お酒の量を表す際に用いられる「一升」、「一斗」、「一石」などの単位。これらは、かつて日本で使われていた尺貫法から来ています。それぞれの量や言葉の成り立ち、歴史などについて、わかりやすく解説します。

監修/日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI)板場正義

そもそも、尺貫法とは?

お酒の量を表すのによく使われる「升、斗、石」などは、日本で古くから使われてきた「尺貫法」の中の、体積を表す単位です。

尺貫法とは、長さの単位を尺(しゃく)、質量の単位を貰(かん)、体積の単位を升(しょう)とする度量衡法のことで、中国大陸や朝鮮半島から伝来し、日本では701年の大宝律令によって制度として確立されたと言われています。

1951年の計量法成立により、公共的な用途には使われなくなりましたが、焼酎をはじめとするお酒やお米の体積をはかるときには今でも使用されています。

※長さ、体積、重さをはかること、およびそれらをはかる単位や器具などを含めて「度量衡」と呼び、それを規制する法律のことを「度量衡法」と呼んでいた。

お酒の世界で、尺貫法は今なお現役!

先述の通り、焼酎などのお酒の量をはかるときには、現在でも尺貫法の単位が使われています。

たとえば、現代でもなじみの深い「一升瓶」。「升」も、尺貫法の単位の一つです。

一升瓶が誕生したのは1901年頃だと言われています。それまで、焼酎や日本酒は桶や甕などから直接量り売りされていました。しかし、水増しなどの不正を行う酒屋も横行したため、不正を防止する目的で開発されたのが一升瓶でした。

この一升瓶が衛生的にも持ち運びにも優れていたことから次第に広まり、計量法が施行されてから半世紀以上経過した現代でも、変わらず使われ続けています。

その他、お店でお酒を注文するときなどに耳にする「合」や、酒造会社が生産したお酒の量を表すときに使う「石」なども、今なお使われている尺貫法の単位です。

「1升」とはどのくらい?

いいちこの一升瓶のイラスト

1升(しょう)は、約1.8L(1.8039L)を表します。

「升」は、木偏を付ければ「枡」という漢字になるとおり、枡の意味を含む言葉です。この漢字は、柄杓ですくう動作を表す象形文字が起源だと言われています。

もともとは古代中国で生まれた単位ですが、当時の量は現在の約10分の1、200mlくらいでした。

日本に伝来してからも長らくの間、「升」の量はその土地の権力者によってまちまちでしたが、豊臣秀吉の太閤検地によって、はじめて統一がなされました。そのときの1升枡は、秀吉が京都から発令したことから「京枡」と呼ばれ、分量も約1.8Lと現在の升とかなり近いものでした。

その後江戸時代には、京枡よりもやや容量の少ない江戸枡が登場したこともありましたが、それも江戸幕府によって1669年に廃止に。改めて京枡を基準とした単位に全国統一され、そのときの「升」が現在でも使われています。

※全国の土地の面積を測量し、それぞれの土地の米の生産量を「石高(こくだか)」としてカウントした。これにより、生産量をはじめて国家規模で把握できるようになり、効率的な税の徴収が可能となった。

「1斗」とはどのくらい?

一斗缶のイラスト

1斗(と)は、約18L(18.039L)を表します。1升の10倍の量です。

「斗」という漢字には柄杓の意味があり、古来より量の単位を表す語として使われてきました。

「一斗缶」という言葉を耳にしたことがある方も多いかと思います。これは、その名のとおり1斗の容量がある直方体形のブリキ缶のことで、業務用の油や洗剤などの容器として使われてきました。そのサイズは高さ約35㎝、一辺約24㎝で、この大きさがイメージできれば、1斗の容量がわかりやすいかもしれません。

ちなみに、現在灯油などを入れるポリタンクは、この一斗缶の代替品として作られたものです。灯油は、今もこのタンクに入る18L単位で売られています。こうしたことからも、「斗」という単位が昔から私たちの生活に根付いていたことを感じることができます。

「1石」とはどのくらい?

米俵のイラスト

1石(こく)は、約180L(180.390L)を表します。1斗の10倍の量です。

先述の通り、焼酎や日本酒などの酒造会社がお酒の生産量を表す際にも使われています。

「石」と言えば、「加賀百万石」という言葉が有名です。この「石」という単位が、その土地の収穫高を表す経済の単位として、米の生産力に換算して用いられるようになったのは、先に述べた豊臣秀吉の太閤検地以降のことでした。

現代のようにあらゆる食べ物がなかった時代、1人が1年間に食べる平均的な米の量は1石だったと言われています。つまり「百万石」とは、100万人が1年間食べられる量の米が収穫できるということ。それだけ加賀国の財力が豊かだったことを表します。

ちなみに江戸幕府直轄地の石高はおよそ400万石だったと言われています。1国だけで100万石というのが、どれほどすごい数字かよくわかるかと思います。

「1合」とはどのくらい?

一合枡のイラスト

1合(ごう)は、180ml(180.39ml)を表します。

「合」は、升の10分の1の量として決められた単位で、お店でお酒を注文するときにもおなじみの単位です。

そこから「合」自体に「10分の1の量」という意味が生まれ、ほかの量の単位の10分の1を表す際にも用いられるようになりました。

例えば、土地の面積の単位(歩・坪)の10分の1を「合」と呼ぶほか、山の高さにも使われます。富士山の登山路を10分割し、5合目、8合目などと呼ぶのは耳なじみがあるかもしれません。

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焼酎をはじめとする、お酒にまつわる単位について解説してきました。

それぞれの単位が表す容量や、その歴史を覚えておくと、焼酎の楽しみがより広がりそうですね。

〈参考文献〉
日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会/著『新訂 焼酎の基』NPO法人FBO(料飲専門家団体連合会)
淡交社編集局/編集、石川 英輔/著『イラストでわかるニッポンのサイズ図鑑』淡交社
石川 英輔/著『ニッポンのサイズ 身体ではかる尺貫法』講談社文庫

※記事の情報は2023年9月22日時点のものです。


監修/日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI)板場正義
焼酎のソムリエ“焼酎唎酒師”の認定団体である日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(略称:SSI)常務理事を務める。『新訂 焼酎の基』をはじめ、同協会発行の書籍の執筆を行う。