最近よく聞く「ペアリング」。「お酒と料理を合わせる」ということ以上に深い意味やコツはあるのでしょうか。ワインディレクターの田邉公一さんに「ペアリング」の極意と、本格麦焼酎「いいちこ」によく合うコンビニおつまみについても教えてもらいました。
この方にお聞きしました
田邉公一(たなべこういち)さん
ソムリエ歴20年を超え、ソムリエやSAKE DIPLOMA試験の講師歴15年を超える。現在はレストランやワインショップ、企業のワイン、飲料の監修やセミナー講師を務める。著作に「ワインを楽しむ~人気ソムリエが教えるワインセレクト法~」(2023年)がある。SNSでお酒と料理のペアリングなどを発信、人気を博している。
お酒のペアリングとは?
―お酒のペアリングについて、改めて解説いただけますでしょうか。
元々は、フランス料理とワインとの相性を表す「マリアージュ」という言葉がありました。ワインのテイスティングコメントとして日本でも一般化したのが、今から30年くらい前だと記憶しています。当時は料理とワインを理論的に組み合わせるよりも、郷土料理とその土地のワインをシンプルに合わせることが重要視されていたように思います。またソムリエ試験もフランスが主な出題範囲とされていて、料理とワインの組み合わせは、例えば「ブルゴーニュの赤ワインと鶏肉の赤ワイン煮込み」、「シラー*とジビエ」などが定番とされていました。
*豊かな果実味とスパイシーな風味をもつ赤ワインを生み出す黒ブドウ品種
それから時が経ち、世界各地で修業したシェフたちが日本に帰国し、レストランを出店するようになりました。そうすると、そこには必然的に世界各国のワインが必要になり、ワイン業界でも自然と共通語が英語になってきたのです。僕の記憶では、今から約12年前に「ペアリング」という言葉が使われるようになり、レストラン業界で次第に定着してきたように思います。「マリアージュ」より「ペアリング」の方が一般的には覚えやすくシンプルですので、「ワインペアリング」に限らず、「ティーペアリング」「ノンアルコールペアリング」といった具合に「飲み物と食べ物を合わせる」という広い概念で使われるようになりました。
ちなみに、ソムリエコンクールでも僕が出場していた2005〜2007年当時は、僕を含めてフランス語で臨むソムリエも一定数いましたが、現在ではほとんどの方が英語を使っています。
ペアリングとマリアージュの違いは?
―フランス料理とワインの組み合わせを意味する言葉「マリアージュ」の英語版として「ペアリング」という言葉が出てきて、さらにワインに限らず「飲み物と食べ物を合わせる」という広い概念を表す言葉として定着したということでしょうか。
そうですね。「マリアージュ」はフランス語で「結婚」という意味なので、フランス人の文化的な考え方が強く反映されていると思います。やはりワインと料理が非常に合う、とても相性のよいパターンという意味合いが強いです。ですから、コーラとハンバーガー、コーヒーとチョコレートはよく合う組み合わせですが、「マリアージュ」とは言いません。
また、「マリアージュ」は素晴らしい相性として知られている「定番のもの」に使われることが多いのですが、「ペアリング」は「この飲み物と食べ物は合うだろうか」という試み自体、行為自体を表す言葉としても使われます。
ペアリングの基本的な法則は?
