一人、おそば屋さんで肴とお酒を頼み、最後にそばを手繰ってさっと店を出る…粋なふるまいに憧れますが、ちょっとハードルが高いと感じる方も多いのでは? 江戸の粋を感じる「蕎麦前」を解説します。

蕎麦前とは?

蕎麦前とは、そばを食べる前にお酒を飲むこと。江戸時代には使われていたという蕎麦前という言葉を文献から紐解きます。

江戸にはそば屋が約3800軒もあった?

小麦粉をつなぎに使う手法が広まり、現代の蕎麦と同様の細長い蕎麦切りが登場したことで、江戸中期以降、そばが一大ブームとなりました。幕末の書「守貞謾稿(もりさだまんこう)」に記された当時のそば屋の数はなんと3763軒。この数の真偽は諸説あるようですが、江戸っ子の暮らしにそばが欠かせない存在だったことは間違いがないようです。

江戸っ子はそば屋でお酒を飲んでいた?

江戸中期の滑稽本「評判龍美野子(ひょうばんたつのみやこ)」には「そば前」という言葉が登場しており、この頃には一般的であったことがうかがえます。江戸末期に書かれた「江戸自慢」には、「必ずそば屋には酒あり。しかも上酒なり」と書かれており、そば屋は質のよいお酒が飲める場所であったようです。

また、当時の居酒屋が何人かで腰を落ち着けて飲み交わすといった傾向がみられる一方で、そば屋ではちょっと一杯飲んで、そばを味わうという飲み方が一般的だったとか。当時のおつまみも、種物(たねもの:かけそばに具材を乗せたもの)の種に使われる焼き海苔やかまぼこなど簡単なものをお酒に合わせていたそうです。

蕎麦前の定番おつまみメニューは?

蕎麦前 板わさ

現代も蕎麦前の定番おつまみメニューというと、江戸時代同様、種物に使われる具材を転用したものがメイン。

  • 板わさ
  • 焼き海苔
  • 蕎麦味噌
  • 玉子焼き
  • 天ぷら

といったところが定番です。

また、多くの店では裏メニュー扱いながら、食通として知られる作家の池波正太郎や山口瞳が好んだという「抜き」。よく知られているのは「天抜き」で、要は天ぷらそばのそばを抜いたもの。鴨南蛮のそば抜きなら鴨抜き、おかめそばならおかめ抜きと言って、粋なおつまみの代名詞といえるメニューです。

蕎麦前 天抜き

参考文献:
飯野亮一「すし 天ぷら 蕎麦 うなぎ 江戸四大名物食の誕生」
花房孝典「粋を食す 江戸の蕎麦文化」
ほしひかる監修「蕎麦のひみつ」

落語家さんにそばとお酒と粋について聞いてみました

江戸っ子が好んだ価値観「粋」が今も息づく「蕎麦前」というお酒の飲み方。巷では、簡単な肴でお酒を1~2本、仕上げにそばをさっと手繰るのが粋、反対に長居をするのは野暮、などと言われていますが、はてさて粋とは? 柳家花緑さんにお話をうかがいました。

柳家花緑さん

この方にお聞きしました

柳家花緑さん

1971年東京都生まれ。中学卒業後、祖父・五代目柳家小さん(人間国宝)に入門。1994年 戦後最年少の22歳で真打昇進。スピード感溢れる歯切れの良い語り口が人気で、古典落語はもとより、劇作家などによる新作落語にも意欲的に取り組んでいる。テレビ、舞台などでも、ナビゲーターや俳優として幅広く活躍中。

―落語にはお酒を飲むシーンがありますね。

そうですね。祖父の小さんが得意にしていた「猫の災難」や「一人酒盛」、寄席でよくかかる「親子酒」…いろいろあります。

―どれもお酒が好きすぎる人の噺ですね。

落語の中の酒飲みが粋に飲んだんじゃ笑いは生まれないから、どっちかっていうと好きすぎて野暮全開なんです(笑)。落語家も失敗談が楽屋の武勇伝になりますから、粋じゃないエピソードの方が記憶に残ったりしますね。

柳家花緑さん

―落語家さんは粋を重んじるかと…意外です。

落語家はきっと粋にそば屋で飲んでるんだろうと思われるかもしれませんが、おそらく落語家よりも落語を聞くお客様の方がそういう通な世界がお好きなのかも。落語を聞いて、帰りに昭和の名人たちが通った蕎麦屋に寄ってお酒を飲む、みたいなことをするのはお客様の方ですよね。

―ちなみに落語家さんが思う粋ってなんでしょう?

