飽くなき好奇心の赴くまま、さまざまな酒場を訪れては大好きなお酒と料理を心から楽しみ、その魅力を発信してきた酒場ライターのパリッコさん。飲み仲間と一緒に提唱した「チェアリング」も、近年ブームとなっています。そんなパリッコさんのお酒の楽しみ方や、時を経て再発見したという「いいちこ」の魅力についても伺いました。

高円寺の有名店で酒場の魅力を知った

―パリッコさんが酒場ライターになったきっかけについて教えてください。

若い頃から何かを創作するのが好きで、20代の頃は音楽活動とかを一生懸命やっていたんです。その中で、色々な友だちが増えていって。20年くらい前、読み物サイトが流行っていたときに、友だちの中にそういったサイトを運営していた人がいて、「お前、何か書けるでしょ」みたいな感じで軽く頼まれたんです。それまで自分が文章を書くなんて意識したこともなかったんですけど、僕も軽い気持ちで引き受けて、週に1本何でもいいから記事を書くことになりました。

それで「毎週書けることって何だろう」と考えたときに、当時からお酒がすごく好きで、毎日のように酒場を飲み歩いていたので、酒場の感想なら書けるかなと思って。毎週続けていたら次第に仕事の依頼が来るようになって、しばらく副業で続けたのち、5年前からフリーランスのライターとして活動するようになりました。

―お酒は、いつ頃からお好きだったのでしょうか?

初めて飲んだ瞬間から、好きだと感じました(笑)。もちろん、友だちと飲んでいるときの盛り上がる感じや酔っ払う感覚も好きだったんですけど、純粋に飲み物として好きというか。最初から「おいしい」と思って飲んでいましたね。

―パリッコさんは著書の中で「未知の酒場に飛び込むのが趣味」「酒場に対して人よりちょっと旺盛な好奇心がある」と書かれています。酒場に対するそのスタンスは、どのように培われていったのですか?

お酒を飲み始めたばかりの頃は、飲み放題があるようなチェーン店でワイワイ飲むのが楽しかったんです。でもあるとき、よく飲んでいた高円寺の駅前にある有名な大衆酒場に「たまにはこういう昔ながらのお店にも入ってみるか」という感じでふらっと入ったら、そのお店がすごくよくて…酒場の魅力を知ったんです。それからはそういった昔からあるお店に好んで入るようになり、酒場の奥深さにどんどんのめり込んでいきました。あともうひとつのきっかけは、漫画家の清野とおるさんですね。

―ドラマにもなった人気作『東京都北区赤羽』の著者の方ですね。

はい。清野さんとは20年くらいの付き合いになるんですけど、すごく気が合って、赤羽でもよく飲んでいました。清野さんの漫画をご存じの方ならわかると思いますが、一緒に飲んでいると変なことばっかり起こるんですよ(笑)。おいしいとか安いとかよりも、エンタメ感というか、変な体験をしたり、ちょっと痛い目を見たりする方が楽しくなってきて。結果、未知のお店への好奇心がさらに旺盛になった感じです。

パリッコさんプロフィール

Profile
パリッコ 1978年、東京生まれ。酒場ライター、漫画家、イラストレーター。酒好きが高じ、2000年代より酒と酒場に関する記事の執筆を始める。雑誌でのコラムや漫画連載、WEBサイトへの寄稿も多数。著書に、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『つつまし酒』(光文社)、『缶チューハイとベビーカー』(太田出版)など。

酒場は、日常の中の気軽なエンターテインメント

―パリッコさんの好みの酒場の条件を教えてください。

僕が酒場に求めるポイントは、大まかに言うと2つあります。1つは先ほどお話ししたような、何が起きるかわからないエンタメ感。あともう1つは、常連さんがいる地元のお店のような、落ち着ける雰囲気ですね。そういう酒場って、昼間に会社で仕事して、夜は家のことをやったりする生活の中でクッションになるというか。リラックスできる、いわゆるサードプレイス(第3の居場所)だと思うんです。僕は他のお客さんとあまり喋ったりするタイプではないんですが、よく見る常連さんがいて、たまには何気ない話をしたりするのもそれはそれで楽しいんです。そこに、おいしい料理がある。好きで通うのは、そういうタイプのお店ですね。

―パリッコさん流の、“いい酒場を見付けるコツ”のようなものはありますか?

