以前は宴会を盛り上げる手段などとして行われていた「一気飲み」ですが、短時間で大量のお酒を飲む行為はたいへん危険です。アルコール低減外来のドクターである吉本先生に、一気飲みのリスクや急性アルコール中毒で倒れた人の介抱の仕方をうかがいます。
この方にお聞きしました
吉本尚さん
筑波大学医学医療系准教授。健幸ライフスタイル開発研究センター長。博士(医学)。やさしい酔い研究会メンバー。
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一気飲みはなぜ危険?
―一気飲みをすると体の中では何が起こってしまうのでしょうか?
たくさんのアルコールを短時間で摂取すると、血中のアルコール濃度が急激に上がります。第1回で酔いの段階(下表参照)の話をしましたが、飲酒量によっては脳の中心にある延髄(えんずい)や脳幹にマヒが起こり、呼吸が止まるなど死と紙一重の状態となります。
一気飲みで特徴的なのは、シラフから危険な状態までが急激に変化すること。酔いの段階を飛び越えて、泥酔や昏睡といった状態になる可能性があります。
―純アルコール量80~120g(25度の焼酎で400~600ml)を普通に飲んでも酔いつぶれてしまうわけですから、それを一気に飲んだら泥酔どころでは済まないわけですね。
一気飲みはとても短い時間でたくさんのアルコールを飲みますから、シラフから一気に昏睡ということも十分あり得るわけです。
酔いの段階 | 飲酒量の目安① (純アルコール量) |
飲酒量の目安② (25度の焼酎の場合) |
状態 |
ほろ酔い | 20g以内~ 多くて40gくらい |
100ml以内~ |
気分が高揚して、気が大きくなります。「理性」の脳、大脳新皮質にマヒが進んでいる状態です。 |
酩酊 (めいてい) |
40~80g程度 | 200~400ml | いわゆる酔っぱらいの状態。大脳新皮質のマヒがどんどん進み、内側の大脳辺縁系や小脳にまで広がりつつあります。舌がもつれ、千鳥足になり、感情の起伏が激しくなり、ところかまわず居眠りします |
泥酔 (でいすい) |
80~120g程度 | 400~600ml | 酔いつぶれた状態。言葉は意味不明、自分で立ち上がることができません。 |
昏睡 (こんすい) |
120~160g程度 | 600~800ml | 酔いつぶれているだけでなく、呼んでも揺すってもつねっても反応しません。脳の中心にある延髄や脳幹にまでマヒが進み、死と紙一重の状態です。放置すると死に至ります。 |
参考資料:アルコール健康医学協会「飲酒の基礎知識」
一気飲みが引き起こす「急性アルコール中毒」とは?
―厚生労働省のe-ヘルスネットによると、急性アルコール中毒は「アルコール飲料の摂取により生体が精神的・身体的影響を受け、主として一過性に意識障害を生じるものであり、通常は酩酊と称されるものである」と定義される、とあります。東京消防庁が公開しているデータでは急性アルコール中毒での搬送数が、年々増加しているのが分かります。急性アルコール中毒になると、どんな状態になるのでしょうか?
