酒文化研究所が酒類業界トレンド情報をご紹介。特に海外の有名コンペティションで「焼酎」が注目を集め、高い評価を得ている現状を解説します。

文/(株)酒文化研究所 山田聡昭

奇跡の一勝が世界を変える

年末の風物詩となった感のあるお笑いの賞レース、注目度は高く優勝しようものなら出演依頼が殺到、下積みの長かった芸人が一夜にして売れっ子に早変わり、そのシンデレラストーリーはしばしば感動を呼ぶ。お笑いだけでなくダンス、写真、文学、音楽など様々な分野でコンテストあるいはコンペティションが盛んなのは、技術研鑽の機会になるという教育的な意味あいはもちろんだが、何と言っても登竜門であるからだ。コツコツとクオリティを高めていくことは大切だが、それだけではなかなか人に選んでもらえるようにはならない。審査する側もその分野を盛り上げるためにスターが必要で、有望な新人を発掘したい。選ばれる側と選ぶ側の思惑が一致して、さらに結果を注視する愛好家が多いとそのイベントはより注目度が増す。

芸能や芸術に負けず劣らず酒のコンペティションも多彩で活発だ。コンペティションでメダルを受賞したワインを集めてコーナー化している売場は珍しくなく、日本酒の棚には「金賞受賞」と札のかかった商品がいくつも並んでいる。ワインや日本酒に限らずお酒の世界は、専門用語が多く、コンペティションの入賞実績は商品選びのいいヒントになるのである。

今や世界中のウイスキー愛好家の垂涎の的となっている日本のウイスキーだが、そうなったのはこの10年であって、2000年代以前は日本でウイスキーが製造されていることすら知られていなかった。その壁を打ち破るきっかけは、世界的な蒸留酒コンペティションでの優勝だ。かつてカリフォルニアのワインがブラインド審査でフランスの銘醸ワインを凌駕して、その名を世界に轟かせたように、奇跡の一勝が世界を変えることもある。

スピリッツ業界のスペシャリストが認めた「いいちこスペシャル」と「いいちこフラスコボトル」

本格焼酎も種類が豊富で専門用語が多い。コンペティションが盛んになっても不思議はないのだが、ワインや日本酒に比べるとまったくと言っていいほど話題にのぼらなかった。様子が変わったのはここ5年ほどだろうか。

焼酎のコンペティションは海外で先行した。イギリスで盛んなウイスキーやジンなど蒸留酒のコンペティションに、2010年頃から焼酎部門が設けられるようになったのが始まりだ。世界で最も権威があるとされるコンペティションISC(インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ)では、上位の賞を獲る焼酎がなかなか出なかったが、2014年に「いいちこスペシャル」「いいちこフラスコボトル」がシルバー・アウトスタディング・メダルを獲得。以後、入賞数は着々と増えて2020年には焼酎カテゴリー全体で30点を超えた。

ISCと並ぶコンペティションIWSC(インターナショナル・ワイン・アンド・スピリッツ・コンペティション)では、2016年に「いいちこスペシャル」が焼酎部門の最高賞トロフィーを受賞。焼酎メーカーがこぞって出品するようになり、今では入賞数は100点をゆうに超えている。

アメリカも蒸留酒のコンペティションが盛んだ。最大規模のコンペティションであるSFWSC(サンフランシスコ・ワールド・スピリッツ・コンペティション)が2015年に焼酎部門を設けると、日本の焼酎メーカーが出品し始め、樽で熟成させた「いいちこスペシャル」は2015、2016年にゴールドメダルを、2018年にはダブルゴールドメダルを獲得しこの年のベスト焼酎に選出、2020年にもダブルゴールドメダルを受賞している。

日本では、2019年にスタートしたTWSC(東京ウイスキー&スピリッツコンペティション)が2020年に焼酎部門を開設、初年度にもかかわらず258点もの出品があった。ここでも「いいちこスペシャル」は最高金賞を獲得する。

ここに挙げたコンペティションの審査員はスピリッツ業界のスペシャリストたちだ。彼らに高く評価されたものは世界でも高い評価を受けるスピリッツと比肩したと考えてよい。入賞実績から見ればその筆頭は「いいちこスペシャル」、そして「いいちこフラスコボトル」である。この2つは焼酎の次の時代の拓く商品と期待したい。

IWSC2016(インターナショナルワインアンドスピリッツコンペティション)授賞式
IWSC(インターナショナル・ワイン・アンド・スピリッツ・コンペティション)2016授賞式

世界の蒸留酒に「焼酎」の名を刻む

2021年、SFWSCは焼酎部門を原料別に細分化し拡充することを発表した。フランスでトップソムリエが審査する日本酒のコンペティション「Kura Master」も焼酎部門を新設し、ソムリエを通じ世界に向けた焼酎の伝達ルートをつくる。これらは「焼酎」を「ウイスキー」「ジン」「ウォッカ」などと並ぶカテゴリーとして世界に知らしめようとする動きである。コンペティションが世界を変えることもあると前述したが、勝利が世界を変えるだけでなく、新しいカテゴリーの発掘という意味でも影響力を持つ。

近年の蒸留酒市場はプレミアム市場の成長が著しい。およそ四半世紀前に世界に広まったシングルモルトウイスキーは、「クラフト」を冠するプレミアムな蒸留酒のムーブメントにつながった。ジン、テキーラ、ラムと次々にクラフト市場が出現し、世界は次のプレミアム蒸留酒を待っている。すでに高い品質を実現しており、原材料の風味が酒に現れ多様性に富む焼酎は、その有力候補と目されている。

海外のコンペティションで早くから評価を得ている「いいちこ」。今後もその酒造りで焼酎業界を牽引してくれることを期待したい。

IWSC2016(インターナショナルワインアンドスピリッツコンペティション)にて部門最高賞を受賞したいいちこスペシャル
IWSC2016にて部門最高賞を受賞した「いいちこスペシャル」

▼「いいちこ」の主な受賞歴について(過去3年)

いいちこスペシャル

ISC(インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ) 2020ゴールド/2019ゴールド
SFWSC(サンフランシスコ・ワールド・スピリッツ・コンペティション) 2020ダブルゴールド/2018部門最高賞
TWSC(東京ウイスキー&スピリッツコンペティション) 2020ゴールド

いいちこフラスコボトル

USC(アルティメットスピリッツチャレンジ) 2020最高賞チェアマンズトロフィ
SFWSC(サンフランシスコ・ワールド・スピリッツ・コンペティション) 2019ゴールド

いいちこ民陶くろびん

SFWSC(サンフランシスコ・ワールド・スピリッツ・コンペティション) 2019ダブルゴールド

※記事の情報は2021年2月5日時点のものです。


文/(株)酒文化研究所 山田聡昭
1991年創業、ハッピーなお酒のあり方を発信し続ける、独立の民間の酒専門の研究所「酒文化研究所」第一研究室室長。