仕事柄そういう質問をいただく機会は多いんですけど、これだけたくさんのお店があると、見付けるコツみたいなものはあまりないと思っています。もちろん、その街に古くからあるような佇まいのお店は、長く残っているわけだから“いい酒場”だと思います。でも、もしその隣に新しくて少し変わった雰囲気のお店があったとして、入ってみたらそっちのほうが自分に合っている可能性もあるわけじゃないですか。だから、まずはフィーリングで気になるお店に入ってみて、いいなと思ったらそこに通えばいいし、ちょっと違うなと感じたら一杯と一品だけ頼んでまた別のお店に行ってみる。そんなふうに、気楽に楽しんでみるといいと思います。

―自分好みのお店と出会うためには、失敗を恐れず、まずは気になるお店に入ってみるべきということですね。

そう思います。それに、失敗というか…よく「ハズレ」とか「当たり」という表現がありますけど、僕はそういうのがあまりないんです。どこでも好きになっちゃうので…(笑)。

―そういう気持ちでいたほうが、酒場をもっと楽しめそうですね。ちなみにメニューでも、気になったものには積極的にチャレンジするタイプですか?

そうですね。まあ、お店にしてもメニューにしても新しいものに挑戦しがちなのは、正直そうしないと新しい記事が書けないという仕事的な事情もありますが…(笑)。

でも、そこが楽しさでもあるんです。例えば普段通っているお店でも、あえていつもと違うものを頼んでみると新しいおいしさと出会えたりする。それって、日常の中で気軽に楽しめるエンターテインメントだと思うんですよ。

先日も、昼どきにふらっと入った寿司居酒屋で、他の人たちが海鮮丼とか刺身定食を食べている中、一人だけエビフライと生姜焼き定食を頼んでいる常連さんがいたんです。それが、ボリュームたっぷりでものすごくおいしそうで。きっとあの方はお店の上級者で、色々と頼んでいく中で「これいいぞ!」って見つけたんでしょうね。自分でそういったものを発見するのは、とても楽しいものだと思います。

パリッコさん

座ったら誰しもわかる「チェアリング」の魅力

―パリッコさんと言えば、アウトドア用の椅子を屋外の好きな場所に置いてお酒を楽しむ「チェアリング」の発案者の一人としても知られています。そもそもチェアリングはどのように生まれたのでしょうか?

2016年頃、僕が監修という形で関わっていた『酒場人』という雑誌があったのですが、その2号目の特集で、ライターのスズキナオさんが「椅子を持ってどこか外へ出て、2人で向き合ってお酒を飲んだら酒場みたいになりませんか」と提案してくれたんです。

それまでも、近所の公園にアウトドア用の椅子を持って行って一人で花見をすることはあったし、同じようなことをしている方々を見かけることもあったんですが、それに「チェアリング」という名前を付けたら予想外の広がりを見せまして。この名前自体は我々の間で自然発生的に生まれたものなんですが、今ではInstagramにハッシュタグを付けて投稿してくれる人が数千、数万といたりして、驚く限りです。

川でチェアリングを楽しむパリッコさん
川でチェアリングを楽しむパリッコさん

―パリッコさんが思うチェアリングの魅力について教えてください。

実際にやってみるまでは多分、面倒くさそうに感じると思うんですよね。でも、いざ自分の好きな場所に椅子を置いて座ってみると、その瞬間、ちょっと大げさなんですが、普段の悩みごとが全部消えちゃうんです。目の前の景色と、風の音や鳥の声だけの世界になる。あれが不思議なんですよ。

僕はお酒が大好きだから、そういう状況でのんびり過ごしながらお酒を飲むとすごくリフレッシュできるんですが、正直、お酒は飲んでも飲まなくてもどちらでも楽しいと思います。

―椅子に座るだけで、そんなにも特別な体験になるのですか?

