お酒を飲んだ後、お風呂に入ってさっぱりしてから寝たい。でも、アルコールが抜けないうちの入浴にはなんだかリスクがありそうです。一大ブームであるサウナと飲酒の関係も気になります。アルコール低減外来のドクターにお聞きします。

吉本尚さん

この方にお聞きしました
吉本尚さん
筑波大学医学医療系准教授。健幸ライフスタイル開発研究センター長。博士(医学)。やさしい酔い研究会メンバー。

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飲酒後の入浴にリスクはある?

―お酒を飲んだ後に入浴すると、どんなリスクがありますか?

ヒートショック*という言葉をご存じの方も多いと思いますが、お風呂場は血圧が上がったり下がったりすることが多い場所です。血圧は、熱いお湯に浸かると最初は上がり、長めに入浴すると下がります。暖かいリビングから寒い脱衣所やお風呂場に行くことでも、血圧の変化は起こります。そういった意味で、お風呂場はもともと体調不良のリスクがある場所と言われています。

*ヒートショック(ヒートショック現象)…お風呂場やトイレなど、住環境における急激な温度変化によって、血圧が乱高下したり、脈拍が変動する現象。

アルコールを飲むと一時的に血圧が下がりますので、その状態で入浴して体が温まるとさらに血圧が下がり、意識を失ったり、目の前が真っ暗になる、ということも起こる可能性もあります。

―アルコールを飲むと血圧が下がるのはなぜですか?

メカニズムは複雑なのですが、主にはアルコールの血管拡張作用によるものです。血管が広がると血圧は下がります。アルコールを飲むと、顔が赤くなったり、体がポーっと熱くなったり、動悸がしたり、ということがあると思いますが、これらもアルコールの血管拡張作用によるものです。

入浴で体が温まると、血流がよくなり血管が広がりますので、血圧が下がりやすくなります。湯船につかると体に水圧がかかり(そのため血圧が上昇)、湯船から出て水圧から解放されるときにも血圧が下がるため、このタイミングは特に注意が必要です。

―なるほど、お酒を飲んで血圧が下がった状態で入浴すると、さらに血圧が下がってしまうのですね。ちなみに、目の前が真っ暗になるぐらいの血圧というのはだいたいどのくらいなのでしょうか。

個人差はありますが、収縮期血圧(上の血圧)が70~80以下だと症状が出る可能性があります。

厚生労働省e-ヘルスネットによると、家庭で測った場合の収縮期血圧の正常値は115未満とのことなので、70、80はかなり低いですね…。血圧の低下以外にもリスクはありますか?

はい。お酒を飲んで酩酊(めいてい)している状態ではただでさえ転びやすいうえに、お風呂場は滑りやすいので転倒リスクが高くなります。

―ところで、入浴で「汗をかいてアルコールを抜く」ということは可能なのでしょうか。

汗からのアルコール排出はゼロではありませんが、ごくわずかです。むしろ、全身の血流がよくなるので、肝臓に行く血流が減るのではないかと言われます。また水圧の影響でも肝臓に行く血流が減るとも言われています。肝臓の血流が減るとアルコール分解が滞るので、入浴をせず、普通にしていた方がアルコール分解は進むと思います。

また、アルコールによるものに加えて、入浴時の発汗による脱水も考えられますので注意が必要です。

―入浴による血流増加で、余計にアルコールが回ってしまうということも考えられますか?

そうですね。アルコールが口から入って体に吸収されるまでに20分から30分のタイムラグがありますので、飲み終わってすぐ、5分、10分後に入浴すると、急にアルコールが回るような感じになるかもしれません。

逆に言うと、アルコールを飲み終わってから30分から1時間ほど経っているとだいたい体に吸収されているので、そこから急に回るということはないと考えられます。

―それでは、飲酒した後に入浴したい場合、リスクを下げる方法はありますか?

どうしても飲酒後に入浴したい場合はシャワーだけにするとリスクは下がると思います。その日のうちに入浴したいなら、アルコールの分解時間を見極めることも大切です。

総アルコール量 25度の焼酎に
換算したときの量
アルコールの分解に
かかる時間
20g 100ml 4時間
40g 200ml 8時間
60g 300ml 12時間
80g 400ml 16時間
100g 500ml 20時間
120g 600ml 24時間

飲みすぎてしまった場合は翌朝に入浴するようにしましょう。

飲酒後のサウナ、サウナ後の飲酒は?

飲酒後のサウナ、サウナ後の飲酒は?

―空前のサウナブームですが、浴槽に浸からないサウナもやはり飲酒後はリスクがありますか?

サウナには入浴水圧はありませんが、一般的な入浴より高温であることが多いので、血流や血圧への作用は大きいと考えられます。

またサウナは熱くなったら冷水に浸かったり、出たり入ったりを繰り返しますので、血圧の乱高下は一般的な入浴より激しくなることが考えられますので、やはり、飲酒後のサウナは控えるべきです。

飲酒とサウナの関係を調べた研究は実はそれほど進んではいませんが、一般的な入浴よりサウナの方がリスクが高いというデータも存在しています。

―それではサウナ後飲酒する場合の注意点はありますか?

サウナ後も入浴後も軽い脱水状態であるとは思いますが、「楽しみにしていた一杯を我慢してまずは水を飲みなさい」というほどのリスクはないと考えます。激しい運動後の飲酒は控えた方がいいのですが、サウナ後、入浴後であれば、一般的な飲酒リスクと大きな差はありません。

とにかくお酒を飲むのは、サウナ後、入浴後に。飲酒後の入浴やサウナは避けていただきたいと思います。

※記事の情報は2024年3月15日時点のものです。