お酒を飲むとき、合間に飲む水などの飲み物をチェイサーと言いますが、チェイサーにはどのような効果が期待できるのでしょうか？ 今回はアルコール低減外来のドクターである吉本尚さんと、人生の質を向上させる飲酒のあり方を研究する「やさしい酔い研究会」立ち上げに携わった三和酒類株式会社の研究員・串尾聡之さんに、最新の研究結果から導き出されたチェイサーの効果と上手な取り入れ方についてお聞きしました。
この方々にお聞きしました
吉本 尚（よしもと ひさし）さん
筑波大学医学医療系 准教授。健幸ライフスタイル開発研究センター長。博士（医学）。やさしい酔い研究会メンバー。連載企画「お酒と健康の基礎知識」の解説も。
串尾 聡之（くしお さとし）さん
三和酒類株式会社 三和研究所 アートサイエンスパーク 研究室 ウェルビーイング研究チーム チームリーダー。「やさしい酔い研究会」やアルコール体質検査キット「Nomity」の商品化をサポートするなど、適正飲酒の普及に取り組んでいる。
チェイサーとは？
―そもそもチェイサーとはどのような飲み物なのでしょうか？
度数の高いお酒と一緒に飲む水等の飲み物のことをチェイサーと呼ぶと考えています。お酒をひと口飲んだ後にチェイサーをひと口飲むという具合で、チェイス＝追いかけるが語源だそうです。
日本酒の場合は和らぎ水（やわらぎみず）と言いますが、口の中のアルコール感を和らげる、ウォッシュするという意図もあるのかなと思います。
チェイサーと和らぎ水、どちらが先かといった文献等はないようですが、和らぎ水が言葉通り「水」であることに対して、チェイサーは水だけではありません。バー等ではジュースやお茶、低アルコール飲料等、メインのお酒と相性のよい飲み物が提供されることもあるようです。
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チェイサーには酔いを和らげる効果はある？
―串尾さんはチェイサーの効果について実験し、学会発表も行ったそうですね。実験、研究の結果について教えてください。
はい。大分大学医学部と三和酒類の共同で、チェイサーが二日酔いを緩和するのかをテーマに実験を行いました。やさしい酔い対談①でご紹介したアルコール体質のA型とB型、つまりお酒に強い人に規定量のお酒と水を飲んでもらい、呼気中のエタノールとアセトアルデヒドの濃度などを測定するテストを行いました。
結果、水を飲んでも呼気中のエタノール、アセトアルデヒド濃度にはあまり影響がみられませんでした。
水をたくさん飲んでも、アルコールを中和したり、アルコールの分解速度やアルコールを無害化して体の外に出す速度を速めたりすることはできない、という科学的な見地が検証された実験だったと思います。お酒を飲んでしまった後で、つまり体に入ってしまったアルコールは後からどうにかしようとしても難しい、ということは医学の世界で知られたことですが、それを検証されたということですね。
はい。さらに、この実験の副産物として得られたのが、飲酒直後の集中力を測定するテストで、水を飲んだときのスコアが有意に低かったということです。被験者に話を聞くと「お腹がパンパンで気持ち悪かった」と言うんです。
つまり、実験ですから規定量のお酒と水を飲んでもらいましたが、普通のお酒の席では、水（チェイサー）を飲むことでお腹がパンパンになっていると多量のお酒は飲めない、ということが容易に想像できます。チェイサーの効果はむしろ、水（チェイサー）を飲むことでお酒を飲むペースが落ち、飲酒量が減る、ということではないかという考察を加えています。
おもしろい研究でしたよね。個人的にとても好きです。この研究結果を受けて、私のアルコール低減外来の患者さんにもお酒を飲むときは必ずチェイサーと一緒にゆっくり飲むように、と改めて指導しています。ゆっくり飲めば血中のアルコール濃度の急上昇を防ぐことができますし、チェイサーを飲むことでアルコール摂取量が減りますから、結果として酔いすぎを防ぐことができます。
私がビールメーカーと共同で行った、アルコールを低アルコールまたはノンアルコールに置換する研究では、置き換わっても摂取できる液体の体積容量は変わらないという結果が出ました。つまりアルコールが入っていてもいなくても、飲める液体量は決まっているんですね。串尾さんたちの研究で「水（チェイサー）をたくさん飲んで気持ち悪くなった」というのはそういうことなのでしょうね。
チェイサーにはどんな効果がある？
―チェイサーを摂取することで飲酒ペースがゆるやかになり、飲酒量も減るというのが大きな効果なのですね。そのほかにも効果はありますか？
先ほどご紹介したものとは別の実験で、アルコール度数12度になるように作った焼酎の水割りとお湯割り、25度のストレートを、純アルコール量としては同等になるように飲んだときの呼気中のエタノールとアセトアルデヒドを測ったことがありました。
