「もう二度とこんな無茶な飲み方はしないから、今すぐこの症状をなんとかしてください」と思わず神に祈りたくなるほどつらい二日酔い。とはいえ、またやってしまった二日酔いの治し方、そもそも二日酔いの予防策はないのでしょうか。アルコール低減外来のドクターにお聞きします。

吉本尚さん

この方にお聞きしました
吉本尚さん
筑波大学医学医療系准教授。健幸ライフスタイル開発研究センター長。博士(医学)。やさしい酔い研究会メンバー。

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そもそも二日酔いっていったい何?

―二日酔いとは科学的にどういうことなのでしょうか?また主な症状にはどのようなものがありますか?

一般的には飲んだ次の日に起きる頭痛や体のだるさ等、ふだんの生活の中では起こらない症状をまとめて「二日酔い」と表現していると思うのですが、実は科学的に「二日酔いとは何か」という定義はいまだなされていません。

お酒を飲んだことがある人なら一度は体験しているであろう二日酔いですが、何が原因で起こるのかがはっきりとは分かっていない、医者の立場から見ると非常に興味深い領域です。

主な症状としては、頭痛、吐き気、微熱、倦怠感、集中力の低下などが挙げられます。

二日酔いが起きる原因は?

―二日酔いが科学的に定義されていないとは驚きです。原因もはっきりしないとのことですが、いくつか考えられる原因はあるのでしょうか。

はい。二日酔いの原因として可能性のある物質や飲み方はいくつか考えられますが、二日酔いの原因はひとつではなく、いくつかの要因が組み合わさって起こると考えられています。

例えばいつもより飲む量が多かった、睡眠不足だったなどです。
しかし、同じようなコンディションで飲んでも起こる日と起こらない日があるというのも、二日酔いの難しさですよね。

物質としては、まずはアセトアルデヒド。第1回第2回第5回でもお話したように、アセトアルデヒドはアルコールが肝臓で分解された後に発生する物質で、顔が赤くなったり、気分が不快になったり、頭痛の原因とも言われています。ところが二日酔い症状がある人の血液検査をすると、アセトアルデヒドが残っている人もいれば残っていない人もいて、はっきりしない部分もあるのですが、現時点では原因の一番手として挙げられています。

第5回でお話した色の濃いアルコールに多く含まれるコンジナー(アルコールの発酵または蒸留の副産物)も原因物質のひとつと考えられます。

また、これも第5回で取り上げたアルコールを飲むことによって起こる脱水、低血糖、酸塩基平衡のアンバランスや電解質の異常(ミネラルバランスの崩れ)も二日酔いの原因になりうるでしょう。

二日酔いになりにくいお酒はある?

―お酒の種類によって「二日酔いになりやすい・なりにくい」ということはありますか?

蒸留酒は醸造酒に比べて翌日残りにくい、高いお酒は酔わない、というようなことを耳にした人もいると思います。私自身の体感としても二日酔いになりにくいお酒、なりやすいお酒があるのではないかと思っていました。2023年の論文で、このような表を見つけましたのでご紹介いたします。

■アルコール飲料中の窒素由来代謝ハザード (NMH) の生理学的影響

ヒスタミン頭痛、発疹、めまい、下痢、呼吸困難、気管支攣縮、心拍出量の増加、血圧障害
チラミン頭痛、片頭痛、神経障害、吐き気、嘔吐、呼吸器障害、高血圧
フェニルエチルアミン血圧上昇、片頭痛
プトレシン心拍出量の増加、頻脈、低血圧、発がん性物質
カタベリン心拍出量の増加、頻脈、低血圧、発がん性物質
スペルミン血圧、呼吸器症状、腎障害
カルバミン酸エチル発がん性、神経系疾患、肝障害
参考論文:Mitigation ofmicrobial nitrogen-derived metabolic hazards as a driver for safer alcoholic beverage choices: Anevidence-based review and future perspectives

これらがアルコール飲料に含まれる窒素化合物なのですが、ヒスタミンなど、それぞれの物質が引き起こす影響をみてみると、頭痛、片頭痛、吐き気、嘔吐など、二日酔いと似た症状が書かれていることが分かります。

お酒のメーカーでは、カルバミン酸エチルを中心に窒素化合物をできるだけ作らない、除去するといった研究、技術向上も行われてきたようです。生産が管理されており、除去の工程をしっかりと行っているメーカーでつくられたお酒は二日酔いになりにくい、と言えるかもしれません。

二日酔いになりやすいタイプは?

―なるほど、このようなたくさんの物質が二日酔いの原因になりうるのですね。それでは二日酔いになりにくい体質・タイプはありますか?

