「いいちこ」づくりの大ベテラン・丸尾剛さんが、全国各地の“酒場メシ”を食す! 今回訪れたのは、加賀の食文化を織り込んだ料理が自慢の『味の鰯屋』さん。思わずため息が出るほど美しく脂ののった「鰯の薄造り」を「いいちこ25度」の水割りと一緒にいただきます!
“酒場メシ”ハンター
丸尾 剛(まるお つよし)
三和酒類株式会社 SCM本部所属
39年の焼酎づくりのキャリアを生かし、社内の若いつくり手たちのスキルアップをサポートする「焼酎づくりの先生」。普段家で飲むのは、もっぱら「いいちこ20度」か「いいちこ日田全麹」。最近、麹を使った調味料づくりにハマッている。
金沢駅地下直結! 舌の肥えたビジネスパーソンが贔屓にする『味の鰯屋』
「いいちこ」に合う“酒場メシ”を求めて丸尾さんが訪れたのは、加賀百万石の歴史が息づく古都・金沢。目指すお店『味の鰯屋』は、金沢駅東口から地下道で直結した「ポルテ金沢」という複合ビルの地下1階にあります。
店内に入ると、朱色の大きな金沢和傘がお出迎え。ここがビルの中であることを忘れてしまうような、なんとも風情溢れる佇まいです。
「丸尾さん、いらっしゃい」。この店の主・小矢部健三(おやべけんぞう)さんが厨房から顔をのぞかせました。
『味のいわしや』は当初、金沢駅前ではなく市内の入江という所で開業しました。昭和63年(1988年)には従業員全員の地位の安定と向上を願い、有限会社を設立。そして開業から22年後の平成13年(2001年)に金沢駅前へ店を移転し、それを機に屋号も漢字の『味の鰯屋』に改めて、現在に至るまで盛業中です。
小矢部「前の店の周りも企業の出先機関が結構あって、おかげさまで賑わっていたんですが、県庁の移転や十数年後の新幹線開業と市内地図が大きく変わる中で、お客様を追いかける形でこの地に移りました。当時は“日本一暗い駅前”なんて言われてたけど、その後に北陸新幹線も開業して。結果、金沢駅のすぐ前で、しかもその頃は“日本海側で一番高いビル”と呼ばれていた建物の地下飲食街に移転できたのは幸運でしたね」
場所は変われどもお客さんの大半は仕事終わりのビジネスパーソン。「新しく後輩ができたから」「金沢に来たらここや」、そんな風に地元のみならず遠方から出張のたびにやって来る馴染み客も多いそうです。
お客さんたちのお目当てはもちろん、店主の作る料理とうまい酒。メニューには日本海の魚を使った刺盛や加賀の食材を生かした酢の物、おでんなど、この土地の個性を感じられる品々がずらりと並びます。
これぞ鰯屋の真骨頂! 良質な脂が舌ににじむ「鰯の薄造り」
“鰯”を屋号に掲げる店ですから、当然メニューには鰯の梅煮やフライなど鰯料理も多彩にラインナップ。その中から「いいちこ」に合う一品として小矢部さんがおすすめしてくれたのが、「鰯の薄造り」です。
丸尾「わぁ、きれいやなー」
その美しさは、まるで皿に桃色の花が咲いたよう。身を縁取る銀白色のしっとりとした輝きも新鮮さを伝えます。
小矢部「店を始めたときからずっと付き合いのある魚屋さんから仕入れてるんですよ。今の時期はちょうど脂ものっていますから、鮮度が落ちないうちに召し上がってみてください」
丸尾「いただきます」
丸尾「これはたまらんなぁ。脂がめちゃくちゃ良質です。口の中で溶けますね」
そして、「いいちこ25度」の水割りをひとすすり。
丸尾「滑らかな鰯に、滑らかな『いいちこ』の水割り。合いますね。『いいちこ』は水割りにすると麹由来の甘味がより感じられるようになるんです。この飲み方にして正解でした」
そう頬を緩ませながら、鰯の薄造りをきれいに平らげてしまった丸尾さん。小矢部さんが「これも食べてみて」とテーブルに鰯料理をもう一品差し出しました。
小矢部「最近メニューに復活させた『鰯の姿寿司』です。切らずにそのままかぶりついて食べてみてください」
丸尾「これもうまいなぁ。脂ののった鰯に酢飯の塩梅もちょうどよくて。中に挟まれた大葉が爽やかなアクセントになっていますね」
小矢部さん曰く、よい鰯を見極めるポイントは“旬”と“産地”にありとのこと。
小矢部「やっぱり季節は大事だね。たいていの魚は産卵期が3月~4月で、その頃になると栄養がみんな真子に行くので身が水っぽくなるんですよ。だからウチは刺身の盛り合わせにしたって、時期によって内容を変えています。鰯の場合は“梅雨鰯”といって、梅雨に入る頃からよくなる。あとは場所。今の時期(10月頃)の鰯なら、銚子、三陸、釧路あたりで揚がったのが脂のノリがいい」
季節が巡れば、味わえる料理も変わる。旬を大切にする店だからこそ、通う楽しみが生まれるのでしょう。
加賀料理の神髄が味わえる「志部煮(じぶ煮)」も鰯屋自慢の一品!
