お酒に弱い・強いとは? 日本人は体質的にお酒に弱いって本当? お酒を飲んで顔が赤くなるのはなぜ? お酒と体質にまつわる疑問を解説します。

吉本尚さん

この方にお聞きしました

吉本尚さん
筑波大学医学医療系准教授。健幸ライフスタイル開発研究センター長。博士(医学)。やさしい酔い研究会メンバー。

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お酒に弱い・強いを決めるのは?

―お酒に弱い・強いを決める要素は何なのでしょうか?

お酒に含まれるアルコール、あるいはそれが肝臓で分解されたアセトアルデヒドが残りやすいか、残りにくいかということが、いわゆる弱い・強いということにつながります。これらは、遺伝子の影響によるものが大きいと言われています。アルコールの消失速度は肝臓が大きい方が速いため、女性より男性の方が、体格の小さい人より大きい人の方が分解は速いと考えられます。

また、脳の感受性の違いもあります。同じ量のお酒を飲んでも酔いを感じやすい人と感じにくい人がいます。これはどのような人がどのくらい、といった数値化はされていないのですが、体感として感じていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

日本人はお酒に弱いって本当?

―日本人はお酒に弱い人が多いと聞きますが…。

いわゆるモンゴロイドと言われる黄色人種、国で言うと日本・中国・韓国の人たちは、お酒を飲めない体質の人が3~4割ほどいると言われています。

―お酒を飲めないというのは?

アルコールが肝臓で分解されるとアセトアルデヒドになるのですが、これは発がん性があり人体に有害な物質です。アセトアルデヒドを分解してくれる酵素の働きが弱い、あるいはまったくない人のことを指します。

日本・中国・韓国などの東アジアの人は、遺伝子的に2型アルデヒド脱水素酵素の働きが弱い人が多くみられます。ちなみに日本列島の中心部ほどその傾向が若干高いと言われています。

ー欧米の人たちは日本人ほどお酒に弱い人はいないんでしょうか?

人類はもともとお酒に強い遺伝子を持っていましたが、数千年前にシベリア地方で遺伝子の突然変異が起こり、これが東アジアに広がったと言われています。したがって欧米の人たちはお酒に強い遺伝子を持っています。ただ、強い遺伝子というと少し語弊があるかもしれません。世界的には日本で言う「お酒に強い人」が“普通”なのです。だから本来的な意味では、お酒に弱い人と普通の人が世の中にいる、と考えた方がいいかもしれません。

ALDH2(2型アルデヒド脱水素酵素不活性型の割合

日本人 44%
中国人 41%
フィリピン人 13%
タイ人 10%
ヨーロッパ系白人 0%
アフリカ系黒人 0%

出典:国税庁「あなたはお酒が強い人?弱い人?」

お酒を飲んで顔が赤くなるのはなぜ?

お酒を飲んで顔が赤くなるのはなぜ?

―お酒を飲むと顔が赤くなる人がいますが、どういう作用で起こるのでしょうか?

お酒を飲んで顔が赤くなることを「フラッシング反応」と言います。これは体内にアセトアルデヒドがあることが主な原因です。アセトアルデヒドが分解されて体内に残っていなければフラッシング反応は起こりません。赤くなる人は、先ほどお話した2型アルデヒド脱水素酵素の働きが弱い人に多く見られます。アセトアルデヒドの分解が遅いために体内に急激に溜まることでフラッシング反応が起こります。

―有害なアセトアルデヒドが体内に残っている時間が長くなってしまうということでしょうか?

そうです。アセトアルデヒドによる発がん性は、顔が赤くなる人の方が高くなってしまいます。「顔は赤くなるけど量は飲める」という方がいたら、頭に入れておいていただきたいです。

鍛えればお酒に強くなる?

―鍛えるとお酒に強くなる、という迷信めいた話もよく聞きますが、どうなのでしょうか?

第1回でもお話しましたが、飲んだお酒に含まれるアルコールは主に小腸で吸収されて、血液を介して全身を周り、肝臓でアルコール脱水酵素の働きにより、アセトアルデヒドに分解されます。さらにアセトアルデヒド脱水酵素の働きにより酢酸へと分解され、それが心臓や筋肉に移動して、炭酸ガスや水になる、というのがアルコールの代謝回路です。

アルコール代謝回路

アセトアルデヒドを分解する能力は遺伝子によるため、鍛えることはできません。ただし、お酒をたくさん飲む人は、アルコールをアセトアルデヒドに分解する酵素の分解スピードが速くなることがあります。

もうひとつは、「耐性」が作られることにより、今までと同じ量を飲んでも脳が効果を感じない、つまり酔えなくなったと感じる状態になることも、言葉を変えれば鍛えられたということになるのかもしれません。以前と同じように酔うために酒量が増え、依存の症状に近づくことになるため、注意が必要です。

お酒に弱いか強いかを確かめる方法

―自分がお酒に弱いか強いかを確かめるにはどうしたらよいのでしょうか?

体質を知る方法はいくつかありまして、ひとつは血液や唾液から遺伝子のレベルを調べる検査です。最近は料金も数千円できるため、気軽に受けられるようになりました。遺伝子は一生変わらないため一度やっておくのもいいかもしれません。

もうひとつ、アルコールパッチテストというものもあります。アルコールを皮膚に置いて赤くなるかどうかを調べるものです。こちらも検査キットが市販されています。アセトアルデヒドの分解能力を見るものですが、気軽にできる反面、日焼けしている人は皮膚の赤みが分かりづらいかもしれませんし、全く飲めない人と少し飲める人の区別が難しいことも欠点かもしれません。

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自分の体質を知って上手にお酒とつきあおう

―体質的に自分がお酒に弱いか強いかを知っておくことのメリットは何でしょうか?

私自身は体質的にお酒に弱いです。若い頃は自分の体質を知らずに飲み過ぎてしまい、トイレで倒れてケガをしたことがありました。体質を知っていれば避けられたと思っています。

お酒デビューをするとき、自分がどれだけ飲めるかを飲んで試すということも聞きますが、検査をしておけば、そういったリスクを伴う行為は必要なくなります。自分に合った適正な飲酒のために、体質を知っておくことは大切だと考えています。

※記事の情報は2023年9月15日時点のものです。