「いいちこ」づくりの大ベテラン・丸尾剛さんが、全国各地の“酒場メシ”を食す! 今回訪れたのは、文化人の社交場としても愛され続ける東京・新宿三丁目の名店『犀門』さん。名物オーナーから作り継がれる「コンニャクとじゃこ炒め」を「いいちこ空山独酌」のロックとともにいただきます!

“酒場メシ”ハンター

丸尾剛さん

丸尾 剛(まるお つよし)
三和酒類株式会社 SCM本部所属
40年の焼酎づくりのキャリアを生かし、社内の若いつくり手たちのスキルアップをサポートする「焼酎づくりの先生」。普段家で飲むのは、もっぱら「いいちこ20度」か「いいちこ日田全麹」。最近、麹を使った調味料づくりにハマッている。

新宿三丁目の名酒場『池林房』オーナーの美学が注ぎ込まれた『犀門』

百貨店や海外の高級ブランド店が通りに立ち並び、路地に入れば寄席や小劇場、ミニシアターが点在する新宿三丁目。『犀門(さいもん)』はこの場所で1989年にスタートした酒場です。

店に入ると、磨き込まれた欅(けやき)の一枚板のカウンター。

磨き込まれた欅(けやき)の一枚板のカウンター

奥ではオーナーの太田篤哉(おおたとくや)さんと厨房担当の葛原渉(くずはらわたる)さんが丸尾さんを待っていてくれました。

オーナーの太田さんと厨房担当の葛原さん
高校卒業後すぐに飲食の世界に入ったという『犀門』オーナーの太田さん(左)と、厨房のチーフで、葉山の中国料理店『海狼』での経験をもつ葛原さん(右)。お二人とも北海道岩見沢市出身という道産子コンビ

太田さんは新宿三丁目の発展とともに自身の店を広げてきた、この界隈では知らない人はいないほどの存在。名酒場として知られる1978年創業の『池林房(ちりんぼう)』を皮切りに、『陶玄房(とうげんぼう)』、『浪曼房(ろうまんぼう)』と続き、1989年にここ『犀門』をオープン。4店はすべて新宿三丁目にあります。

太田「もともと札幌で喫茶店がやりたくて、資金稼ぎのために19歳のときに上京したんです。で、今も新宿三丁目にある『どん底』っていう酒場でアルバイトをさせてもらうことになって。行ってみたら、テレビで見たことのある人が普通にお酒を飲んでるんですよ。それこそ三島由紀夫さんとか美輪明宏さんとか。もうびっくりしてね。小金貯めてコーヒー売ってる場合じゃない、やっぱり自分も酒売らなきゃって思って」

北海道から出てきた太田青年は、時代とともにダイナミックに変わるこの街の空気や集まる人々の熱気、物の見方に直に触れ、吸収していきます。そうして培われた経験や美学が注ぎ込まれた店が、4店目にオープンした『犀門』です。

太田「『池林房』も『陶玄房』も結構若いお客さんが多いから、客単価も低めに設定してある。だけどその人たちがある程度の年齢になると、自由に使えるお金も少し増えてきて、もうちょっと落ち着いた空間で飲みたいって思うこともあるでしょう。『犀門』はそういうお客さんのために作った店なんです」

バブル絶頂期にできた店ということもあり、店内空間は今の時代では考えられないくらい贅沢なつくり。テーブルだけでなく床材にもふんだんに欅が用いられ、照明も椅子もすべて信頼を寄せる工房に特注したものだそう。

葛原「この店はいわばオーナー・太田篤哉の“ラウンジ”です(笑)」

真鍮製の椅子の背もたれには店名からとった「犀(さい)」の装飾が
照明には職人が1点1点作った手吹きガラスやステンドグラスが使われている

こうした空間を眼識ある文化人たちが見過ごすわけはなく、時には舞台監督や役者たちがテーブルを囲んで演劇論を交わしたり、ご常連として知られる椎名誠さんをはじめ有名作家たちが編集者と打ち合せをしたり。

葛原「それこそ若いころは『池林房』によく来ていた若手の役者さんが、名前が売れ出してからは『犀門』で打ち上げしたりして。彼らにしてもここでお酒を飲むことがひとつの目標になっているみたいです」

名優たちをも虜にする犀門名物「コンニャクとじゃこ炒め」

そんな目も舌も肥えた大人たちが集まる『犀門』、一体どんな料理が楽しめるのでしょうか?

