ウイスキーや日本酒のジャンルではよく耳にする「原酒」という言葉。焼酎にももちろん原酒はあります。その定義や楽しみ方は? 焼酎、そして「いいちこ」の原酒についてもご紹介します。

松本真一郎さん

この方にお聞きしました
松本真一郎さん
三和酒類株式会社 三和研究所 クロスオーバーセンター 開発室 室長

原酒とは?

―まずは焼酎の原酒の定義について教えていただけますか?

酒税法上の定義は、蒸留後に水や他のお酒を混和していない状態のものを原酒と言います。「いいちこ」の原酒の場合、アルコール度数は概ね44%です。原酒として商品化する際には、税務署に対して製法とラベル表記を届け出たうえで、“原酒”とラベル表示をします。

―長期貯蔵するタイプは原酒に含まれないのでしょうか?

酒税法上の定義では蒸留した直後のものを言いますが、一般的には何も加えていなければ原酒と言える、と捉えています。焼酎づくりの工程を示した図があるのですが(下図参照)、蒸留後から割水の手前まで、つまり貯蔵を経たものも、製造現場における一般的な認識としては原酒と称します。

焼酎の製造工程図

―商品化された原酒を楽しむポイントはどんなところでしょうか?

足し算も引き算もしていない味わいと香り。蔵の個性をリアルに感じられるのが原酒の魅力だと思います。

焼酎の原点となるものですから、まずはストレートで個性を感じていただきたいですね。原酒と同量の水(常温)を加えてアルコール度数を下げると、香りが開きます。こうして原酒の中に閉じ込められていた香りを感じていただくのも、原酒の楽しみ方のひとつです。

―焼酎の原酒は、商品化されているものが少ないのは何故なんでしょう?

焼酎は食中酒として楽しむものですので、アルコール度数が40%を超える原酒は食事と合いづらいということもあるのではないでしょうか。また、原酒は良くも悪くも粗削りなお酒ですので、お客様にご満足いただける品質の商品をつくることが難しいということもあるかなと思います。

「いいちこ」のうまさを支える原酒の多様性

樽貯蔵

―「いいちこ」はいくつもの原酒をブレンドして出来上がりますが、原酒は何種類くらいあるのでしょうか?

原料となる大麦の産地、普通仕込みと全麹仕込み、常圧蒸留と減圧蒸留、貯蔵方法や貯蔵時間、そして独自に開発したたくさんの酵母、これらの掛け合わせで原酒が生まれるのですが、分類の仕方が難しいんです。

「いいちこ」の40周年を記念して発売した「iichiko 40」という商品は、40種類の原酒をブレンドしていますので、少なくとも40以上の原酒があると言えます。

―たくさんあるんですね!

焼酎はシンプルに単一の原酒を25%にまで割水して商品化することが多いので、多種類の原酒をつくりわけて貯蔵しておくメーカーはそれほど多くないです。スピリッツメーカー全体で見ても、これほどたくさんの原酒を1社でつくり分け貯蔵し、必要に応じて使用しているケースは、あまり聞いたことがないですね。世界有数と言っていいのではないかと思います。

―原酒がたくさんあることのメリットは何でしょう?

長くブレンドを担当させてもらっていますが、原酒をブレンドすることで、安定感が増して味わいも香りもまとまるんです。香り高いものや味わいが濃いものなど原酒にはいろんな個性があります。その個性を生かしながらブレンドし、ハーモニーをつくることで、いろんな嗜好を持った多くの方の合格点をいただける商品になると私は思っています。

原酒の足し算、引き算を経て「いいちこ」になる

出荷目前の「いいちこ」

―ブレンドというとウイスキーがよく知られています。

有名なウイスキーのブレンダーさんは原酒を絵の具、出来上がったものを絵画と表現していますが、その通りだなと思います。ウイスキーは原酒を足していくイメージなので絵の具と絵画の例えがぴったりですが、焼酎づくりの工程には足し算だけでなく引き算があるんです。

―引き算というと?

冒頭の焼酎づくりの工程図をご覧いただくと分かるのですが、ろ過という工程があります。これは焼酎や日本酒など和酒づくりの特徴的な工程なんですが、コンセプトやイメージした香味を目指して、香味の忌避要因をそぎ落とし、好ましい香味の輪郭を際立たせていきます。

なので、私が思う焼酎は、刀鍛冶が刀をつくる際に、鋼の塊から鍛錬し、研いで磨き上げ、理想とする美しいシルエットを求めるように、原酒をブレンドすることにより骨太な酒の幹をつくり、それをろ過工程で削ぎ落し、磨き上げて仕上げるというイメージを持っています。

―工程図を見ると「ろ過」は2回ありますね?

「いいちこ」の場合、蒸留の後に行うのが「冷却ろ過」です。特に麦焼酎は油分が多いので、原酒の温度を氷点下まで下げて、余分な油分を固形化して取り除きます。この作業は、油分の酸化による焼酎の劣化を防ぐために行っています。

貯蔵、ブレンド後に仕上げとして行うのが炭素ろ過。炭の粉を投入して濾し取り、整った香味のお酒に仕上げます。マイナスな香りを減らして良い香りを際立たせたり、味わいにキレを出したりといった微調整を行うのが目的です。

このように「お酒を磨き上げる」という工程がまさに引き算なんです。いろんな個性を持った原酒を足すだけでなく、引き算をして、より繊細で美しく整った香味に仕上げるために、最後の最後まで磨き続けるという考え方は、とても日本的な美学の反映された、ものづくりの考え方なのではないかなと思っています。

「いいちこ」の原酒はこの商品で飲めます

「いいちこ」は数種類の原酒をブレンドし、磨き上げ、完成します。その原点ともいうべき原酒は、こちらの商品でお楽しみいただけます。

いいちこオリジナルミニチュアコレクションIOM

ロングセラーの「いいちこシルエット」をはじめ、バラエティ豊かな5つの味わいをセット。「全麹仕込み原酒」(アルコール度数44%/内容量200ml)のほか、単一原酒を樽貯蔵した「全麹仕込み樽貯蔵酒」(アルコール度数40%/内容量200ml)が味わえます。
>ここで購入できます

いいちこオリジナルミニチュアコレクション(IOM)

いいちこ日田蒸留所200ml 3本セット

良質な大麦麹だけを原料にじっくり仕込んだもろみを常圧蒸留。香ばしい香り、濃醇な味わいが特長の「全麹常圧蒸留原酒44度」、華やかな香り、ゆたかなコクが特長の「全麹減圧蒸留原酒44度」、丹念に醸した大麦焼酎を樫樽でじっくり寝かせた樽貯蔵原酒をブレンド、加水調整し、ゆたかな香りとまろやかな味わいが特長の「長期熟成貯蔵酒40度」の3本セット。
いいちこ日田蒸留所での店頭販売のみ

日田蒸留所原酒セット
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※記事の情報は2023年10月27日時点のものです。