みなさん最初はそういう反応なんです。でも、川沿いとかに椅子を置いて「座ってみたらわかるから、1回、座ってみてください」と言って座ってもらうと、「本当だ」と。わからなかった方は一人もいません(笑)。

アウトドア用の椅子は座り心地もいいので、1時間くらい座っていてもお尻が全然痛くないんです。それに目線も自然と上を向くので、お花見なんかだと(レジャーシートに座るよりも)桜が目に入ってきやすい。目の前に広がる満開の桜を見ながらちびちびとお酒を飲むのは、すごくいいですよ。

―チェアリングに持って行くお酒やおつまみの選び方のポイントはありますか?

もちろん、みなさんの好きなものを選ぶのが一番よいと思うんですけど、汁気が出るものはあまり向かないかもしれません。僕は、食べやすいので海苔巻きが好きです。お酒は缶に入っているような、そのまま飲めるものが楽だと思います。

「いいちこ」は、地元の幼馴染みたいなお酒です

―パリッコさんの、「いいちこ」との出会いについて教えてください。

最初はお酒を飲み始めた若かりし頃ですね。当時はあまりお金がないからよく友だちの家で飲み会をやっていて、そこには必ず「いいちこ」のボトルがあったので、よく飲んでいました。その後は先にもお話ししたように大衆酒場へ通うようになり、「いいちこ」以外のお酒を飲む機会が増えていって…。

その中で、あるとき久しぶりに「いいちこ」を飲んだんです。そうしたら、なんというか、すごくおいしかったんですよ。もちろん若いときもおいしいと思いながら飲んでいたんですが、あらためて「こんなにおいしいお酒だったのか!」と。おいしさを再発見しました。年を経て「いいちこ」に再会したみたいなところがあるので、地元の幼馴染のような感覚がありますね。

「いいちこ」ボトルを見つめるパリッコさん
「このボトルもいいですよね。手触りといいサイズ感といい、抱いて眠りたいくらい」と言いながら「いいちこ」をしみじみと見つめるパリッコさん

―好きな「いいちこ」の飲み方はありますか?

いいちこ25度」を最初はロックで、途中からは炭酸割りで飲むのが好きです。焼酎の味をしっかり味わいたいから、「いいちこ」と炭酸水の割合は半々くらいで濃い目に割って楽しんでいます。それから、「いいちこ下町のハイボール REGULAR BLEND」もよく飲みますよ。これは缶なので、チェアリングにも適していると思います。

そういえば今回、「いいちこ」の取材ということで、家にあった「いいちこ」ポスターの本を持ってきたんですよ。

パリッコさんの私物『風景の中の思想 いいちこポスター物語』
パリッコさんが持参してくれた、私物の『風景の中の思想 いいちこポスター物語』

この本、ポスターはもちろん、アートディレクター河北秀也さんのショートエッセイも掲載されていてすごくいいんです。クリスマス風に飾られたテーブルとか、大自然の真ん中に「いいちこ」を置くっていう発想が最高ですよね。これを眺めながらちびちびとお酒を飲むのが、僕の至福の時間なんです。

至福の時間を再現してくれたパリッコさん
至福の時間を再現してくれたパリッコさん

―ありがとうございます。最後に、パリッコさんにとってのお酒を飲むことの魅力を教えてください。

僕にとってはもう、お酒はほぼ血液みたいな感じになっていますね(笑)。忙しいときに仕事を頑張って終わらせて、一杯飲んだときの幸せな感覚は、他に変えがたいものがあります。お酒は本当に神がかっているというか、よくこんなものが存在してくれたなと。本当に、ありがとうという気持ちでいっぱいです。

笑顔のパリッコさん

※記事の情報は2024年10月29日時点のものです。

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