葛原「基本的にはメニューの3分の1以上が季節の食材を使った日替わりなんですよ。例えば3月頃だったらタラの芽とか、自分たちで掘ってきた竹の子をメニューに並べたり。でも、その一方でウチは昔からのお客さんも多いので、時代が変わっても大事にしなくちゃいけない料理もあって。この『コンニャクとじゃこ炒め』がそうです」

太田「僕がまだ20代の頃、花園神社の隣の店で雇われ店長をやっていたときに作ったメニューの1つなんですよ。55年くらい前かな。今でも残っているのはこの料理くらいなんだけど、特に昔からのお客さんは懐かしがってよく食べてくれます」

あまたの名優たちにも愛され続けるこの一品。一見すると何気ない料理ですが、葛原さんのこだわりが詰まっています。

葛原「コンニャクは築地にある専門店で仕入れています。弾力が他のものと全然違うから。そのコンニャクをあく抜きして、まずは油をひかずに強火でよく炒めるのがポイントです。味付けは自家製のめんつゆで」

丸尾さんのテーブルにもお待ちかねの「コンニャクとじゃこ炒め」が到着。これを「いいちこ空山独酌」のロックとともにいただきます。

丸尾「では、早速いただきます!」

「コンニャクとじゃこ炒め」いただきます!

丸尾「わ、コンニャクの歯ごたえがすごい。コンニャクの選び方や火の入れ方でここまで食感が変わるものなんですねー。そこにめんつゆやじゃこの旨味がしっかり絡まっていて。あと、このじゃこのカリッとした感じもいいんですよ。これはずっと食べ続けられるやつです」

そして「いいちこ空山独酌」のロックを味わいます。

丸尾さん「いいちこ空山独酌」をロックで味わう

丸尾「うん。やっぱりロックにして正解でした。『空山独酌』ってもともと幅広い料理に合うようにつくられているんですが、ロックで飲むと氷が溶けていくにつれ色んな香りが開いていくのも面白いところで。パインのような香りから青りんご、最後にはバナナの香り。そういう香りの変化が楽しめる焼酎なので、『コンニャクとじゃこ炒め』のような飽きのこない料理を食べながらゆっくり飲むのにはぴったりです」

出会えるとラッキー! 春に旬を迎える「チカ」のフライ

「せっかくなので旬の味も楽しんでいってください」と次に葛原さんがおすすめしてくれたのが「チカ」という魚のフライです。

春に旬を迎える「チカ」のフライ

丸尾「へえ、チカって初めて聞きました。九州では見たことのない魚です」

葛原「3~5月に旬を迎える、北海道ではわりとメジャーな魚です。見た目も味もちょっとワカサギに似ています。塩をつけて頭から丸ごと食べてみてください」

これには「いいちこスペシャル」の炭酸割りを合わせてみることに。

「いいちこスペシャル」の炭酸割り

丸尾「いただきます!」

いただきます!

丸尾「揚げたて、サクサクですよ。魚自体に風味があるので、塩はほんの少し付ければ十分。身の部分の甘みも引き立ちますね」

そして「いいちこスペシャル」の炭酸割りを重ねます。

「いいちこスペシャル」の炭酸割りを重ねる

丸尾「深い味わいの『いいちこスペシャル』には、こういう素材の良さを生かしたシンプルな料理が合うんです。なおかつ炭酸割りすることで、揚げ物を食べた後の口の中を一旦リセットしてくれる。そういう点でも、まさにぴったりな組み合わせです」

聞けば、オーナーの太田さんと「いいちこ」との付き合いが始まったのは、「いいちこ」が発売された1979年から。太田さんが初めての自分の店『池林房』をオープンしてすぐの頃からだと言います。