「せっかく金沢に来たんだから、この地に伝わる『志部煮(じぶ煮)』も食べてみてください」と小矢部さん。
じぶ煮とは江戸時代から加賀で食べられていた武家料理のひとつで、天然の鴨肉や麩、季節の野菜を炊き合わせたもの。面白いのは、片栗粉ではなく小麦粉でとろみをつけ、ワサビを溶かして食べる点です。
ただし今では天然の鴨が手に入りづらいため、『味の鰯屋』では広く流通する合鴨よりもすっきりとした味に仕上がる鶏肉を使用。地元の麩や竹の子、しいたけを合わせてカツオと昆布でとった出汁で煮ています。
丸尾「初体験の志部煮、いただきます!」
丸尾「なんとも上品で落ち着く味ですねー。鶏からも濃い出汁が出ていて、具材の1つ1つによくしみています。そして、とろみが軽やかなんですよね。ワサビのツーンと来る辛さがよく合います」
そして、今度は「いいちこ」のお湯割りを重ねて。
丸尾「あぁ、しみるなー。味のしみた志部煮に最高に合います」
このじぶ煮にみられるように、加賀料理は食材のうまみやコクを生かしつつ薄味に仕上げられるのが特徴です。これは京料理の流れを汲むもので、小矢部さんも修行時代は京都の懐石料理を学んだといいます。
そして野のもの、山のもの、海のものなどを使った素朴な料理を、優美な九谷焼の器や漆椀に美しく盛り付ける。こうした目と舌で味わう加賀の食文化にはもてなしの心や美意識が宿っており、それは小矢部さんの料理や店内空間にも随所にうかがえます。
「20坪のこの店の中だけでも、日本の食文化を伝えていきたい」
ご紹介したように鰯料理が多彩に味わえる『味の鰯屋』ですが、小矢部さん曰く「ウチは鰯料理専門店というわけじゃない」そう。ならば、この屋号はなにゆえに?
小矢部「50年くらい前は、外でいい刺身を食べようと思ったら着物姿の御給仕さんたちがいるようなお座敷で、ある程度お金を出さないと叶わなかった時代です。それをもっと身近に、誰にでも食べてもらえるような店にしたいと思って。そういう意味で大衆的なイメージのある『鰯』を屋号に入れたんです。そんな鰯も、今じゃ高級魚になりつつあるけどね(笑)」
「もっと大衆のために」という志は、“下町のナポレオン”の愛称で知られる「いいちこ」にも通じるものがあります。もしかしたら小矢部さんはそこにシンパシーを感じたのかもしれません。実は『味の鰯屋』は、北陸の地で初めて「いいちこ」を取り扱ってくれたお店なのです。
小矢部「大分弁で“いいですよ”という意味で『いいちこ』。初めて聞いたときに、この言葉がすごく良いなぁと思ってね。『いいちこ』さんも大衆のための酒であるという気持ちを、これからもずっと大事にしてほしいなと思いますね」
丸尾「初心忘れるべからず、ですね」
季節の空気や郷土の文化をまとった料理を、大衆的な価格で楽しんでもらう。そこには店主のこんな思いも込められています。
小矢部「今は色々なものが手軽に食べられる時代でしょ。でもせめてこの店の中だけは、20坪の37~38席しかない狭い店ですが、少しでも日本の食文化を伝えていきたいと思っているんです。やっぱり私ができることといえばそれやと思うし、料理を作るものの責任としてもね」
そんな『味の鰯屋』さんを訪れて、丸尾さんいかがでしたか?
丸尾「ご主人の考え方もお料理も、みんな美しいんですよね。汚れたところがないというか、初志貫徹されている。我々も『品質第一』とか『おかげさまで』とか、初心を大事にしながら日々商品をお届けしていますが、お店を長く続けたり、ロングセラー商品を送り出したりするためには、そうしたバックボーンになるような何かが必要なんだと思います。小矢部さんの美学を見せてもらった気がしました」
今回お世話になったお店はこちら!
『味の鰯屋』
石川県金沢市本町2-15-1 ポルテ金沢B1F
TEL:076-260-1884
営業時間:[月~土] 11:00~13:30、17:00~23:00 [日] 17:00~22:00
定休日:不定休
※記事の情報は2023年11月28日時点のものです。