不眠大国と言われる日本。昔から寝酒という言葉があるように、飲酒と睡眠には深い関係があります。お酒が与える睡眠への影響について、アルコール低減外来のドクターにお聞きします。

吉本尚さん

この方にお聞きしました
吉本尚さん
筑波大学医学医療系准教授。健幸ライフスタイル開発研究センター長。博士(医学)。やさしい酔い研究会メンバー。

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アルコールの鎮静・リラックス効果により寝つきがよくなるのは事実

―少量のアルコールを飲むと寝つきがよくなるというのは本当ですか?

はい。アルコールの鎮静効果やリラックス効果によって、寝つきがよくなるのは事実です。夜なかなか眠れない、あるいは眠りが浅いためにお酒を使う人は世界中にたくさんいますが、いわゆる“寝酒”をする人口は日本が一番多いということが、国際的な調査で分かっています。“寝酒大国・日本”ですね。

―それは、文化的な背景が要因ですか?

そうですね。文化というか風習として残っているということもありますが、日本人は睡眠薬などに頼りたくないと思う人が多いということ。そして、カウンセリングや精神科の受診に心理的なハードルがある人が多い、ということが要因ではないかと思われます。

日本に比べ欧米では、眠れずに困ればすぐにカウンセリングを受けるということが浸透しているので、眠れなければお酒に頼る前にまずはカウンセリングを受ける人の方が多いのでしょう。

ちなみに、睡眠への影響を考えると、寝酒は基本的に控えたほうが良いと言われています。

アルコールが睡眠の質に与える影響は?

―アルコールが睡眠の質に与える効果や影響について教えてください。

アルコールが睡眠に与える影響は、前半と後半で変わってきます。前半は今ご説明した寝つきの部分で、少量のアルコールを飲むことで寝つきはよくなります。

しかし、睡眠の後半部分では逆に睡眠が浅くなる、いわゆる中途覚醒の状況になりやすくなる、ということが分かっています。

飲酒と睡眠

―睡眠の前半で寝つきがよくなるのは、アルコールの鎮静・リラックス効果によるものだとすると、後半で睡眠が浅くなったり、中途覚醒したりしてしまうのは、アルコールのどのような効果が作用しているのですか?

それはまだ正確には分かっていないのですが、アルコールが肝臓で分解された物質・アセトアルデヒドが影響しているのではないかという説があります。第1回第2回第5回でもお話しましたが、アセトアルデヒドは発がん性があり人体に有害な物質なので、アセトアルデヒドによって顔が赤くなったり、頭が痛くなったりという影響を及ぼします。

また、アルコールの筋肉弛緩作用により舌が下がって喉を圧迫してしまうことで、一時的に呼吸が止まったり、いびきをかいたりすることで、睡眠が浅くなります。

さらに、アルコールの利尿作用によってトイレが近くなり、途中で起きてしまうことが考えられます。

―睡眠時無呼吸症候群のような症状が、アルコールによって起こる可能性があるということでしょうか。

そうですね。普段は問題なくてもお酒を飲んだときだけ、眠りが浅くなったりいびきをかいてしまったりということは考えられます。

睡眠時無呼吸症候群の人、あるいは診断されていなくても、睡眠の途中で一時期呼吸が止まることがあったり、いびきが多い人がお酒を飲むと、その傾向が強くなることがあるので、気をつけていただいた方がよいと思います。

―ところで睡眠の前半・後半、というのは、寝てから何時間後ぐらいのことを指すのでしょうか。

睡眠時間が7~8時間あるとして、最初の1、2時間が前半の寝つきの時間、睡眠が始まって3、4時間以降が後半と考えてもらったらよいと思います。

睡眠の後半に影響が出るのは、分解に7~8時間以上かかるアルコール量を飲んだ場合で、逆に言うと、分解にかかる時間を見越してお酒を飲むのをやめると、アルコールが睡眠に与える影響を抑えることができるということです。

■アルコールが分解される時間の目安

総アルコール量 25度の焼酎に
換算したときの量
アルコールの分解に
かかる時間
5g 25ml 1時間
10g 50ml 2時間
15g 75ml 3時間
20g 100ml 4時間
40g 200ml 8時間
60g 300ml 12時間

※アルコールの分解速度は体質や遺伝などで変わります

睡眠の質に影響を与えないお酒の飲み方は?

―アルコールは睡眠の前半では寝つきがよくなるという効果、後半では睡眠の質を低下させてしまうことが分かりました。後半の悪影響の部分をおさえ、前半のよい部分だけを享受する方法はありませんか?

入眠後1時間程度で分解される飲酒量に抑えるとよいと思います。1時間で分解できる総アルコール量は体質によって変わりますが、大体5gとなります。これをアルコール度数25度の焼酎に換算すると、総アルコール量5g=25mlとなります。

―25度の焼酎25mlですか。ほんの一口ですね…。

そうですね(笑)。焼酎は割って飲むことも多いお酒ですので、適宜水などで割って飲むのもいいかもしれません。25度の焼酎25mlを5:5の水割りにすれば、ショットグラス1杯程度は飲める計算となります。また温かいアルコールは吸収が早く、リラックス効果もあるので、お湯割りもよいかもしれませんね。

晩酌をした日は寝酒の必要なし

―寝つきをよくしながら睡眠の質を下げないアルコール量はかなり少量であることがわかりました。そのほかに、気をつけることはありますか?

晩酌をした日は、寝酒をしない、ということです。前述したように、4時間で分解できる総アルコール量は20g、25度の焼酎に換算すると100mlです。これくらいの量を晩酌で飲むのであれば、入眠までアルコールの鎮静・リラックス効果は継続しているので、寝酒の必要はないでしょう。

※記事の情報は2024年2月16日時点のものです。