―それでは、ペアリングの基本的な法則を教えてください。
先ほどマリアージュとペアリングの違いについて解説しましたが、とはいえ、「結婚」と「ペア」の概念は似ていると思います。人間でも似た者同士って相性がいいですよね。それは、飲み物と食べ物についても同じです。
つまり「外観(色)」「香り」「味わい」が似ているものを合わせると相性がよくなります。ペアリングの最大のコツはこの3つの要素をしっかり捉えることです。
例えば柑橘系のフレーバーがする、甘味の強さがどれぐらいで、酸味の種類がこれで、こういうボリュームがあって、という見極めを飲み物(ワイン)に対しても、料理に対しても行います。同調するものを合わせたとしても、飲み物と料理は違うものなので、完全に一致することはありません。ですが極限まで合わせていくことでグラデーションができてきます。それが味の複雑性、立体感、風味の豊かさにつながります。
ひとつの酸味やひとつの味しかしないと、おいしいけれどどこか物足りなく感じることはありませんか?どこか物足りなく感じることはありませんか? 例えば赤い果実といっても種類がたくさんあるように、究極のワインと言われる「ロマネコンティ」などには香りと味わいのレイヤーがたくさんあります。それが感動につながるんですね。
まとめますと、飲み物と食べ物の色合いなどの外観、香りの種類、甘味・酸味・苦味・渋味などの味わいを合わせていくことがペアリングの一般的な考え方で、一番成功しやすい方法だと思います。
人間もそうですけど、まったく違う者同士なのに相性がいいということがあります。それが爆発的な組み合わせになることもありますが、やはり事例としては少ないですね。
―焼酎には基本的に外観(色合い)がありませんが、それについてはどのように考えたらよいのでしょうか。
焼酎は透明ですが、透明な食べ物しか合わない、などということはもちろんなく、逆に色調を外した、香りと味で考えてもらえばよいと思います。外観がニュートラルな透明な液体であればこそ、幅は広がるとも言えます。
―ワインには「テロワール」(特定地域、特定の地区、固有のブドウ畑からつくられるワインは特有の個性を表すという考え方)という概念がありますが、お酒が生産される「土地」はペアリングに影響しますか?
ブドウ産地の個性が表れやすいワインと、その土地の郷土料理や名産品を合わせるのはペアリングの大原則のひとつです。それぞれの産物に共通する、その土地に降る雨、土などの影響によるものと考えられます。
焼酎は、ワインほどテロワールを語らないお酒かもしれませんが、そうは言っても水や酵母など、その土地の影響はありますので、ワインと同じように同じ土地で作られた食べ物は合いやすいはずです。焼酎においても、産地で合わせるというのはペアリングのコツのひとつと言えるでしょうね。
―外観(色合い)と土地にしばられない焼酎は組み合わせの幅が広いということでしょうか。
そうですね。先ほどもお話したように、透明であることで心理的に引っ張られないという部分があります。特に麦焼酎や米焼酎は、ワインに比べ香りが穏やかなことも多いので、キャッチできる料理の幅も広くなります。ワインのような料理との爆発的な組み合わせはあまりないにしても、うまく相乗するパターンは多いと思います。
味わいの面でも、ブレずにある一定のレベルでおいしいと感じるのは焼酎や日本酒などの和酒だと思います。ワインのネガティブ要素は色や風味、香気成分がたくさんあるのでその分、合わない料理が出てくるという点です。ペアリングが難しいと感じられるのもあまりに種類が多いからですよね。日常的に気軽に飲むには和酒が適していると思います。
またワインにはヴィンテージ というものがありますが、本格麦焼酎「いいちこ」のようにブレンドしてつくるお酒には年による味わいのブレも少ないですしね。
本格麦焼酎「いいちこ」20度に合うコンビニおつまみは?
―まずは本格麦焼酎「いいちこ20度」のテイスティングをしていただけますでしょうか?
