「いいちこ」のポスター、CM、ボトルデザインなどを手がけるアートディレクター河北秀也氏の展覧会が大分県立美術館で開催されます。学芸員の吉田さんに見どころなどをうかがいました。
2月11日からスタート。「イメージの力 河北秀也のiichiko design」
展覧会内容
大分県宇佐市の酒造メーカー、三和酒類株式会社が製造販売するロングセラー商品「いいちこ」。心地よい風景の中に佇むボトルのポスターをはじめ、雑誌広告やCMなど、そのプロモーションをすべて手がけてきたのがアートディレクターの河北秀也です。1979年に発売されてから、九州で少しずつ売上を伸ばしていた「いいちこ」は、河北が作り上げたイメージの力も手伝って、一気に全国に名を馳せるブランドになりました。本展覧会は、一貫した世界観でデザインの本質を提示してきたiichiko designの全貌を紹介するとともに、河北秀也のデザイン思考についても掘り下げます。
河北秀也氏とは?
アートディレクター。1947年福岡県生まれ。東京藝術大学在学中にサクマ製菓「いちごみるく」のグラフィックデザインを担当。1972年に制作した東京地下鉄路線図デザインが正式に採用される。1974 日本ベリエールアートセンター設立。「いいちこ」はポスターのみならず、商品企画、パッケージ、テレビCM、雑誌広告、出版などの企画デザインを手がけている。
開催概要
会期 | 2023年2月11日(土・祝)~3月29日(水) |
開館時間 | 10:00~19:00 ※金・土は20:00まで(入場は閉館の30分前まで) |
会場 | 大分県立美術館 1階 展示室A |
観覧料 | 一般800円/大学・高校生500円/中学生以下無料 |
問合せ先 | 大分県立美術館 TEL:097-533-4500 |
URL | https://www.opam.jp/exhibitions/detail/781 |
関連イベント
講演会 「イメージの力 iichiko designが目指したもの」 講師:河北秀也 (アートディレクター/東京藝術大学名誉教授) | 開催日:2023年2月11日(土・祝) 時間:14:00~15:30 会場:大分県立美術館 1階 アトリウム 参加費:無料 ※要事前申込 |
学芸員によるギャラリートーク | 開催日:2023年2月25日(土)、3月18日(土) 時間:14:00~15:00 会場:大分県立美術館 1階 展示室A 参加費:無料 ※要展覧会観覧券(申込み不要当日参加可) |
三和酒類 特別ブース iichikoをはじめとする商品の試飲や、アルコール体質の理解を深めるブースなどを出展 | 開催日:2023年3月11日(土) 時間:10:00~17:00 会場:大分県立美術館 1階 アトリウム |
iichiko presents ビリー・バンバン コンサート | 開催日:2023年3月11日(土) 時間:14:00開演 会場:iichiko音の泉ホール 料金:一般2000円/U25割1000円(全席指定) |
担当学芸員さんに聞く! 展覧会の見どころは?
展覧会の担当学芸員である大分県立美術館の吉田浩太郎さんに展覧会の内容や見どころについてうかがいます。
―今回の展覧会はどういった内容になるのでしょうか?
吉田 iichiko designの全貌を紹介するとともに、河北さんのデザイン思考についても掘り下げます。「いいちこ」のポスター約70点をはじめ、雑誌広告、地下鉄車内広告、文化学誌「季刊iichiko」、ボトルデザインの展示、CMの上映も行います。「いいちこ」関連作品以外にも、代表作である「地下鉄マナーポスター」などもご覧いただきます。
「いいちこ」ポスターデザインの魅力とは?
―河北さんが「いいちこ」のポスターを最初に手がけたのが1984年。以来1ヶ月に1枚+クリスマスで13点、およそ500点のポスターが制作されました。「いいちこ」と聞くと、あのどこか懐かしくも美しいポスターが思い浮かぶ方も多いのではないでしょうか。
吉田 「いいちこ」のポスターは、地下鉄や新幹線の駅に掲示されていることが多いのですが、大分県の方は自動車で移動されることが多いので、実は地元でありながらあまり触れる機会がないんです。本当にすばらしいものなので、この機会にぜひ大分の方にもご覧いただきたいなと思っています。これだけまとまって展示される機会はまずありませんので。
―通勤などで目にしている方も、約70点が並んでいる様子を見られるのはなかなかない機会ですね。
吉田 「いいちこ」のポスターはこれまでに500点ほど制作されているのですが、今回は厳選した70点をラインナップしています。年代順に並べるのではなく、「花とともに」「水に憩う」「異国の街角で」といったテーマを設けて展示しますので、「いいちこ」の世界観をじっくりご堪能いただければと思います。
―「いいちこ」ポスターを学芸員として見たときに、どんなところが魅力と感じますか?
吉田 見るとホッと癒やされるようなポスターですよね。毎日出勤途中のサラリーマンが心地よい風景を見て癒やされて、それが「いいちこ」のイメージアップにつながり、段々と愛飲者を増やしていったのかなと思います。
―河北さんのインタビュー記事で「『いいちこ』のビジュアルは、脳にしまわれている記憶に響く風景」と表現されていました。商品自体を大きく写さないのは商品広告としてはそれまでになかったやり方ですよね。
吉田 そうですね。商品を大きく写さないことでかえって話題を呼ぶこともあったようです。こうした、これまでにない手法によるプロモーションの効果もあり、「いいちこ」の売り上げは約200倍にもなったそうです。制作はすべて河北さんに一任され、三和酒類の方々は貼り出されたときに初めて見るんだとか。信頼関係があるからこそですよね。
―長い期間、イメージを積み重ねていくというスタイルは、商業デザインの世界に大きな影響を与えているのではないでしょうか。
吉田 そうですね。継続的なデザインを行うブランドも今では少なくないですよね。そういったことも「いいちこ」ポスターの影響かなと思っています。
〈花とともに〉
〈水に憩う〉
―“河北デザイン”の特徴をどう捉えていらっしゃいますか?
吉田 ただおしゃれなデザインやきれいな形を作るのではなく、市場調査なども踏まえてどういった客層に、どういう手法でアピールするかなどを突き詰めて緻密にデザインを設計していく…それが一貫した世界観に基づく普遍的なデザインを作る要因のひとつなのかなと。著書などを読むと、“デザインは生活の中で幸せを追求する手段”というような主旨のことをおっしゃっているのですが、今回の展覧会でそういった河北さんの思いを感じていただけたらと思います。
※記事の情報は2023年1月27日時点のものです。