太田「酒もやっぱり自分が飲んでおいしいもの、本物を出したいっていう気持ちが当初からあったからね。だから焼酎も乙類(本格焼酎)を出したいと思って。その時に酒販店さんが『いいのあるよ』ってすすめてくれたのが発売されたばかりの『いいちこ(下町のナポレオン)』だった」

葛原「ウチのドリンクメニューにはレモンサワーとかジンジャーエール割りとか酎ハイ系も色々あるんですが、コンク(濃縮果汁)は一切使ってないんですよ。生のフルーツを使ったり、ジンジャーシロップなんかも手作りしたり。で、そうしたフレッシュな材料を使ったドリンクのベースには『いいちこ』が一番だと思っていて。焼酎もいろんなブームがありましたが、結局『いいちこ』に戻るんですよね」

丸尾「いやぁ…ほんとありがたい話。すごく嬉しいです」

喧嘩も仲直りも、一杯の酒がきっかけをつくる

喧嘩も仲直りも、一杯の酒がきっかけをつくる

半世紀以上を新宿三丁目の歴史ともに生きてきた太田さん。飲食業にとどまらず、自社ビルの1階には『SPACE 雑遊(ざつゆう)』という名の小劇場を開いたりもしているそう。

太田「ウチの店には役者の卵たちもたくさん飲みに来るんですよ。そういう人たちが、小さくてもいいから舞台に上がれるような場所を作りたいっていう気持ちはずっとあって。それに彼らは芝居や稽古が終わったら店に飲みに来てくれるので、ウチとしても循環的にうまくいくわけです(笑)」

そうして集まった人たちは朝まで演劇や文学について語り明かし、時には白熱しすぎることもあったそう。

太田「昔は舞台や映画の関係者が店に集まって酒を飲むと、たいてい喧嘩が始まって。仕舞いには床を転がるように殴り合いして、周りも『どんどんやれ』という感じ。そして20~30分したらさっきまで喧嘩していた人たちが、また一緒に酒飲んで『今度いい映画作ろう』なんて言ってる(笑)。彼らはね、わざとやっているんです。それこそ演技なんですよ。酒を酌み交わしながら喧嘩して、仲直りして…をやらないと落ち着かないんでしょうね。おかげで昔は店の椅子やらよく壊されましたけど(笑)。でも僕はそういう場所を作りたかったんです」

オーナー太田篤哉さん

そう昔を振り返る太田さん。店を長く続ける秘訣を聞いてみると「真面目にやる。それしかないですよ。コツコツが一番」と明快なお答え。

そんな太田さんの店『犀門』を訪れて、丸尾さん、いかがでしたか?

丸尾「太田さんが作る店内空間も、葛原さんの作る料理やドリンクも、こだわり方が普通じゃないんですよね。我々も日々信念をもって焼酎をつくっているわけですが、“こだわり”ってゴールはないんです。でも常に高みを目指して、真面目にやっていくことが大事だと。太田さんや葛原さんの話を聞いて、自分もこうありたいと心から思いました」

丸尾さんと葛原さん
【おまけ】犀門さん直伝!「コンニャクとじゃこ炒め」レシピ
コンニャクとじゃこ炒め

一口大に切ってあく抜きしたコンニャクを鍋に入れ、油をひかずに強火でから煎りする
ごま油、輪切り唐辛子を適量加え、2~3分炒める
コンニャクの表面が白っぽくなってきたら、酒少々とめんつゆ200mlほどを加え、汁気を飛ばすように炒り煮する
じゃこを入れ、コンニャクから水分が出で一回り小さくなるまで炒める
いりごまを指でひねりながら加えて完成

今回お世話になったお店はこちら!

『犀門』内観

『犀門』
東京都新宿区新宿3-36-15 内野ビル4F
TEL:03-5379-2031
営業時間:17:00~24:00
定休日:日曜日

※記事の情報は2024年4月26日時点のものです。