分かっているようで、イマイチ分かっていなかった「酵母」について、その起源や働きを解説します! 調べてみたら、毎日の暮らしが酵母の恩恵にあふれていました。

酵母を英語で言うと?

酵母は英語でイースト(yeast)。そう、パンづくりに使われる「イースト菌」は酵母のことなんです。発酵の力でパンを膨らませたり、あのいい香りを作り出すのが、パンづくりにおける酵母の役割です。

パンと酵母

明治時代、ビールの製法と共に日本に伝わったyeastという英語に、発酵の源を表す酵母という字をあてたのが語源と言われています。

酵母を使ってできる食品は?

パン以外にも、さまざまな食品が酵母を使って作られています。

代表的なものは「お酒」。ビール、ワイン、清酒、そして焼酎など、ほぼすべてのお酒は酵母がなければ生まれません。

その他、味噌やしょうゆといった身近な調味料も酵母の力で発酵を行って作り出されます。

小皿に盛られた味噌としょうゆ

酵母の大きさや種類は?

酵母ってナニモノで、どんなカタチなのでしょう?

酵母は古くから食品産業で用いられてきた“微生物”です。通常3~6μm×7~10μmの円形あるいは楕円形をしています。1μm(マイクロメートル)は1mmの1/1000ですので、その姿は顕微鏡を使わないと確認できないほど小さなもの。分類としては、真菌類といって麹菌と同じカビの仲間です。

酵母の顕微鏡画像

現代の食品産業では単一の酵母を純粋培養して用いられることが多く、安定的に生産することが可能です。

主な酵母の種類と特徴

酵母の名前 特徴 酵母が使われる主な食品
サッカロマイセス・セルビシエ 一般的に酵母というとこの菌を指すことが多い。酵母の代表格。 焼酎、日本酒、ワイン、イギリス上面発酵ビール、パンなど
サッカロマイセス・パストリアヌス 発酵中に酵母が沈殿するため、下面発酵酵母とも言われる。のどごしのよいすっきりとしたビールができる。 ラガービール
サッカロマイセス・バヤヌス サッカロマイセス・ウバルム、サッカロマイセス・セルビシエ、サッカロマイセス・ユーバヤスの3つの種が自然界で交雑。 ワイン、シードル、ブランデーなど
ジゴサッカロマイセス属 甘いカラメルのような香りの香気成分を生成。 味噌、しょうゆ

酵母と発酵の起源は?

ワインの起源は定かではありませんが、遺跡の検証などから少なくとも7000年以上前にはつくられていたと考えられています。

パンの原型は、今から8000年〜6000年ほど前の古代メソポタミアで食べられていた、小麦粉を水でこねて焼いただけのもの。その後、古代エジプトに伝わり、ほんの偶然から酵母がついて自然に発酵し、ふっくらとしたパンが生まれたのだとか。この発酵パンは、何千年もの間パン生地の一部を種として残し、それを次の仕込みに使う、という製法で作られていました。

このパン種の正体を明らかにしたのは、オランダ人のレーウェンフックです。1680年、自ら考案した顕微鏡で、肉眼では見えない微生物、酵母の存在を確認し、発酵は、それまで考えられていたような自然現象ではなく、微生物が起こす現象だと突き止めました。

1876年、フランスの微生物学者パスツールが「酵母が糖をアルコールと二酸化炭素に分解する」ことを初めて理論的に解明したことをきっかけに、酵母の研究は大きく進歩します。

ルイ・パスツールを描いたイラスト

他の微生物にはない酵母の特徴は?

酵母の特徴的な働きとは、どんなものでしょうか?

酵母の働きは、ブドウ糖をエタノール(アルコール)と二酸化炭素に分解すること。これをアルコール発酵と言います。

アルコール発酵の化学式

C₆H₁₂O₆(ブドウ糖)→2CH₃CH₂OH(エタノール)+2CO₂(二酸化炭素)

ワインならばぶどうの糖分をエタノールに変え、ワインをつくり出します。米を原料とする日本酒の場合はもう少し複雑です。米のでんぷんを麹菌の力でブドウ糖に変え、そのブドウ糖を酵母の働きによりエタノールに変えて日本酒となります。

また酵母は、香りの成分も生み出します。花のような香りや、バナナやリンゴといったフルーツのような香りというように、使用する酵母の種類でお酒の香りが変わってきます。

エタノールと共に生まれる二酸化炭素は、パンを膨らませたり、シャンパンのようにお酒に発泡性を加えたりといった働きをします。

焼酎づくりにも欠かせない酵母

もちろん焼酎づくりにも酵母は欠かせません。下記の記事で、「いいちこ」の酵母の研究開発・管理を行う、三和酒類株式会社三和研究所の酵母担当者が、焼酎の酵母を解説しています。

▼焼酎の酵母について詳しくはこちら
焼酎の酵母を解説! 焼酎づくりに欠かせないその働きとは?

一次仕込みの櫂入れ作業の様子

〈参考文献〉
・「発酵」のことが一冊でまるごとわかる(ベレ出版)
・発酵の教科書(IDP出版)
・よくわかる最新発酵の基本と仕組み(秀和システム)
・酒類総合研究所広報誌「エヌリブ」

※記事の情報は2022年11月8日時点のものです。