連載29周年を迎えた長寿漫画「酒のほそ道」など、お酒やつまみを題材にした漫画とエッセイで知られる漫画家のラズウェル細木さん。「酒のほそ道」の主人公と同じく、毎日の晩酌を楽しんでいるラズウェルさんに、大分県の製造場取材にも行った「いいちこ」の印象や魅力などを話していただきました。

自分でつまみを作りはじめたのは、漫画の題材探しがきっかけ

―ラズウェルさんは、普段はお酒をどんな風に楽しまれていますか?

基本、毎日、仕事が終わった後に晩酌をするんですけれど、一応、火曜日を休肝日にしています。

―漫画家という職業には、夜型だったり、徹夜作業が多かったりというイメージがあるのですが、ラズウェルさんは、過去のインタビューで「晩酌を楽しみたいから、朝から仕事をしている」と発言されていますね。

昔から基本的に、明るいうちに働いて、夜は晩酌という生活をしていました。アシスタントをやっていた時期以外、昼夜が逆転したことはありません。やっぱり、他の人たちが酒を飲んでいる時間には、働きたくないんですよ(笑)。

―晩酌ではどんなお酒をお飲まれるんですか?

ビールで始めて、そこから日本酒にいくか、焼酎にいくか、ワインにいくか。その日のつまみに合わせて変わります。

―「酒のほそ道」の中でも、さまざまなレシピを紹介されていますが、ご自身でも、手作りの料理を肴に晩酌を楽しまれることが多いそうですね。おつまみを自分で作りはじめたのはいつ頃ですか?

学生時代に飲みはじめた頃は、外で飲むことが多かったし、自分でつまみを作ることはありませんでした。頻繁に作るようになったのは、(1994年に)「酒のほそ道」の連載が始まってから。漫画の題材探しも兼ねて、旬の食べ物や食材を研究しはじめたのがきっかけだったと思います。

―新しい料理のレシピは、どのようにして開発したり、覚えたりしているのですか?

行ったお店で気に入った料理があったら、それを自分なりに再現してみたり。親しい店だと「これどうやって作るの?」って聞くこともありますね。あと、雑誌やテレビで見て、グッとくるものがあったら、とにかく作ってみる。おいしそうなものがないかなというアンテナは、常に伸ばしている感じです。

―料理は、今も漫画の題材探しという感覚で続けていらっしゃるのでしょうか?

今は、料理自体が楽しくなっていて、毎日、スーパーに行くのも大好きです。何を作るか先に決めてから買い物へ行く場合もあるんですけど、スーパーの鮮魚コーナーとかを見ながら、「今日は何を作ろうかな」と考えるのも非常に楽しいですね。

ラズウェル細木さん

Profile
ラズウェル細木(らずうぇる ほそき) 山形県出身。早稲田大学教育学部在学中は、漫画研究会に所属。卒業後はイラストレーターを経て、1983年に漫画家デビュー。1994年から「週刊漫画ゴラク」で「酒のほそ道」の連載を開始。2012年には、「酒のほそ道」など一連の作品で「第16回手塚治虫文化賞短編賞」を受賞。2023年7月現在、「酒のほそ道」は、第53巻まで刊行されている。

「酒のほそ道」はお酒を飲むときの高揚感を描きたい

―ここからは、酒飲みのバイブルとも言うべき漫画「酒のほそ道」についてうかがいたいと思います。この作品の企画がスタートしたきっかけを教えてください。

麻雀漫画でデビューした後、いろいろな題材の漫画を描いてはみたんです。その中で、飲食系の漫画が自分も一番ノッて描けるし、評判も良かったので、「週刊漫画ゴラク」の担当編集の方から、「本格的にお酒を飲むような漫画を始めましょう」という提案がありました。

―連載開始時点で、設定は細かく決まっていたんですか?

主人公のサラリーマンが毎日、お酒を飲んで、最後に俳句を読む。決めていたのは、そのくらいだけですね。あとは、具体的にこの酒、この料理といった話も描くんですけど、それ以上に「これから飲みに行くぞ!」というときの気持ちの盛り上がり、高揚する気分みたいなものを描きたいと思っていました。

―29年もの長期連載となっていますが、連載を続ける中、特に大変なことを教えてください。

大変なことですか…。週刊連載ですから、すぐに次の話を考えなくてはいけないというのは、大変といえば大変ですが、これだけ長く続けていると、それなりのペースが出来上がっていて。そんなに苦労とも思わないんですよね。それに、ありがたいことに「酒のほそ道」は、わりとマンネリ気味でもOKだったりするんですよ(笑)。

―マンネリOKとは…?