摂取しているアルコール量は同じなので、どちらの場合も濃度は大きく変わらないという結果だったのですが、酔いの自覚症状に違いがありました。お湯割りや25度のストレートを飲んだときの方が酔っている感覚が強いというデータが出たんです。酔いの感覚には熱感や口の中に残存しているアルコールも影響していると考察しました。
チェイサーはアルコール度数の高いお酒と合わせるもの、と最初にご説明しましたが、チェイサーを飲むことで口の中の残存アルコールが洗い流され、酔いの感覚が軽減できるのではないかと考えています。私自身はアルコール度数がさほど高くないビールを飲むときも水を飲むようにしています。口の中にアルコールが残存していると顔が火照った感じがしますし、酔いを助長するような気がするんですよね。そんなとき、水で口の中を流すと、唾液に含まれるアルコール濃度がぐっと下がります。
そして、味覚のリセット。これもチェイサーの大きな効果だと思います。お酒と食べ物のペアリングを研究されている方は口の中の評価を相当鍛えていらっしゃると思うので、セミプロの私が言うのは少しはばかられるのですが、やはりアルコール度数が高いお酒を飲んでいるときに繊細な味わいの食事をするなら、一回チェイサーで味覚をリセットした方がいいのかなと思います。また、料理の味とお酒の味を組み合わせるペアリングを楽しむ場合も、1つのペアリングを味わった後チェイサーを挟み、次のペアリングを楽しむという形がいいのではないでしょうか。
ペアリングの世界は奥が深いですよね。私の方からもうひとつ挙げるなら、飲酒による脱水をカバーする効果です。アルコールに利尿作用があることは、お酒を飲む方なら体感として分かっていると思います。
お酒を飲むことでどれぐらい脱水になるか、そして水分を摂ることでどれぐらいカバーできるのかということも実はまだ科学的にはよく分かっていない領域ではあるのですが、アルコールを飲むと、水分が尿に排出される量が10～20％程度多くなるのではないか、と言われています。10～20％程度であれば、チェイサーで少しはカバーできると思います。
チェイサーの上手な取り入れ方は？
―健康的にお酒を飲むための上手なチェイサーの取り入れ方があれば、教えてください。
アルコールには利尿作用があるという話の流れで言うと、トイレに行って戻ってきたときはまずチェイサーを飲むと決めておくのもよいと思います。それから、最後はノンアルコール飲料で締めるのが、科学的にも健康にもおすすめです。飲み放題のラストオーダーではついアルコールをたくさん頼んでしまいがちですが、そうすると帰り道で酔いがくるので、ふらついたり転んだりといったリスクが高まりますし、当然全体の飲酒量も増えますよね。
脱水をカバーするという意味で、おすすめの飲み物はありますか？
ノンアルコール飲料であれば、水でもジュースでもお茶でもコーヒーでもなんでもいいと思います。お茶やコーヒーには利尿作用のあるカフェインが入っていますが、大量摂取しなければ脱水にはならないことが知られています。
どんな食べ方、飲み方をしたかにもよりますが、お酒を飲んでばかりで食べ物をほとんど食べていないという場合は、糖分のあるソフトドリンクを最後に飲むと、飲酒による低血糖は多少防げると思います。おいしく飲んだお酒の味を壊してしまうのもよくないと思うので、ご自分の好みに合ったものを選んでください。
吉本先生がおっしゃったように、例えば飲み放題なんかだと最後についついたくさんお酒を頼んでしまいますよね。そうではなく、シメの飲み物はノンアルコールや低アルコールにする、というのをお店側やメーカーが提案するのもとても面白いのではと考えています。おいしく楽しく、そして体にも優しく飲み会を締める一杯、そんなサービスの開発もこれからの酒文化に必要なことだと思っています。ぜひ三和酒類がけん引出来たらと思いますし、私も最前線で関わりたいですね。
それはすばらしい構想ですね。チェイサーの上手な飲み方としてシメに飲むことをおすすめしましたが、最初に飲むのもいいですね。前回の「アルパ飲み」でも、1杯目にノンアルコール飲料を飲む方法をご紹介しました。
そうですね。お酒が好きな人にとって、1杯目に何を飲むかは大事な選択ですが、我慢してノンアルコール、ではなく、おいしいノンアルコール、低アルコール飲料をチョイスすれば、全体の飲酒量はぐっと減ると思います。前回もお話ししましたが、おいしいノンアルコール、低アルコール飲料開発にかける各メーカーの企業努力はすばらしいと思います。
人間とお酒の関係には長い歴史があり、文学や映画などでも多く扱われています。一方で飲酒による健康被害、社会的トラブルなどもあります。いかにお酒とうまく付き合っていくかが大切ですが、自己流ではうまくいかないこともあると思います。酒文化を守りつつ、害の部分を減らしていくには、研究結果などを踏まえて根拠を持って対処方法を伝えていき、健幸*ライフスタイルを確立していくことが必要だと思っています。
*身体の健康だけでなく、心身の健康と共に、人生における幸福を追求する考え方
※記事の情報は2025年6月6日時点のものです。
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