先ほどお話したアセトアルデヒドが二日酔いの主要因だと考えると、アセトアルデヒド分解酵素の働きが強いか弱いかによって、二日酔いになりやすい・なりにくいタイプはあると言えるでしょう。

お酒を飲んでアルコールが体内に入ると、80%以上が肝臓に運ばれ、アルコール脱水素酵素(ADH)によって分解され、アセトアルデヒドという中間代謝物質となります。さらにアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)により分解されて酢酸になり、最終的に炭酸ガスと水にまで分解される、というのがアルコール分解のメカニズムです。

私が監修に携わったアルコール体質検査キット「Nomity」の分類によるとA・B型はC・D・E型に比べて二日酔いになりにくい、と思うかもしれませんが一概には言えません。

タイプ 特徴 日本人の割合
A型 酔っぱらって、明るく楽しく、気持ちのいい状態が持続するので、お酒が大好きになってやめられなくなります。しかし、強いからといって飲みすぎると、朝までお酒が残るので、車の運転やお仕事に影響が出ないよう注意が必要です! 3%
B型 お酒に強いタイプですが、調子に乗ってたくさん飲むとその分アルコールを分解する肝臓への負担は大きいです。事故やハラスメントなど飲みすぎのトラブルにも気をつけましょう。 50%
C型 酔いが持続するのでお酒好きになりやすく、また不快症状が麻痺しているため、「お酒に強い!」と勘違いしやすいです。高濃度の毒素「アセトアルデヒド」にさらされて、がんのリスクが非常に高い体質。実は、飲んだ次の日辛くないですか? 3%
D型 お酒を飲むと顔が赤くなるタイプです。飲みすぎると頭痛や吐き気などの不快症状が出てしまいますので、ゆっくりと少量で楽しみましょう♪習慣的に飲み続けると徐々に慣れていきますが、がんのリスクが高まるなど体へのダメージは深刻です。 40%
E型 お酒を分解するときに産生される毒素「アセトアルデヒド」を分解できないため、ごく少量のお酒でも急性アルコール中毒など深刻な状態に陥る危険性が高いです。自分の体質を理解して、ノンアルコールで楽しみましょう。 4%
アルコール体質検査キット「Nomity」Webサイトより抜粋

なぜなら、そもそもE型はほとんどお酒が飲めませんし、D型は飲んでいる最中に気分が悪くなり二日酔いになるまで飲めないかもしれません。そう考えると、たくさん飲めるA・B・C型の方が二日酔いのリスクが高いとも考えられます。

二日酔いになってしまったら、治し方はある?

―アルコール分解能力が高いがゆえに二日酔いになってしまうパターンもあるということですね…。それではズバリ、二日酔いの治し方はありますか?

先ほどもご説明した通り、二日酔いはいくつかの原因が絡み合って起こっていると考えられているため、「これひとつで治る」というものはなく、あくまで対症療法になります。

脱水症状があるのであれば、水分補給。ミネラルバランスが崩れていることも考慮して、少し塩気のある水分を摂取するのもよいでしょう。市販のイオン飲料や経口補水液、味噌汁なども効果があるかもしれません。

水分補給

低血糖が影響しているかもしれないと思ったら糖分補給。巷で「ラムネが二日酔いによい」と言われているようですが、糖分補給という意味では理にかなっているのかもしれません。

コーヒーも二日酔いを治すのによい、と言われているようですが、体調が悪い時のカフェインはあまりおすすめしません。しかし集中力低下の対策としては一時的にシャキッとすることはあるかもしれませんね。

頭痛があるのであれば、消炎鎮痛剤は効果があるでしょう。

「二日酔い後の倦怠感、頭痛、吐き気の治療のためのロキソプロフェンの全国的な無作為化二重盲検プラセボ対照医師試験」という2020年の論文があるのですが、この研究グループは二日酔いが炎症反応であるならば、ロキソプロフェンが有効なのではないかと仮説を立て、試験を行いました。結果、ロキソプロフェンは二日酔いの頭痛を和らげるのに効果的だったものの、倦怠感や吐き気は緩和しなかった、ということが分かりました。

このような対症療法もあまり効果がないようであれば、基本的には時間の経過を待つしかありません。

飲む前の二日酔い予防策は?

―それでは二日酔いの予防策はありますか?

睡眠をしっかりとるなどして、まずは体調を万全にしておきましょう。

アルコールを飲むスピードを落とすという意味では水などのチェイサーを飲むのもよいでしょう。空腹で飲まないというのは基本的な対策です。胃の中に水や食べ物があると、アルコールの吸収が穏やかになります。

また二日酔いの原因は複数あるので、ビタミンやウコン、肝臓サプリメントなどが経験的に「効果があった」と思うのであれば、取り入れるのもよいと思います。

そして一番の対策は飲みすぎない、ということです。

特に飲み会の席では、飲むスピードが速くなったり、いつもと違うお酒を飲んでしまったり。それはお酒の楽しさでもありますが、アルコール度数が高いお酒は割って飲むなど、全体の摂取量を意識することを心がけてください。

※記事の情報は2024年4月16日時点のものです。