お酒をたしなむ方であれば誰しも気になる「休肝日」。最新の見解は? 有効な頻度は? アルコール低減外来のドクターにお聞きします!
この方にお聞きしました
吉本尚さん
筑波大学医学医療系准教授。健幸ライフスタイル開発研究センター長。博士(医学)。やさしい酔い研究会メンバー。
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休肝日とは?
厚生労働省e-ヘルスネットには「休肝日」の定義についてこう書かれています。
肝臓を休めるために週に1日以上飲酒しない日を設けることを推奨する目的で作られた造語。
今回は吉本先生に「休肝日」についてお聞きします。
―「休肝日」の定義は“肝臓を休める日”という理解で合っていますか?
現在(2023年10月時点)、検討が進められている厚生労働省の「飲酒ガイドライン」のたたき台が公開されているのですが、そこには休肝日という言葉は使われておらず、その代わりにこう記載されています。
一週間のうち、飲酒をしない日を設ける(毎日飲み続けるといった継続しての飲酒を避ける)
―第4回飲酒ガイドライン作成検討会 資料より引用
※毎日飲酒を続けた場合、アルコール依存症の発症につながる可能性があります。このため、定期的に飲酒をしないようにするなど配慮が必要です。
つまり肝臓を休ませるのが主な目的ではなく、依存症を予防することを目的としてお酒を飲まない日を作りましょう、ということです。
「休肝日」というのは日本独特の表現で、実は海外にはありません。ただし、お酒を飲まない日を作ることは海外でも推奨されています。アルコールの総量を抑えて肝臓を含めた内臓を休めることは重要ですが、飲まない日をしっかり作るのは依存症予防のためです。
―休“肝”日なので、肝臓を休ませることが目的だと思っていました…。
日本肝臓学会による「奈良宣言2023」では「ALT>30でかかりつけ医を受診しましょう」というメッセージが出されました。
―ALTは健康診断の血液検査の項目にも入っている、肝臓疾患の指標となる数値ですね。
ALTが30を超えていて、飲酒量が男性60g/日、女性40g/日以上、かつASTやγ-GTPが異常値だった場合、アルコール性肝障害が疑われる、と記載されています。日本肝臓学会が出している基準は”1日当たりの平均的な飲酒量”であって、飲酒の頻度については触れられていないのです。休肝日を作っても飲む日の酒量が多くなってしまうと、肝臓に障害をきたしてしまいます。
―お酒を飲まない日を作る、というのは依存症予防のため、ということは理解しましたが、肝臓をいたわるためにはどんな飲み方をしたらいいのでしょうか?
肝臓の負担を小さくするためには飲酒量をなるべく少なくする、これが理想的と言われています。飲酒が原因で起こる肝臓疾患の始まりは、肝臓に脂肪がつく、いわゆる脂肪肝です。仕組みは非常に複雑なのですが、単純化してお伝えすると、肝臓に運ばれたアルコールは、最終的に脂肪酸を生成します。この脂肪酸が中性脂肪の元となり、脂肪肝の原因となります。これを避けるために飲酒の総量を減らそう、というわけです。
ただ、量を減らすという意味では、1週間のうち飲まない日を作る、というバランスの取り方は有効だと思います。
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休肝日の適切な頻度は?
―お酒を飲まない日を設ける際に、頻度など目安があると実行しやすいのかなと思うのですが、先生は患者さんにアドバイスされるときは何とおっしゃっているんでしょうか?
休んだ反動で次の日に飲み過ぎてしまう、ということは結構多いです。毎回晩酌で同じ量を飲む人もいれば、そうではない人もいますので、1週間単位で考えて、その中で量をコントロールするのがやりやすいかなと思います。飲酒量低減外来の患者さんには、週に1日くらい飲まない日を作ったらどうか?ということと、全体の量を減らしましょう、ということの2つのことを提案します。
―昨日飲まなかったら今日はその分多く飲もう、となってしまうと、休んだ意味がないですよね。
飲み過ぎないよう、飲酒量をあらかじめ決めておくのがおすすめです。実はアルコールによる死因で、世界で一番多いのは外傷です。反動で飲み過ぎたせいで認知機能や身体運動機能が低下し、転倒・転落や交通事故といったさまざまな事故が起こります。飲酒が原因の外傷の対策は、今とても注目されています。
―飲まない日を作らない、つまり毎日飲むことで依存症以外のリスクはありますか?
国立がん研究センターが公開している研究データで、飲酒のパターンと総死亡との関連を調べたものがあります。
週1~2日飲酒、週3~4日飲酒の人より、週に5~7日飲酒している人の方が死亡率(1990年あるいは1993年~2003年まで追跡調査)が高いという結果となっています。1週間のエタノール摂取量が同じでも頻度の高い人の方が死亡率は高いことが分かります。
休肝日を過ごす際のコツは?
―飲まない日を無理なく過ごすために、何かアドバイスをされていることはありますか?
毎日お酒を飲んでいる人は、お酒を飲まないとその時間が手持ち無沙汰になってしまうので、その空いた時間の過ごし方を決めておくことをおすすめしています。例えば散歩をする、映画を観る、本を読むなど。暇だからついお酒を飲んでしまった、とならないように予定を作っておくのがいいと思います。
※記事の情報は2023年10月17日時点のものです。