有史以前から人類が好み、古くは「百薬の長」とも言われたお酒の健康効果や精神面などのメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。一方で過度な飲酒がもたらすデメリットについても気になります。アルコール低減外来のドクターが解説します。

吉本尚さん

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吉本尚さん
筑波大学医学医療系准教授。健幸ライフスタイル開発研究センター長。博士(医学)。やさしい酔い研究会メンバー

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飲酒の適量とは?

―お酒のメリットをお聞きする前に、まずは飲酒の適量について教えてください。

2018年、「飲酒量は少なければ少ないほどいい」という内容の論文が、世界的に有名な医学雑誌「ランセット」に掲載されました。この論文は研究者の間でも話題となり、同じような考え方が世界的に主流となりました。

ところが、2022年、同じく「ランセット」に掲載された、同研究グループによる195か国を対象とした飲酒に関する論文には2018年の研究結果を覆し「少量のお酒を飲んだ人は健康を害するリスクが低い」というデータが掲載され、これまた物議をかもしました。

上のグラフは、22の健康アウトカム(虚血性心疾患、脳梗塞、がん、2型糖尿病、結核、下気道感染症など)に関する疾患重み付け用量反応相対リスク曲線を表しています。

これによると、毎日約6gのアルコールを摂取している人は、アルコールを摂取しない人よりリスクが低いことが分かります。そして約18gのアルコール摂取をしている人は、アルコールを摂取しない人と同程度のリスクであるということが分かります。

ちなみに純アルコール量は以下の計算式で出すことができます。

純アルコール量(g)=摂取量(ml)×アルコール濃度(度数/100)×0.8(アルコールの比重)

―毎日約6gのアルコールを摂取している人が健康を害するリスクが低い、つまり健康によい状態とは驚きです。

そうですね。ですが、このグラフは全世代性別の平均値です。この論文では国別、年齢、性別に分類した、健康への理論的な最小リスク量も掲載されています。それによると日本が含まれる「アジア太平洋地域の高所得者層」という分類を見ると以下のようになっています。

理論上の健康リスクが最小になるアルコール摂取量

(分類:アジア太平洋地域の高所得者層)

  女性 男性
15歳~19歳 0g 0g
20歳~29歳 1g 1g
30歳~34歳 2g 2g
35歳~39歳 2g 3g
40歳~49歳 3g 4g
50歳~59歳 4g 5g
60歳~69歳 5g 5g
70歳~74歳 5g 5g
75歳~79歳 6g 5g
80歳以上 6g 6g

若い頃は少なく、年齢が上がるにつれて許容されるアルコール量が増えていくのは全世界共通です。飲酒期間が長くなればなるほど、アルコール依存症や生活習慣病などのリスクが高くなるという考え方です。

―このように細かく分類されていると参考になりますね。日本では2024年2月、厚生労働省から「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」が発表され話題となりました。

そうですね。厚生労働省のガイドラインでは、前述のような研究成果を元に、飲酒量は少ないほど飲酒によるリスクは少なくなるという報告もある、と記載されていますが、同じく厚生労働省の「健康日本21」、さらにWHOの指標では以下のような目安が示されています。

目標飲酒の目安

節度ある適度な飲酒
(厚生労働省「健康日本21」第一次)
1日あたり20g程度
生活習慣病のリスクが高い飲酒
(厚生労働省「健康日本21」第二次)
男性40g以上/1日
女性20g以上/1日
多量飲酒
(厚生労働省「健康日本21」第一次)
平均60gを超える/1日
一時多量飲酒
(WHOの指標)
60g以上/1回

適度な飲酒のフィジカル面のメリットは?

―それではいよいよ本題へ。ご説明いただいた節度ある飲酒量を守った上での飲酒のメリットについて教えてください。

これまで研究等でわかっている飲酒のメリットは、身体面と精神面に分けることができます。まずは身体面からご説明します。

1つ目は糖尿病になりにくいと言われています。お酒には血糖値の上昇効果があまりないにも関わらず、エネルギーは摂取できるので血糖値自体は下がります。ただし、お酒には食欲増進効果がありますので、お酒を飲んでたくさん食べてしまった結果糖尿病になるということもあります。注意が必要です。また、アジア人には糖尿病になりにくい効果が見られなかった、という報告もあります。

2つ目は脳梗塞や心筋梗塞のような血管が詰まる病気になりにくいと言われています。この原理については非常に複雑なのですが、抗凝固作用(血をサラサラにする作用)、抗酸化作用(活性酸素から体を守る作用)などの関与があるのではないかと言われています。

上記2つは先ほど述べた2018年の「ランセット」に掲載された論文(お酒は少なければ少ないほどいい)にも書かれています。

さらに、以下のようなメリットもあります。

  • アルコールの鎮静効果やリラックス効果による寝つき改善
  • 血管拡張作用による血行促進
  • 善玉コレステロール(HDLコレステロール)の増加
  • 代謝促進