そもそも、お酒を毎日飲むこと自体がマンネリな行為ですけど、飽きることはないですよね。ネットの時代になってからは、読者の反応がわりと聞こえてくるようになりまして。読者からの感想を聞いて、マンネリでも良いんだなと思ったんですよ。

―どのような感想だったのですか?

毎回、最初の1ページ目くらいに「グビグビグビ、プハーッ」って(主人公の岩間宗達が)お酒を飲むシーンがあるんですけど。毎回あれを描いていて、これはマンネリかなと思っていた時期もあったんです。でも、読者の方から「あれが見たいんだ」と言われたんですよ。自分もお酒を飲みながら読むとおっしゃる方も多いのですが、「おいしそうに飲むシーンは絶対に見たいです」と。

それって、どういう感覚なのかを知りたくて、僕も(「酒のほそ道」を)読みながら飲んでみたことがあるんです。内容を忘れてるくらい昔の単行本を持ってファミレスに行き、飲みながら読んでみたら、たしかに、なんだか楽しいんですよ(笑)。飲んでるところが見たいということについても、「なるほどね」と思いました。

ラズウェル細木「酒のほそ道」43巻

「酒のほそ道」の取材で三和酒類本社の「いいちこ」製造場を見学!

―「酒のほそ道」第43巻に収録されている「大分名物めぐり旅」編では、主人公の宗達が大分県宇佐市にある「いいちこ」の製造場を見学しています。ラズウェルさんも、特別に「いいちこ」の製造工程を取材したそうですが、取材前、「いいちこ」にはどのようなイメージを持っていましたか?

「下町のナポレオン」というキャッチフレーズがすごく印象深かかったので、当然、知っていたし飲んでもいました。コンビニでも売っていて、すごく手軽に飲める麦焼酎みたいな印象でしたね。ただ、大分でつくられていると知ったのは、見学に行く直前くらいでした。

―では、どのようなきっかけで、「いいちこ」の製造場を見学することになったのですか?

大分にある会社の社長さんで、ものすごく熱心なファンの方がいらっしゃって。ぜひ一度、大分にも来てほしいと声をかけていただき、行くことになったんです。その方から、ぜひ「いいちこ」も取材してほしいと言われまして。焼酎の製造施設なんて見たことなかったので、喜んで行きました。

ラズウェル細木さんインタビュー

―見学された中で、特に印象に残っていることを教えてください。

原酒を飲ませてもらったときに、ものすごくガツンときたと言いますか、度数が高かったのもあるんですけど、麦の香りをすごく感じたんです。それまで、芋焼酎は香りに特徴があると思っていても、麦焼酎に麦っぽさを感じたことはあまりなかったんです。でも、「いいちこ」の原酒を飲んで以来、麦焼酎への認識が変わりました。あと、とても大きな施設で細かい工程を経て、非常に丁寧につくられていることも印象的でした。

ラズウェル細木さんのサイン
見学の際に書いていただいたサインは今も三和酒類本社に飾られています

―大分では、さまざまな名物などを味わったそうですが、そのときに感じた大分ならではの魅力を教えてください。

とてもおいしい魚介類が豊富で、やっぱり豊後水道(大分県と愛媛県の間の海)は、良い漁場なんだなって感じました。あと、大分県だけではないのですが、九州のあちこちにある鶏肉の文化が印象的ですね。ちょうど、とり天とから揚げの対決みたいな企画もやっていて、本当に鶏肉が大好きなんだなって感じました。どちらもおいしいのだから、無理に対決しなくていいとは思いましたが(笑)。

―ちなみに、お気に入りの「いいちこ」はありますか?

製造場へ行ったとき、「いいちこ」にもこんなにいろいろな種類があることに驚いたんですけど、やっぱり普段、飲むのは、スーパーやコンビニにも置いてあるオーソドックスなものが多いですね。

呑兵衛の習性として、度数の高いお酒の方がなんとなく好きなので(笑)、「いいちこ25度」を選んじゃいます。飲むときは、お湯割りか水割りが多いですね。他のお酒もそうなんですけど、割ったときの方が個性がよく分かるんです。

―「いいちこ」には、どんな料理が合うと思われますか?