たとえば夏に怪談噺をやったとして、目いっぱい怖がらせて帰すのは野暮なんです。怖がらせはしたけど最後はかっぽれ(江戸後期から続く滑稽な手踊り)をワッと踊って陽気に終わる。おいしいものがあっても腹八分目にしておく、お金がなくても後輩に奢る、寒くてもおしゃれを優先する、みたいな価値観が粋っていうことでしょうか。やせ我慢をしてでも理想を求めるのが江戸っ子らしい粋なのかなと思います。

柳家花緑さん

―先代小さん師匠はどんな風にお酒を飲まれましたか?

パッと思い出すのは、早稲田大学の名誉教授で落語研究家だった故・興津要(おきつかなめ)先生とよく、顔繋ぎも兼ねて、一杯飲んでは次の店、という形で何軒もハシゴ酒をしたそうです。実はそれほどお酒は強くなかったんですが、祖父の自慢は飲んでも乱れないこと。剣道が好きだったので、武士道精神もあったのかもしれません。粋に通じる飲み方ですよね。

祖父は物のない時代に育っているので、自分もたくさん食べるし、お弟子さんにもたくさん食べさせたい人でしたが、逆にお酒を飲んでいるときにバクバク食べるのは野暮だ、という師匠もいました。板わさや海苔でちびちびやって、最後にもりを1枚食べてごちそうさまって店を出るのが粋なんでしょうね。

―花緑師匠はお蕎麦屋さんで落語会をやられているんですよね。

薮伊豆総本店さんで「落語とそばの会」という独演会が続いてまして、170回超えたかな。もうライフワークです。僕の初高座(初舞台)も薮伊豆さんなんですよ。正式に入門する前の9歳のとき、祖父の小さんと兄弟子の小三治師匠、紙切りの二代目正楽師匠が出ていらっしゃったかな。オーディオマニアの小三治師匠が録音してくれたのを覚えています。

―大成功の初高座だったんですね。落語にはそばが登場する噺もありますが、あんまりお酒と一緒には出てきませんね。

有名なのは「時そば」ですが、あれは屋台のそば屋だからお酒は出てきませんね。でも江戸っ子がそばをどんな風に捉えていたかをうかがい知ることができる場面もあります。一人目のお客が「脇でまずいの食っちまったから一杯で勘弁してくれ」って言うんですけど、蕎麦は今で言うファストフード、軽いスナック感覚の食べ物だったんでしょうね。

柳家花緑さん

―現代のように食事という扱いではなかったんですね。ちなみに花緑師匠がやってみたいそば屋飲みのスタイルはありますか?

僕はあまりお酒は強くないのですが、その土地ならではのおそばと、その土地のお酒を合わせたら楽しみが広がりますよね。おそばがおいしいお店って全国にあるので、おそば屋さんを軸にした旅行もいいかもしれないですね。

「いいちこ」で蕎麦前を楽しもう!

江戸時代、蕎麦前の定番のお酒は日本酒でした。前述したように江戸時代のそば屋では質のよいお酒を提供していたため、江戸の呑み助たちはそば屋で酒を飲むことを好んだのだとか。

蕎麦前 日本酒

現代のそば屋では、日本酒だけでなくいろんなお酒を楽しむことができます。焼酎もそのひとつ。お湯割り、お湯割りなど、いろんな飲み方が出来る焼酎で、ご自身ならではのベストな組み合わせを見つけてみてはいかがでしょうか。

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蕎麦前 そば湯割り

※記事の情報は2024年4月30日時点のものです。