造などの影響と考えられますが、実際に吸収されるカロリーは7〜8割だと言われています(個人差があります)※3。ナッツの中では、栄養価が特に高いアーモンドのほか、くるみ、ピスタチオなどがおすすめです。
※3 Food processing and structure impact the metabolizable energy of almonds
Metabolizable Energy from Cashew Nuts is Less than that Predicted by Atwater Factors
お酒で太らないためのコツ④|おつまみの上手な置き換え方
たとえばフライドポテトなど、口寂しさでついつまんでしまうおつまみってありますよね。そうしたものは、枝豆やちぎりキャベツ、野菜スティックなどに置き換えると、グッと太りにくくなります。
そのほかにも、スナック系ならポテトチップスよりナッツ、鶏肉料理なら唐揚げより焼き鳥、副菜系ならポテトサラダより卵焼きを選ぶようにするのがおすすめ。より油分&糖質が少ないもの、たんぱく質&食物繊維が多いものを意識するとよいでしょう。
また、同じカロリーや糖質量の食品でも、お菓子などの加工食品で摂取するのと、ご飯などの加工の少ない食品で摂取するのとでは、体内で吸収されるスピードが変わってきます。加工の少ない食品の方が栄養価が高く、消化の過程も複雑で胃の中での滞留時間も長くなるため、おつまみ選びで迷ったときは、なるべく加工の少ないものをチョイスするとよいでしょう。
お酒で太らないためのコツ⑤|お酒を飲む前にできることは?
お酒を飲む前にできる、簡単な予防策もあります。
飲み会などのシチュエーションでは、つい暴飲暴食しがちです。参加する前に、チーズやヨーグルトなどの固形物、難しければ牛乳や豆乳を摂っておきましょう。
暴飲暴食の原因は主に、ストレスが溜まっていたり、お腹が空き過ぎていたりすること。特に、お腹がぺこぺこの状態で飲み会に行くと、アルコールがものすごいスピードで吸収されて酔いやすくなり、一気に食べることで血糖値も急上昇します。飲む前に乳製品を口にしておくだけで、胃の粘膜の保護になり、血糖値が下がり切った状態も避けられます。もし難しい場合は、キャンディー1個でもOK。とにかく何か少しでもお腹に入れて、空腹状態を脱しておくのがポイントです。
また、喉がカラカラの状態でお酒を飲まないのも大切です。急にアルコールを入れると吸収が早まるため、喉の渇きは水などで癒してから、ゆっくりとお酒の味を楽しむのがおすすめです。一口目にどうしてもシュワッとしたのど越しを求める場合は、ノンアルコール飲料を最初に飲むのも手。
また、飲んでいる途中にお酒と同量の水(チェイサー)を飲むのも大変効果的です。
単純にお腹が膨れて飲む量や食べる量を減らすことができますし、お酒による脱水症状も防げます。
お酒で太らないためのコツ⑥|どうしても締めが食べたいときは?
お酒を飲むとなぜか食べたくなる“締めのラーメン”。飲酒後に塩分を欲するのは、実は脳の錯覚だという説があります。
通常、脳に栄養が届くまでにはさまざまな関門を通ることになりますが、アルコールはそれらの関門をスルーできるため、脳への作用が大きくなります。日本人は普段の食事で塩分を摂り過ぎている傾向にあり、塩分が足りなくなるということはあまりないのですが、アルコール代謝によってミネラルが使われたり、アルコールによる脱水作用が起こったりすることによって、「塩分を補った方がいい」と脳が錯覚を起こしてしまうのです。ですから、濃い味のラーメンなどが食べたくなったら「脳がエラーを起こしている飲みすぎのサイン」だと思ってください。
ラーメンの代わりにするのであれば、胃が温まって食欲が落ち着くスープや味噌汁がおすすめです。
野菜や海藻、豆腐などがしっかり入っているものがいいですね。また、どうしても糖質が摂りたい場合は、お茶漬けよりも雑炊がいいでしょう。雑炊の場合、ご飯が膨らむのでそれほど多くの糖質を摂らずとも満足感が得られます。
まずはできるところから取り入れてみて、長く健康的にお酒を楽しんでいきましょう。
※記事の情報は2025年1月14日時点のものです。