大分で飲んだ原酒はガツンときたんですけど、普段お店で買う「いいちこ」は非常に飲みやすいですよね。本格焼酎なんだけど、口当たりが良くて、いろいろなもので割りやすい。

料理はいろんなものと合うと思うけど、個人的にはすき焼きとか、焼肉といった肉系が合う気がしますね。あと、やっぱり九州のお酒だけあって、九州の甘い醤油と合いそうだから、甘い醤油で食べる刺身とか、甘いたれのうなぎとか、九州の甘い味に合うかなと思います。

「いいちこ25度」を手に持つラズウェル細木さん

カップタイプの「いいちこ」は「チェアリング」にもぴったり!

―ラズウェルさんにとって、「いいちこ」はどのような印象のお酒ですか?

コンビニやスーパーで手軽に買える本格麦焼酎という感じです。あと、プラカップのものは、外で飲むときにも携帯しやすくて実に手軽。最近、飲み仲間のパリッコさんが提唱している「チェアリング」をするときにも、すごく良いんです。

―「チェアリング」は、お酒に関する著書も多いライターのパリッコさんらが生み出した造語で、アウトドア用の椅子をいろいろな場所に持っていき、お酒などを楽しんだりすることですね。

椅子に座って、外でお酒を飲むのは、非常に気分が良いんです。日本酒とかでも良いんですけど、僕はどちらかというと焼酎派かな。「チェアリング」のときのつまみは、外に持って行って食べやすい物に限定されるんですけど、そういうつまみは、焼酎と合うものが多い。しかも、カップの「いいちこ」だと、小さくてドリンクホルダーにも置きやすいんです。

チェアリングを楽しむラズウェル細木さん

―とっても楽しそうな「チェアリング」ですが、初めての人は、どんな場所で、どんな風にやるのがおすすめですか?

椅子とお酒、つまみさえ持って行けば、どこでも楽しいと思いますよ。僕は、近所の雑木林でやったこともあります(笑)。最近、仲間内で花見をするときは、絶対に「チェアリング」。シートは、持って行って敷くのが面倒だし、尻が痛くなったりするから、椅子の方が楽。シートの場合、移動させるのが大変だけど、椅子なら好きなように動けるから、寒くなってきたときに日向を追いかけて動いたりもできる。できる場所があるかは分からないのですが、今度、江ノ島でやろうなんて話もしています。

―たしかに、お気に入りの椅子に座って、海を眺めながら飲むお酒はおいしそうです。「チェアリング」には、どんな椅子がおすすめですか?

飲み仲間の中にも、アウトドア用の椅子を買う人が増えているんですけど、椅子の質もどんどん向上して軽くなってるし、値段もそんなにしないんですよ。ただし、ドリンクホルダーは絶対に欲しいです。あと、座面の下に布が張ってあってものが置ける椅子は便利ですね。

―「酒のほそ道」は、来年連載30周年を迎えるわけですが、ラズウェルさんの中では、まだまだ漫画に描きたいお酒や料理、行ってみたい土地や店などがたくさんあるのでしょうか?

これを話すと、いつもびっくりされるんですけど、僕は、沖縄と北海道に行ったことがないんです。泡盛は好きで飲むから、やっぱり本場の沖縄で飲んでみたいし、北海道は、サッポロビールとかもありますからね。新型コロナのせいで、遠出が難しかったりもしましたが、ようやく落ち着いてきたし、現地に行って飲まなくちゃと思っています。

―北海道も沖縄も、魅力的なお酒と料理がたくさんありそうですね。

大分を取材した時にも思ったのですが、やっぱりどこの土地へ行っても、おいしいお酒と食べ物はあるんです。寒かろうと暑かろうと、やっぱりおいしいお酒と食べ物がないと、人は張り合いがなくて暮らしていけないんだなと思います。それに、遠い土地に行かなくても、東京近郊の降りたことがない駅で降りて、飲んでみるというのも面白くて。ひと頃、よくやっていました。

―では、先ほどおっしゃっていたように、「酒のほそ道」のネタに困ることはないわけですね。

絶対に何かしらのネタはありますよね。連載を始めた頃、飲食系の漫画の主流は、(グルメ漫画の)「美味しんぼ」とかだったのですが。なんとなく、のほほんと酒を飲むだけの漫画を始めて良かったなって思っています(笑)。

※記事の情報は2023年7月28日時点のものです。