焼酎と泡盛は大きく分けると仲間とも言えますが、原料や仕込みの方法など、実はさまざまな違いもあります。この記事では焼酎と泡盛を比較しながら、その共通点や違いについて探っていきます。

焼酎と泡盛の共通点|蒸留方法とアルコール度数

単式蒸留機

まずは2つの共通点を見てみましょう。焼酎と泡盛は、ともに蒸留酒です。

お酒の蒸留には主に、「単式蒸留」と「連続式蒸留」という二つの方法が用いられます。

単式蒸留 昔ながらの伝統的な蒸留方法。釜にもろみを入れて加熱し、揮発したアルコールを冷却装置に通すことでアルコールを収得する一連の装置を使う。原料由来の風味や香りが特徴として表れやすく、広く世界の蒸留酒で使われている。
連続式蒸留 イギリスで生まれた近代的な蒸留法で、連続して多段階の蒸留を行うことで雑味のない純粋なアルコールを精製することができる。

焼酎の場合は、蒸留方法によって単式蒸留焼酎(本格焼酎)と連続式蒸留焼酎(焼酎甲類)に分かれます。

泡盛は、本格焼酎と同じ単式蒸留※1でつくられます。そのため本格焼酎と同様、原料の香味成分が溶け込んだ特有の芳香と風味、旨みが楽しめます。

また、本格焼酎と泡盛では、アルコール度数も似通っています。

本格焼酎と泡盛のアルコール度数は「酒税法」により45度以下※2と定められています。商品によって違いはあるものの、本格焼酎のアルコール度数は25度前後、泡盛のアルコール度数は30度前後であることが一般的です。

この記事では、ともに単式蒸留でつくられる本格焼酎と泡盛について着目していきます。

※1 単式蒸留機の形状にはそれぞれ違いがあり、本格焼酎には縦型蒸留機、泡盛には横型蒸留機が使われることが多い。
※2 泡盛の一部の商品には、アルコール度数46度以上のものが存在する。これは酒税法上、泡盛の度数帯には該当しないが、琉球王朝の時代からこの度数帯で泡盛として製造されてきた経緯があることから、例外表示が認められている。

焼酎と泡盛の違いはどこにある?

では、本格焼酎と泡盛の違いはどこにあるのでしょうか?

この2つの違いと言われてまず思い浮かぶのは生産地かもしれません。たしかに、本格焼酎は九州をはじめとする本土でつくられ、泡盛は沖縄本島とその周辺の離島や八重山諸島でつくられていますが、違いはお酒そのものにもたくさんあります。

次の項目からは、原料、麹、仕込み方法、貯蔵熟成といった4つの観点からそれぞれを詳しく見ていきます。

焼酎と泡盛の違い①|原料

まず一つ目は原料です。

本格焼酎の原料には、伝統的に使われてきた穀類(麦や米)、イモ類、清酒かす、黒糖に加え、「国税庁長官の指定する物品」として以下の原料を使用することが認められています。

国税庁長官の指定する物品
あしたば、あずき、あまちゃづる、アロエ、ウーロン茶、梅の種、えのきたけ、おたねにんじん、かぼちゃ、牛乳、ぎんなん、くず粉、くまざさ、くり、グリーンピース、こならの実、ごま、こんぶ、サフラン、サボテン、しいたけ、しそ、大根、脱脂粉乳、たまねぎ、つのまた、つるつる、とちのきの実、トマト、なつめやしの実、にんじん、ねぎ、のり、ピーマン、ひしの実、ひまわりの種、ふきのとう、べにばな、ホエイパウダー、ほていあおい、またたび、抹茶、まてばしいの実、ゆりね、よもぎ、落花生、緑茶、れんこん、わかめ
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泡盛の原料は、インディカ米(タイ米)です。

かつては地域で作った米やキビ、さつまいもなどを使ってつくられていたこともありましたが、1920年代初頭頃に沖縄の米の価格が高騰し、生産者たちが泡盛の品質を維持できる海外の米を求めた結果、タイから輸入したインディカ米に落ち着きました。

泡盛の原料、インディカ米(タイ米)

長粒種のインディカ米は、粒を砕くと麹を付着させるための表面積が大きく得られる点や、発酵過程の温度の管理がしやすい点などさまざまなメリットがあったことから、現在でも泡盛づくりにおいては原料として好まれています。

焼酎と泡盛の違い②|麹

次に麹です。

麹とは、米や麦などの原材料に麹菌を生やしたもので、麹菌が作る酵素によって原料を糖化してアルコール発酵を促します。麹の種類には大きく「黄麹」「黒麹」「白麹」と3種類あり、特徴は以下の通りです。