意識レベルの低下からはじまり、嘔吐、血圧低下、呼吸数の低下などが起こります。血中アルコール濃度が高まり、呼吸や循環中枢にマヒが起きたり、吐いたものによる窒息が起こることで死に至る可能性があります。
―急性アルコール中毒になりやすいタイプはあるのでしょうか? 前述のグラフと同じく東京消防庁のデータでは、20代の搬送数が突出しています。
飲酒をすると顔が赤くなるタイプの人は、アセトアルデヒド(アルコールの代謝過程で生成される有害な物質)の分解が遅く、体内での濃度が高くなりやすいため体調を崩しやすく、急性アルコール中毒のリスクが高いと考えられます。男性よりも女性、中年層より若年・高齢層の方がアルコールの分解速度が遅いと考えられますので、こちらも高リスクの属性です。
特に若年層は、お酒に不慣れで限界が分かっていないことや、アルコール耐性が低いことから、急性アルコール中毒になりやすい属性です。
また、急性アルコール中毒は一気飲みだけで起こるわけではないのです。飲み会の終わりに余ったお酒がもったいない、とついつい短時間で多めに飲んでしまう、そういったことでも十分なり得ます。お酒に弱い人ですと少量の飲酒で急性アルコール中毒になりますので、注意が必要です。
私自身、学生時代に初めてお酒を飲んだとき、意識を失って倒れてしまったんです。飲んだ量はアルコール度数3%のチューハイを100cc。今は遺伝子検査もしてお酒に弱い体質だと分かっていますが、当時は自分の限界を知らなかったので、分解能力以上に飲んで倒れてしまったわけです。お酒に弱い人は度数の低い少量のアルコールでも急性アルコール中毒になり得るので、ぜひ気をつけていただきたいです。
―急性アルコール中毒を防ぐためにはどうしたらいいでしょうか?
アルコールの吸収には少し時間がかかり、飲酒を終えたとしても30分から2時間は酔いが進みます。なんだかおかしい、と思って飲酒をやめても、それまでの飲酒のスピードが速かったり、アルコール度数が高かったりすると、そこからさらに具合が悪くなる可能性があります。
お酒はゆっくり飲むこと、アルコール度数に気をつけること、そして自分のお酒に対する体質を知っておくことが重要です。空腹時はアルコールが吸収されやすいですので、飲み始めは気をつけた方がいいでしょう。
また、嘔吐は体内に入ってきたアルコールをこれ以上吸収できない、という体からのサインと思ってもらえるとよいでしょう。吐き気を感じたり嘔吐したら、速やかに飲酒をストップしてください。周りの方も止めてあげてください。
そして当然ですが、体調を崩しているときはアルコールの影響が出やすい状態ですので、飲酒を避けた方がいいでしょう。
身近な人が過度の飲酒で倒れてしまったら?
―酔いつぶれてしまった人の命を救うために、居合わせた人はどんな行動をとればいいのでしょうか?
居合わせてしまったことを考え、以下のことを頭に入れていただくといいでしょう。
一気飲みをさせない
まずは酔いつぶれる前の段階のお話ですが、一気飲み、あるいは一気飲ませは命に関わります。はやすだけでも殺人行為になりかねません。ひとりひとりの飲むペースを尊重しましょう。
酔いつぶれた人を1人にしない
窒息、転落、水死、凍死、交通事故…泥酔した人を1人にすると何が起きるかわかりません。「息苦しそう」「全身が冷たい」「大イビキをかいている」「つねっても反応しない」などの危険信号を見逃さないためにも、シラフの人がそばにいてあげましょう。
横向きで自然に吐かせる
酔いつぶれた人を抱き起こして、無理に吐かせるのはとても危険です。吐いたものが逆流してノドに詰まり、窒息することも。窒息が原因で死亡する人は意外と多いのです。寝かせるときは、あお向けではなく、横向きが鉄則。吐物が自然に口から出て、窒息を防ぐことができます。
おかしいと思ったらためらわず救急車を
耳元で名前を呼んだり、つねったり身体をゆすったりしても反応がなかったら、昏睡状態です。“死”と紙一重のところにいます。「事を大きくしたくない」などの体面を気にしている場合ではありません。すぐに救急車を呼びましょう。
出典:特定非営利活動法人ASK「酔いつぶれた人の命を救う4回のチャンス」
一気飲みはしない、させないが大事!
―お話をお聞きして、一気飲みがいかに危険かがよく分かりました。
味わうことなく一気に流し込むような飲み方は、せっかくおいしく作られたお酒がもったいないです。一気飲み以外の場を盛り上げる方法を身につけて、スマートにお酒を楽しんでいただければと思います。
※記事の情報は2023年11月21日時点のものです。