2024年12月、日本の酒づくりの技術である「伝統的酒造り」が、ユネスコ無形文化遺産に登録されました。この記事では、「伝統的酒造り」の概要や、その核となる麹についてわかりやすく解説します。
「伝統的酒造り」とは?
「伝統的酒造り」とは、麹菌を用い、杜氏や蔵人といった職人が長年の経験に基づいて築き上げてきた伝統的な酒づくりの技術のことです。
その原型は500年以上前に確立したとされ、麹を使用するという共通の特色を持ちながら、日本各地の気候風土に応じて発展してきました。
こうした技術は、日本酒や焼酎、泡盛などの製造に受け継がれ、現在の酒づくりにも活かされています。
無形文化遺産とは?
「無形文化遺産」とは、先人より受け継がれてきた芸能や伝統工芸技術などの形のない文化のうち、土地の歴史や生活風習と深く結びついているものを指します。
ユネスコ※の「無形文化遺産保護条約」では、こうした文化を保護し、相互に尊重する機運を高めることを目的として、登録制度を設けています。
日本からは「伝統的酒造り」のほかに、「能楽」「人形浄瑠璃文楽」「歌舞伎」「雅楽」「和食(日本人の伝統的な食文化)」「和紙(日本の手漉和紙技術)」などが登録されています。

似た制度に「世界遺産」がありますが、世界遺産は建築物や自然などの有形のものを対象としているのに対して、無形文化遺産は技術や表現といった形のない文化を対象としている点が特徴です。
※ ユネスコ(国際連合教育科学文化機関:United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization)とは、諸国民の教育、科学、文化の協力と交流を通じて、国際平和と人類の福祉の促進を目的とした国際連合の専門機関のこと。
「麹」とは?
では、「伝統的酒造り」に欠かせない存在である「麹」とは、どのようなものなのでしょうか。
麹とは、米や麦、大豆などの穀物に麹菌を繁殖させたものを指します。米を使えば米麹、麦を使えば麦麹となります。

麹菌は「コウジカビ」とも呼ばれるカビの一種で、酒づくりをはじめ、日本のさまざまな発酵食品に用いられてきました。日本の食文化には欠かせないものとして、日本醸造学会により「国菌」に認定されています。
麹菌は、原料となる穀物に含まれるでんぷんを糖分に分解する力を持っています。この糖分が、酵母のはたらきによってアルコールへと変わることで、お酒が生まれます。
麹菌の種類には大きく「黄麹菌」「黒麹菌」「白麹菌」の3種類があり、それぞれ異なる特徴を持っています。
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黄麹菌 |
主に日本酒や醤油、味噌などに使われている、日本の食文化には欠かすことのできない菌。もともと日本には黄麹菌しか存在しなかったため、明治時代までは焼酎づくりにも使用されていました。 |
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黒麹菌 |
沖縄県の伝統的な菌で、明治時代になり本土にも導入されました。雑菌の繁殖を抑えるクエン酸を多く生成するため、もろみ※を腐らせにくいのが特徴です。力強い深みとコクのある味わい、キレのよい後味を生み出します。 |
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白麹菌 |
大正時代に黒麹菌の変異種として生まれた菌。胞子が飛び散らず作業性もよいことから、広く普及しました。原料が持つ本来の味わいを引き出し、おだやかで飲みやすいお酒に仕上がる傾向があります。 |
※ 麹に水と酵母、原料を加えた、お酒のもととなる液体。
実はこれら麹菌は、日本をはじめとする温暖多湿なアジア圏にしか棲息していません。麹を用いた「伝統的酒造り」は、日本の気候風土があったからこそ育まれたものなのです。
「伝統的酒造り」によってつくられる日本のお酒
ここからは、「伝統的酒造り」によってつくられる代表的なお酒について見ていきましょう。
日本酒
日本酒は、米を原料とする醸造酒です。蒸した米に種麹※を振りかけて「米麹」をつくり、そこに蒸米と水を加えて酒母(もと)をつくります。できあがった酒母に米麹、蒸米、水を加え、発酵させたもろみを濾したら完成です。多くの場合、黄麹菌が用いられます。
その原型ともいえる、米麹を用いた酒づくりに関する最初の記載は8世紀前半に見られ、この頃には、麹を使った酒のつくり方が広く知られていたと考えられています。
15世紀後半には、現在の日本酒づくりの原型ともいえる、原料を段階的に投入する「段仕込み」や、お酒の保存性を高めるための殺菌方法である「火入れ」などの技術が開発され、日本酒づくりは大きく発展していきました。
※ 麹菌の胞子
焼酎
焼酎は、穀物などを原料とした蒸留酒です。蒸留の技術は古代メソポタミアで生まれ、その後お酒をつくる手段として確立。13~14世紀までに中国と東南アジア諸国に到達し、そこでつくられた蒸留酒が、蒸留技術や製法とともに日本に伝来しました。
日本の焼酎は、使用する蒸留機の違いにより、伝統的な「本格焼酎(単式蒸留焼酎)」と、19世紀に開発された「焼酎甲類(連続式蒸留焼酎)」に分けられます。
多くの本格焼酎づくりでは麹が使用され、黒麹菌や白麹菌が用いられるのが一般的です。
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泡盛
泡盛は、沖縄県でつくられる伝統的な蒸留酒です。15世紀頃、東南アジアと交易を行っていた琉球王国に、シャム国(現在のタイ国)から「南蛮酒」と呼ばれる蒸留酒が伝わり、これが「泡盛」の起源となったという説が一般的に知られています。
本格焼酎と同様に単式蒸留が用いられますが、黒麹菌とタイ米を使用し、原料のすべてを一度に加えて発酵させる「どんぶり仕込み」でつくられる点が特徴です。
みりん
みりんは、もち米、米麹、焼酎などを原料とする混成酒の一つです。発生起源については諸説ありますが、16世紀後半には甘い高級酒として上流階層の間で親しまれていたとされています。
一方、文献上では17世紀後半以降、料理に調味料として用いられる記載が増え、現代の日本でも飲用の酒というより、調味料として使われる場合が多くなっています。
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日本酒、本格焼酎、泡盛、本みりん※の4つは、日本を代表する酒として「國酒(こくしゅ)」に選ばれています。
※ もち米、米麹、醸造アルコールなど酒税法で定められた原料のみを使用した酒類。
「いいちこ」づくりにおける麹
本格麦焼酎「いいちこ」においても、麹は欠かせない存在です。「いいちこ」づくりでは、原料である大麦を使った「大麦麹」がつくられます。
蒸した二条大麦に種麹をまんべんなく振りかけ、「麹室(こうじむろ)」と呼ばれる専用の部屋で丁寧に育てていきます。

