太古の昔に偶然生まれ、人類の歴史とともに進化してきたお酒づくり。それを分析し磨きあげ、再現性を持たせてきたのが科学の力です。そんなサイエンス面から「いいちこ」を支える三和研究所の研究員に聞いた、おいしさの秘密・秘訣とは? 今回は、もろみからアルコールと香味成分を取り出す「蒸留」について解説していただきます。

この人が解説!
井元勇介(いもとゆうすけ)さん
三和研究所 アートサイエンスパーク 研究室
蒸留酒の香味、分離技術(蒸留・精製・分析)のスペシャリスト
Q1.「いいちこ」 蒸留工程にはどんなサイエンスが活かされている?
お酒をその製造工程の違いで大分類すると、ビールやワインに代表される醸造酒、みりんやリキュールなどの混成酒、ウイスキーやブランデーなどの蒸留酒があり、「いいちこ」を含む焼酎は蒸留酒に分類されます。
焼酎における蒸留は、アルコールを含む液体(もろみ)を加熱して揮発した気体を冷やして再び液体にすることで、主にアルコールと香りの成分を抽出する工程です。なかでも香りは焼酎の味わいに大きく関与します。その香りの成分がどんな物質特性を持っているのかを把握し、必要な特性を取り出すための分離方法の検討も研究員が担っています。
また、もろみを加熱することで起こる反応などもあります。蒸留を経ることで、 もろみにどんな変化が起きてどんな成分が抽出できるかというのを計算と実践を繰り返して、新しい原酒を生み出すための研究を行っています。例えば、蒸留の序盤、中盤、終盤といったタイミングで、抽出できる香りも変わってくるんです。新しいコンセプトの原酒をつくるときは、どこで蒸留をストップさせるかも重要になってきます。
さらに、実験室で行ったことを工場で再現するためには、加熱にどのくらいのエネルギーが必要なのか、冷却にどのくらいの水がいるのか、といった化学工学の知識も活かしています。

Q2. 原料とつくりの良さを活かすために、蒸留で大切な点は?
蒸留そのものだけではなく、蒸留に至るまでの過程も非常に重要です。単式蒸留では、もろみの状態がそのままお酒の品質に影響します。どのような発酵を経て、蒸留前のもろみがつくられたかが重要であり、ごまかしは効きません。そうやってつくったもろみを確実に「いいちこ」に仕上げていくために、蒸留はトラブルのない、安定した運用が求められます。
Q1.で蒸留の序盤、中盤、終盤といったタイミングで、抽出できる香りも変わってくる、というお話をしましたが、蒸留工程ではカットポイント(蒸留の開始と終了のタイミング)に加え、品質のムラをなくすための適切な温度制御が重要です。例えば、減圧蒸留の場合、減圧度合いの制御がもろみの温度制御に直結するため、これも重要なポイントです。
Q3.常圧蒸留と減圧蒸留の特性と役割は?
さて、いいちこの原酒は蒸留方法の違いという観点から見ると常圧蒸留原酒と減圧蒸留原酒があります。2つの方法を取り入れることで異なる香りや味わいのお酒をつくり分けることが可能になります。
常圧蒸留では、もろみを加熱する過程で生じる様々な香りが加わり、香ばしく濃厚な印象を与えます。例えて言うなら、トーストを思い浮かべていただくと分かりやすいかもしれません。パンをトーストして色が変わると香りが変わりますよね。これをメイラード反応と言います。常圧蒸留でも同じようにメイラード反応が起こるため、香ばしいような香りが加わります。
一方、減圧蒸留では低温で蒸留するため、下図のように「加熱により生じた成分」がないため、発酵由来の果実のような香りが強調され、すっきりとした印象になります。こちらは低温調理のようなもので、素材(もろみ)の持ち味を活かした華やかな酒質となります。
このように、2つの蒸留方法にはそれぞれの特性があります。常圧蒸留と減圧蒸留の特性をうまくバランスさせることで、ロック、水割り、お湯割り、炭酸割りなどいろんな飲み方で「いいちこ」をおいしく飲んでいただけるのです。
常圧蒸留と減圧蒸留の違い

▼あわせて読みたい ・「常圧蒸留」と「減圧蒸留」の違いは? 焼酎の味や香りはどう変わる? |
Q4. 蒸留機がステンレス製なのはなぜ?
三和酒類の蒸留機の素材はすべてステンレス。銅製ではなくステンレス製を導入している理由は、なるべく多くの香りを回収したいから。また、減圧蒸留に耐えうる強度を確保することも理由のひとつです。
一方、銅製の蒸留機を導入する効果としては、原料に含まれる硫黄成分を吸着させて、香味をまろやか・軽快にするということが挙げられます。ただ、「いいちこ」の場合、大麦を精麦することなどで硫黄成分をある程度除去できるため銅製の蒸留機は使用していないのです。
さらに、ステンレスを使用する事で銅の溶出が抑えられ副産物を食品や飼料、肥料に有効利用しやすくもなっています。
Q5.最後に蒸留担当の方からメッセージをお願いします
大麦、麹、酵母、地下水をうまく組み合わせて発酵させることで自然の恵みを引き出し、それを蒸留によって凝縮し、皆様のお手元にお届けしています。大麦、地下水、麹、酵母をうまく組み合わせて発酵させることで自然の恵みを引き出し、それを蒸留によって凝縮し、皆様のお手元にお届けしています。蒸留所のある宇佐や日田の自然の恵みも感じていただければと思います。
大麦麹でつくる麦焼酎は比較的歴史が浅いですが、その分、サイエンスの力を使って原料や微生物と向き合いながらつくられています。「いいちこ」の品質も時代に合わせて少しずつ改良されていますが、私たちもその時々で最新の科学の知見を活用し、皆様に、よりおいしいものをお届けしたいと思っています。

※記事の情報は2025年3月18日時点のものです。