お酒と健康について専門家にお聞きする連載企画がスタート。第1回目は「酔う」をテーマに、そのメカニズムや酔いの段階、さめるまでの時間などを解説します。
この方にお聞きしました
吉本尚さん
筑波大学医学医療系准教授。健幸ライフスタイル開発研究センター長。博士(医学)。やさしい酔い研究会メンバー。
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「お酒で酔う」のメカニズムは?
―お酒を飲むと体の中ではどんなことが起こっているのでしょうか?
飲んだお酒のアルコールは主に小腸で吸収されて、血液を介して全身を周り、肝臓で分解されます。肝臓で、アルコールはアセトアルデヒドに分解され、さらに酢酸へと分解され、酢酸は、心臓や筋肉に移動して、炭酸ガスや水になる、というのがアルコールの代謝回路になります。
―「酔い」はどの段階で生まれるのでしょうか?
アルコールが血流に乗って全身に流れていくと、肝臓以外に脳へ届くものもあって、それが酔いに影響します。
―アルコールを肝臓で速く分解できる人とそうでない人では酔い方が違うのでしょうか?
そうですね、アルコール分解がうまくできる人は、基本的に酔いにくいと言えると思います。アルコールの分解速度は、こういった属性や体質で変わってきます。
- 【性別】男性より、女性の方が遅い
- 【年齢】中年層より、若年・高齢層の方が遅い
- 【体格】体が大きい人より、小さい人の方が遅い
- 【顔色】飲酒で顔が赤くならない人より、赤くなる人の方が遅い
- 【食事】食後より、空腹時の方が遅い
- 【睡眠】起きているときより、睡眠中の方が遅い
「酔い」の段階とは?
―酔いには段階があるというお話が出ましたが、具体的にはどういったものなんでしょうか?
ほろ酔い、酩酊(めいてい)、泥酔(でいすい)、昏睡(こんすい)と4つの段階で考えると分かりやすいかと思います。
酔いの段階 | 飲酒量の目安① (純アルコール量) |
飲酒量の目安② (25度の焼酎の場合) |
状態 |
ほろ酔い | 20g以内~ 多くて40gくらい |
100ml以内~ |
気分が高揚して、気が大きくなります。「理性」の脳、大脳新皮質にマヒが進んでいる状態です。 |
酩酊 (めいてい) |
40~80g程度 | 200~400ml | いわゆる酔っぱらいの状態。大脳新皮質のマヒがどんどん進み、内側の大脳辺縁系や小脳にまで広がりつつあります。舌がもつれ、千鳥足になり、感情の起伏が激しくなり、ところかまわず居眠りします |
泥酔 (でいすい) |
80~120g程度 | 400~600ml | 酔いつぶれた状態。言葉は意味不明、自分で立ち上がることができません。 |
昏睡 (こんすい) |
120~160g程度 | 600~800ml | 酔いつぶれているだけでなく、呼んでも揺すってもつねっても反応しません。脳の中心にある延髄や脳幹にまでマヒが進み、死と紙一重の状態です。放置すると死に至ります。 |
参考資料:アルコール健康医学協会「飲酒の基礎知識」
「ほろ酔い」はポジティブな気分になる状態ですね。「酩酊」状態になると、脳の本能や自律神経を司る大脳辺縁系のマヒが出始め、舌がもつれたり千鳥足になったりします。「泥酔」となると、いわゆる酔いつぶれるといった状態。嘔吐したものを喉につまらせて窒息するなど、そういったことも起こりやすいので注意が必要です。「昏睡」までいっていまうと、呼吸を司る延髄などにマヒが起こるため、最悪の場合亡くなることもあります。
ただこれは比較的短い時間で飲んだ場合の例でして、ゆっくり時間をかけて飲んだ場合や体調、体質によって酔いの程度は異なりますので、飲酒量はあくまで目安とするのがよいでしょう。
―お酒を飲むときは「ほろ酔い」までに留めておきたいところですね…。
酔いが進むと、何杯飲んだかも分からなくなってくるんですね。そうなるとお酒の味も分からないので、せっかくのおいしいお酒がもったいないですよね(笑)。味わって飲める程度の酔いに留めるのがよいでしょう。
酔いがさめるまでにどのくらい時間がかかる?
―アルコールが抜けるまでに必要な時間はどのくらいなのでしょうか?
アルコールの分解速度は体質や遺伝などで変わってきますが、1時間に分解できる純アルコール量は4~9gと言われています。
下の表は1時間で5gくらい分解できる人の例を出していますが、もちろんこれよりも時間がかかる人もいます。20gの純アルコールを分解するには5時間ほどかかると考えていただくといいでしょう。
総アルコール量 | 25度の焼酎に 換算したときの量 |
アルコールの分解に かかる時間 |
20g | 100ml | 4時間 |
40g | 200ml | 8時間 |
60g | 300ml | 12時間 |
80g | 400ml | 16時間 |
100g | 500ml | 20時間 |
120g | 600ml | 24時間 |
―アルコールが抜けるまでに、思ったより時間がかかるんですね。
知らず知らずに飲酒運転をしてしまっていることを避けるためにも、飲んだ翌朝に車の運転の予定がある人などは知っておいていただくといいと思います。
―ちなみにお水をたくさん飲んでも、酔いがさめるスピードは速まらないのでしょうか…。
医学的な見地から申し上げると、速まりません。水分を摂るとアルコールによる脱水は補正されますが、アルコールの分解には影響がないんです。
―尿とか汗では排出されないんですか?
本当に微量で、基本的に時間が経つのを待っていただくほかありません。
―チェイサーとしてお水を飲む、というのはよくあるシチュエーションですが…。
お水でアルコールを中和することはできませんが、お水を飲むことで、お酒を飲む量を制限して酔いを抑えると言う点では、とても意味があると思います。
一日に飲むお酒の適量は?
―厚生労働省が推進する「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」のWebサイトには「節度ある適度な飲酒」は1日平均純アルコールで約20g程度と記載されていますが、先生は一日あたりの適量はどのようにお考えですか?
世界でもいろんな基準が出されているんですが、最近はなるべく少ない方がいいという考え方が主流です。とはいえ基準があった方が分かりやすいので、「節度ある適度な飲酒」量は純アルコールで20gとなっています。
もうひとつ、「生活習慣病のリスクを高める飲酒」という基準がありまして、男性40g、女性20gを超えて飲酒をしている人は生活習慣病のリスクが高いので、この人数を減らしていこうというのが国際的な基準や目標になっています。
※記事の情報は2023年8月25日時点のものです。