まず、改めて20度と25度の両方をテイスティングしてみて、キャラクターが全然違うということは驚きでした。
20度の方は、清涼感がありますね。香りの立ち上がりとしては柑橘系や青リンゴのような爽やかなフレッシュ感があります。セルフィーユ(セリ科のハーブ)や新緑、青竹を思わせるような香りもあり、少しミネラリーな貝殻的な要素もあって、それらが清涼感、爽やかさにつながっていると思います。スイカズラのような白い花の蜜っぽい感じも受けますね。
飲んだ印象もアタックとしてはソフトで柔らか、もちろんうまみは感じられますが、爽やかな印象のハーブのニュアンスがあります。酸味がそこまで多い訳ではないのですが、やはり爽やかな印象です。うまみを伴いながらも爽やかで、ほどよい苦みがコクを与えていると思います。フルーティーさもありますが、どちらかというとフレッシュでイキイキとした感じなので、そのまま飲んでもおいしいですが、冷やして飲みたい感じもしますね。ロックで和柑橘を絞るのもいいですね。
―「いいちこ20度」に合うコンビニおつまみを教えてください。
少しスモーキーさとチョーキー(石灰質)さ、グリーンハーブと柑橘系のニュアンスのある「いいちこ20度」は、スモークサーモンと相性がいいですね。スモーキーさで同調しつつ、「いいちこ20度」がハーブを補完していくイメージです。
ベーコン入りのほうれん草ソテーも相性がいいと思います。ほうれん草の苦みと爽やかさとグリーンなトーンが重なって、よく合うと思います。ベーコンのうまみも引き出してくれるのですが、どちらかというとベーコンは主張しずぎない方がいいですね。
サバなどの青魚の塩焼きもおすすめです。青魚の皮面を焼いた香ばしいフレーバーと蒸留酒である焼酎のほどよい香ばしさが合わさって、ほどよい苦みが青魚の脂に加わり、うまみを引き出してくれます。魚にレモンなどの柑橘を絞ることで、さらに香りが同調します。
大分といえば国東の海でとれる「くにさきオイスター」が有名ですが、スモークオイスターと合わせて香りの同調を図れますし、ヨード(海藻や牡蠣の香り)感も合うなという気がします。
冷製の料理であれば「いいちこ」を少し冷やして、温かい料理であれば常温のストレートでペアリングすれば、かなりよい組み合わせになると思います。
本格麦焼酎「いいちこ」25度に合うコンビニおつまみは?
―続いて、「いいちこ25度」はいかがでしょうか。
20度よりもアルコールが5度高い分、やはり揮発性が高いです。香りもはっきりとしていて若干濃縮感があります。華やかな花の香りも清涼感というより少し甘い感じの香りが立ちあがります。柑橘よりも少し甘く、青リンゴの香りもありますが、どちらかというとゴールデンデリシャスなどの黄リンゴや洋ナシのような香り。さらにカラメル感のある蜜っぽい感じもします。透明な中に少し茶色いイメージ、黒蜜や干しブドウのようなイメージも感じます。若干ですがスモーキーなニュアンスもありますね。
20度より甘味・うまみが強く、まろやかさとほどよい苦み、コクがあります。余韻も爽やかに終わるというより、なめらかさ、丸みがあります。20度がまっすぐ進んでいくのに対して25度は横に広がっていく感じですね。
―「いいちこ25度」に合うコンビニおつまみを教えてください。
「いいちこ」25度のカラメルっぽいニュアンスと香ばしさから、醤油ダレやソースなどタレを使った料理がいいのかなと思います。
お好み焼き、たこ焼き、焼きそばは、鰹節のヨード感、まろやかな甘味とコクがあり、よく合うと思います。
鶏もも肉に軽くタレをつけた焼き鳥も風味が合うと思います。
あとお湯割りにすると、すき焼きもいいですね。野菜のうま味、お肉の出汁感のニュアンスと卵のまろやかさがぴったりです。
「いいちこ」25度はお湯割りにするとよりスモーキーさが出て、煮込んだ料理と合わせるといいと思いました。
ペアリングの世界を知ることの醍醐味は?
―同じ本格麦焼酎「いいちこ」でも20度と25度で合わせる料理がここまで変わってくるとは驚きです。最後にペアリングの世界を知ることの楽しさを教えてください。
料理と飲み物の相性を意識する、ちょっとしたコツを知ることで、例えば1000円のものを2000円の価値に変えることができます。同じものでも、組み合わせ次第で価値が変わってくるということを知れば、日常の食べ物が2倍おいしくなることもあります。食事はほとんどの人が毎日するものなので、食事をより楽しく食べたり飲んだりできれば、人生の幸せや豊かさに大きな差が出てくると思っているので、僕はペアリングを提案しています。
※記事に情報は2024年7月30日時点のものです。