麹づくりで特に重要なのが、麹菌を繁殖させるための温度と湿度の管理です。この微妙な環境のコントロールは、蔵人の経験と技術が求められる工程の一つといえます。
麹菌が十分に繁殖すると、大麦の表面が白く毛羽立った状態になり、「いいちこ」の原料となる大麦麹が完成します。

この大麦麹が酵母とともにはたらき、さまざまなうまみや香りの成分を生み出すことで、「いいちこ」に豊かな香味をもたらします。
数ある「いいちこ」シリーズの中には、こうした大麦麹を贅沢に使用した、“全麹づくり”の「いいちこ」があります。
全麹づくりとは、仕込みのすべてを、手間ひまをかけてつくった大麦麹のみを原料として行う酒づくりの方法です。
全量を大麦麹で仕込むことで、かぐわしい香りと、まろやかなうまみをあわせ持つ、飲みごたえのあるお酒が生まれます。
いいちこ日田全麹

一次仕込み、二次仕込みとも大麦麹で仕込んだ、全麹づくりの本格麦焼酎。山紫水明の地として知られる大分県日田市にある「いいちこ日田蒸留所」で醸されています。大麦麹由来のうまみがしっかりと感じられる、濃厚でまろやかな飲み口は、特にコクのある味わいを好む方から支持されています。
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いいちこフラスコボトル

“きれいな酒”を追い求めてつくられた、「いいちこ」の頂点に立つ本格麦焼酎。高精白、低温発酵。そして、大麦麹だけを使った全麹づくり。麹でつくる酒の、技のすべてを傾けました。ロックや水割り、寒い日はお湯割りで。澄んだ香りと麹の豊かなコク、深みが楽しめます。
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「伝統的酒造り」の技が息づく「いいちこ」。
麹を使った酒づくりの奥深さを感じられる一本として、お店で見かけた際には、ぜひ手に取ってみてくださいね。
〈参考文献・サイト〉
・国税庁|ユネスコ無形文化遺産「伝統的酒造り」
・政府広報オンライン|ユネスコ無形文化遺産に登録された日本の「伝統的酒造り」のわざと魅力
・文化庁|無形文化遺産
・文部科学省|ユネスコとは
・金本亨吉・沢田貴幸/著『焼酎語辞典』誠文堂新光社
※記事の情報は2026年2月10日時点のものです。