黄麹 主に清酒や醤油、味噌などに使われており、和食文化とは切っても切り離せない菌。もともと日本には黄麹しか存在しなかったため、明治時代までは焼酎も黄麹で仕込まれていた。
黒麹 沖縄の伝統的な菌で古くから泡盛づくりに使われており、明治時代になり本土にも導入された。雑菌の繁殖を抑えるクエン酸を多く生成するためもろみを腐らせにくく、本土の焼酎づくりにも広く普及した。力強い深みとコクのある味わい、キレのよい後味を生み出すのが特徴。
白麹 大正時代に黒麹の変異種として生まれた菌。胞子が飛び散らず作業性もよいことから、こちらも広く普及した。原料が持つ本来の味わいを引き出し、おだやかで飲みやすい味わいに仕上がる傾向にある。

現在の本格焼酎づくりでは、出したい風味によって白麹か黒麹(少数の蔵では黄麹も)が使われます。ちなみに、「いいちこ」づくりには主に白麹が使われています。

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一方、泡盛づくりには必ず黒麹が使われます。上記の通り、黒麹は腐敗を防ぐ効果の高いクエン酸を多く生み出すため、高温多湿な沖縄での酒づくりに最も適しているのです。

焼酎と泡盛の違い③|仕込みの方法

本格焼酎と泡盛の最も大きな違いになるのがこの「仕込み」の方法です。仕込みとは、原料を発酵させてもろみをつくる作業のことを指します。

本格焼酎づくりでは、麹と水、酵母から仕込んだ一次もろみに、麦や芋、米などの主原料を加える「二次仕込み」という方法をとるのが一般的です。

一方の泡盛づくりでは、原料のすべてを一度に加えて発酵させる「どんぶり仕込み(一段仕込み)」という方法がとられます。本格焼酎も明治時代の終わり頃まではどんぶり仕込みでつくられていましたが、この方法では途中でもろみが腐敗してしまうことがしばしばあり、さまざまな試行錯誤を経て現在の「二次仕込み」方式がとられるようになりました。

反対に、高温多湿な沖縄では、段階を分けて仕込むことによってもろみが傷みやすくなります。そのため、泡盛づくりでは原料のタイ米をすべて麹にしてから(全麹仕込み)どんぶり仕込みにする方法がとられています。

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焼酎と泡盛の違い④|貯蔵熟成

貯蔵熟成にも違いがあります。

一般的に三年以上熟成したお酒を、焼酎の場合は「古酒(こしゅ)」、泡盛の場合はクースと呼びます。

焼酎の古酒は江戸時代までは盛んにつくられていましたが、明治期に税金の決まりが変わってからは一度廃り、再びつくられるようになったのは税制改定後の1954年からと言われています。現代の本格焼酎には、甕(かめ)で貯蔵した古酒や、樽で熟成させた樽貯蔵酒などがあります。

一方で泡盛のクースは、古くから今に至るまで重宝されており、中には100年を超えるものもあります。

クースガーミ(古酒甕)で泡盛を寝かせているところ
泡盛を寝かせ、クースをつくっているところ

クースは、クースガーミ(古酒甕)と呼ばれる甕を使い、「しつぎ」という独特の寝かせ方でつくられるのが特徴です。つくられた年代順に泡盛の甕を複数用意し、アヒャーと呼ばれる一番古い親酒が減ってきたら、そこへ次に古い甕の泡盛を継ぎ足します。そしてその甕には、その次に古い甕から注ぎ足します。こうすることで熟成度の急激な若返りを防ぎ、親酒はいつまでもクースとしての風味を維持しているのです。

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ここまで、本格焼酎と泡盛の共通点と違いについて解説してきました。

それぞれの特色を知った上で、焼酎と泡盛の飲み比べをしてみても楽しいかもしれませんね。

【参考文献&URL】
・邸景一/著『本格焼酎を楽しむ事典』西東社
・金本亨吉・沢田貴幸/著『焼酎語辞典』誠文堂新光社
・飯島吉廣・髙峯和則/著『焼酎の科学』講談社
日本酒造組合中央会/本格焼酎と泡盛
観光庁/泡盛の特徴 なぜタイ米(インディカ米)を使用するのか?
国税庁/焼酎に関するもの
全国公正取引協議会連合会/単式蒸留焼酎の表示に関する公正競争規約・施行規則
泡盛の表示に関する公正競争規約・施行規則

※記事の情報は2023年12月22日時点のものです。