善玉コレステロール(HDL-C)の増加についてですが、HDL-C 値が 90 mg/dL 以上の 場合、動脈硬化性疾患リスクが上昇するため、お酒を飲む人に限っては高HDL-C血症には注意が必要です。

代謝促進についてですが、お酒を飲む人の方が痩せている傾向があります。これは日本人を対象にした研究にみられる特長で、海外ではお酒を飲むと肥満になることが知られています。日本人は体質的にアルコールをアセトアルデヒドに分解するスピードが速く、このことが体重減少につながるのではないかと言われています。とはいえ、すべての日本人がこの体質ではありませんので、気になる方は以前ご紹介したアルコール体質検査をおすすめします。

しかし、痩せたいから飲酒する、という発想は危険です。これに限らず健康効果を狙っての飲酒はおすすめしません。

適度な飲酒のメンタル面のメリットは?

―次に飲酒がもたらす精神面でのメリットを教えてください。

身体面よりむしろ精神面での効果を狙って飲酒している方は多いかもしれません。一般的にはストレス、不安、緊張、気分の落ち込み、イライラの解消に効果があると言われています。

飲酒は、脳内の化学物質である神経伝達物質の働きに影響を与えます。アルコールの影響を受ける主な神経伝達物質はGABA(Gamma-Amino Butyric Acid)とグルタミン酸です。GABAは脳と体を落ち着かせます。アルコールはGABAの作用を強めるため、少量の飲酒であれば気分の落ち着きや不安解消効果があります。グルタミン酸は脳と体を刺激する効果がありますが、アルコールはグルタミン酸の作用を弱めるため、飲酒すると意識がぼんやりしてきます。

飲酒によって不安や気分の落ち込みが改善すると言われていますが、病気レベルになるとむしろ不安や気分の落ち込みが悪化することもあります。パニック障害や社会不安といった不安障害やうつ病などと診断が下されていたり、薬を飲んだりしている人は、自己判断で飲酒せず、主治医に相談してください。

過度な飲酒のデメリットは?

―節度ある飲酒には身体面にも精神面にもメリットがあることが分かりました。それでは、改めて飲酒のデメリットについても教えてください。

先ほどの「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」にも書かれていますが、フィジカル、メンタル両方合わせて200以上の病気が飲酒に関係すると言われています。

以下はガイドラインに基づいて、アルコールがもたらす代表的な疾患を図にしたものです。

アルコールがもたらす代表的な疾患

さらに、飲酒量と健康リスクを疾患別に分けたものが以下です。

飲酒量と健康リスクを疾患別に分けたもの

c)についてはメリットのところでご説明した通りです。

また、アルコールを過剰に摂取した結果を死亡と障害に分けると以下のようになります。

  死亡 障害
1位 外傷(28.7%) 外傷(39.5%)
2位 消化器疾患(21.3%) 消化器疾患(17.6%)
3位 心血管疾患/糖尿病(19%) アルコール使用障害(13.9%)
4位 感染症(12.9%) 感染症(11.2%)
5位 悪性腫瘍(12.6%) 心血管疾患/糖尿病(9%)

※うつ病、心房細動、食道静脈瘤、乾癬は分析に含まれていない
World Health Organization(2018)Global status report on alcohol and health 2018

これを見ると、死亡、障害ともに外傷の比率が非常に高いことが分かります。外傷は交通事故、海外では喧嘩、階段から足を踏み外す、溺水など、飲酒が行動面に影響を与えた結果と考えられます。

泥酔状態では怪我するリスクが高くなるのは当然ですが、軽い酔い、または酔いが冷めてすぐの状態で「まだ大丈夫」「全然酔っていない」と考え、普段通りの行動をとったときに体がうまく動かず、怪我をしてしまうリスクが高くなると考えられます。注意してください。

お酒と上手に付き合うコツは?

―飲酒のデメリットはやはり病気やケガにリスクが高まるということなのですね。それでは最後に、お酒と上手に付き合うコツを教えてください。

お酒を飲む人はお酒のメリットを感じることも多々あるでしょうし、だからこそ飲んでいるという人もいると思います。今回ご説明したようなメリット、デメリットの出方は個人差がありますが、飲酒期間が長くなればなるほどデメリットが少しずつ増えていきます。

ご自身の体調や、この「お酒と健康の基礎知識」全12回の連載で語ってきた知識も踏まえながら、お酒との付き合い方を時々見直していただけるとうれしいです。健康にお酒を飲むことができる飲酒寿命を延ばしていきましょう!

※記事の情報は2024年7月26日時点のものです。